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白い表紙の中央に書名

書籍名

法学教室ライブラリィ 租税法入門 第3版

著者名

増井 良啓

判型など

378ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2023年12月18日

ISBN コード

978-4-641-22860-3

出版社

有斐閣

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

租税法入門 第2版

その他

2014年3月30日発売 (更新2023年12月)

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1. 本書は租税法の入門書であり、所得課税を中心に租税法の見取図を描くものです。全体を通じた目標は、経済取引を行った場合に課税がどうなるかを考える力を身につけることです。
 
2. 本書では、所得課税を中心に、じっくりと租税法に入門します。その中核は、個人の「所得 (income)」という経済的なプリズムを用いて、いろいろな私的取引の性質を考える作業です。市場で生じる取引に対して「ひと味ちがう」ものの見方をあじわうことになります。「ひと味ちがう」というのは、金銭の時間的価値 (time value of money) とかリスク (risk) とか消費 (consumption) とかいったような、いくつかの基礎的な観念を用いつつ現実の経済取引に接近するからです。
 
租税法は理論的におもしろいだけでなく、実際的にも大きな意味をもちます。なぜなら、人の経済生活には必ずといってよいほど租税が関係するからです。本書では、会社が各種の取引を行った場合に法人税の課税がどうなるかについても、分析しています。これによって、「法人成り」をはじめとする閉鎖的同族会社に特有の問題から、上場会社の活動にともなって生ずる問題まで、日本の経済社会で起きていることに課税の角度から接近することになります。
 
3. 主な読者としては、大学で租税法を学習する方を想定しています。法科大学院で私が担当する「租税法」の授業では、取引を行った場合にどのような課税問題が生ずるかを、事案にそくして検討します。具体的には、法令の条文をあてはめ、判例を読み解く、といった訓練をするわけですが、そのさいに大切なことがらを、本書にまとめています。
 
すなわち、本書の特徴は、租税政策 (tax policy) を意識した簡潔な叙述にあります。租税政策というのは、望ましい税制のあり方に関する政策論のことで、立法論を展開するための基礎となり、個別規定の解釈論を根っこのところで支えてくれます。本書のはしばしに沿革や比較法、初歩的な経済学が顔を出しているのも、租税政策の角度から現行制度をいったん相対化し、いわば「鳥の眼」から日本の租税法を描きたかったからです。
 
このようなねらいをもつ本書は、所得課税を素材としていますが、租税法の全体に対する入門という位置づけの書物になっています。現行法令を隅々まで解説したり、裁判例を網羅したりするようなことは、もとより目標にしておりません。大きな筋を理解することこそが、具体的な場面における問題処理能力を習得する近道だと確信するからです。その意味で、法科大学院だけでなく、学部での学習や、公共政策大学院の租税政策関連の授業にも、役立つところがあるでしょう。もちろん、授業の外でお読みになることも、おおいに期待します。国の財政のあり方が、私たちひとりひとりの市民にとって、現在ほど問われていることはないからです。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 増井 良啓 / 2016)

本の目次

Part1 序 論
 Chapter1 租税法とは
 Chapter2 租税法における公平
 Chapter3 歴史的展開
 Chapter4 法形成過程
 Chapter5 租税法の解釈
Part2 所得税
 Chapter6 所得の概念
 Chapter7 納税義務者
 Chapter8 所得税法のしくみ
 Chapter9 収入金額
 Chapter10 費用控除
 Chapter11 時間とリスク
Part3 法人税
 Chapter12 法人税の基礎
 Chapter13 納税義務者
 Chapter14 法人所得の意義
 Chapter15 益金の額
 Chapter16 損金の額
 Chapter17 同族会社
Part4 展 開
 Chapter18 課税繰延の3類型
 Chapter19 所得区分の実践
 Chapter20 みなし配当の例解
 Chapter21 所得税と相続
 Chapter22 タックス・プランニングの理論
 

関連情報

書籍紹介:
編集担当者から (『法学教室』No.455 2018年8月)
https://www.yuhikaku.co.jp/static_files/BookInfo201808-22753.pdf

書評:
須藤典明「Book Review 租税法の明日を求めて 増井良啓『租税法入門 (法学教室ライブラリィ) 』を読んで」 (『』金融法務事情62巻14号124-129頁 2014年)

韓国語版:
安佐鎮判事の翻訳による『조세법입문』の韓国語版が発売 (박영사 (博英社) 社 2021年2月1日)
http://www.pybook.co.kr/mall/book/field?goodsno=5140

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