東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に第一次世界大戦のイラスト

書籍名

第一次世界大戦と帝国の遺産

判型など

296ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2014年3月

ISBN コード

978-4-634-67234-5

出版社

山川出版社

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第一次世界大戦と帝国の遺産

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日本人にとって第一次世界大戦はなじみの薄い戦争ですが、ヨーロッパ人にとっては第二次世界大戦と同じほどの重い出来事です。1914年から1918年まで続いた第一次世界大戦は、ヨーロッパの社会のあり方を大きく変えることになりました。のみならず、そのとき生じた変化は、日本人を含む世界中の人びとの生活をも大きく揺り動かしたのです。この戦争がもっていた意味は何であり、今日の世界にどのような影響を残したのか。これらのことを明らかにするために研究者仲間とつくったのが本書です。私の知る限り、これは第一次世界大戦を主題とする、日本で最初の論文集のようです。
 
第一次世界大戦は近代産業社会にとって初めての総力戦でした。前線で戦う兵士だけでなく、銃後に暮らす人びとまでも、全力を挙げて戦争遂行に参加することを余儀なくされる状態です。その中で、それまで政治から排除されていた集団 -- 民衆、少数民族、それに女性 -- も戦争遂行の負担を課されるとともに、みずからの政治意識や権利意識を高めました。こうして殺戮と破壊を本質とする戦争が、社会の民主化をも後押しするという逆説が生じました。
 
ただし、第一次世界大戦が人びとの暮らしに与えた変化は広範囲なものですから、ややもすれば様々な側面を総花的に取り上げるだけの分析になってしまいます。そうならぬよう私たちの論集では、「帝国」という単一の切り口を設定しました。政治体制にかかわらず植民地を保有し、広大な領域を支配していれば帝国と考えることにしました。このような切り口を採用した一番の理由は、20世紀初頭の時点で国際秩序の基本単位が帝国であったということが挙げられます。巨大な帝国同士が、多様な住民を動員しながらぶつかりあい、あるものは崩壊し、あるものは勝利者として残るというのが、第一次世界大戦の構図でした。
 
注目すべきは、勝者と敗者の双方にとって、帝国というあり方が戦後にまで尾を引いたことです。第一次世界大戦の前後では大きな変化が生じましたが、連続面もあったのです。イギリスにとって国際連盟は、大戦で揺らいだ帝国支配を立て直すための道具でした。清朝を引き継いだ中華民国にとっては、大戦は帝国時代にやり残した国際的地位の改善のためのチャンスでした。崩壊したハプスブルク帝国の後継諸国では、広域統合の夢が残り、EUにまで至ります。オスマン帝国なきあとの中東では、帝国解体による混乱が今日まで影響を残しています。ロシア帝国はソ連という新しい帝国に生まれ変わりました。
 
こうして「帝国」という観点から、20世紀の始まりに何が生じたのか、何が変わって何が引き継がれたのかを考えてみました。その結果明らかになったのは、大戦までの世界、第一次世界大戦、そしてそれ以後の世界が、重なりあって今日の暮らしに影響を与えているということです。ぜひこの論集を手にとって、100年前の大事件を間近に感じてみてください。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 池田 嘉郎 / 2016)

本の目次

序 章 第一次世界大戦をより深く理解するために (池田嘉郎)
第1章 イギリス帝国の危機と国際連盟の成立 (後藤春美)
第2章 人の動員からみたフランス植民地帝国と第一次世界大戦 (松沼美穂)
第3章 国民国家史におけるドイツの崩壊の意義 (今野 元)
第4章 ポスト・ハプスブルク期における国民国家と広域論 (福田 宏)
第5章 二重性の帝国から「二重性の共和国」と「王冠を戴く共和国」へ (中澤達哉)
第6章 コーポラティヴな専制から共和制の帝国ソ連へ (池田嘉郎)
第7章 オスマン帝国と「長い」第一次世界大戦 (藤波伸嘉)
第8章 中国の不平等条約改正の試みと第一次世界大戦 (小池 求)
第9章 古典教育と黄昏のイギリス帝国 (上野愼也)
あとがき 池田嘉郎

関連情報

関連新聞記事:
『日本経済新聞』2014年1月18日文化面記事「第1次大戦、日本の転機勃発100年、位置付け再考 日露~対米戦 継続性に着目」において、刊行予定として本書の名前が紹介され、編者池田のコメントが掲載された。
 
書評:
1) 『西洋史学』256、2014年、356-359頁 (執筆者 浅岡善治)
2) 『史学雑誌』124(6)、2015年6月、1180-1188頁 (執筆者 小関 隆)
3) 『法制史研究』64、2016年3月、308-313頁 (執筆者 松本尚子)
 

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