東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙の下半分に、大飢饉で苦しむ人たちのイラスト

書籍名

アイルランド大飢饉 ジャガイモ・「ジェノサイド」・ジョンブル

著者名

勝田 俊輔 (編)、 高神 信一 (編)

判型など

400ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年2月29日

ISBN コード

978-4-88708-427-8

出版社

刀水書房

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本書はアイルランド大飢饉 (1845~50) をテーマとする。この大飢饉は農村住民の主食であるジャガイモの凶作を契機として発生し、約5年間に人口の25%以上が死亡・国外流出するなど、アイルランド社会に大きな爪痕を残す惨事となった。また当時アイルランドは英国と連合王国をなしていたため、大飢饉はアイルランド史のみならず「イギリス史」においても重要な意味を持った。さらには、この大飢饉は19世紀ヨーロッパにおける最大級の飢饉でもあり、そしてアイルランドからの国外流出民が大量にグレードブリテン、アメリカ合衆国、カナダを始め世界各地に向かったことも考えあわせると、世界史的な意味を持ったとも言える。


アイルランドにおける歴史認識・歴史研究において大飢饉は重要かつ論争を呼ぶテーマであり、極端な解釈では、大飢饉はグレートブリテン政府が意図的に創り出した食糧不足状態によってもたらされた人災である、とされる。この解釈は、アイルランド共和国社会の歴史認識における「常識」であっただけでなく、アメリカ合衆国でもアイルランド系移民の影響力の強い一部の地域において広まっている。この一方で、歴史研究の側からは、大飢饉時のジャガイモの凶作は天災に等しい現象であり、また当時の連合王国政府は手広く救済策を導入していたこと、死因の多くは餓死ではなく病死だったこと、そして大飢饉の被害にはかなり大きな地域差があったことが指摘されており、大飢饉の原因についての単純な説明は難しくなっている。
 
これまで日本の西洋史学界では、アイルランド大飢饉を正面から扱った研究はなかった。実は西洋史学全体を見渡しても、飢饉一般に関する研究は少ない。本書はこの欠落を埋めることを第一の課題とし、海外での飢饉研究の動向およびアイルランド大飢饉についての最新の知見を紹介する。その上で本書は、独自の試みとして、以下の諸問題を検討することでアイルランド大飢饉の多面的な分析を試みる。(1) 急速な人口増加と農業生産拡大を経験していた19世紀前半のアイルランド経済の構造、(2) 当時全盛期にあった古典派経済学の大飢饉解釈、(3) 政府および民間セクターによって展開された飢饉救済政策の実態と限界、(4) 大飢饉中から急増し、世紀後半以降のアイルランド政治にも重要な影響を与えることになったアメリカ移民の動向、(5) 連合王国体制の解消・アイルランドの独立によって大飢饉に対処しようとしたナショナリズムの動向、(6) 世紀後半に数度の大規模な飢饉を経験したインドにおける飢饉救済政策とアイルランド大飢饉の経験の関連、(7) 文学大国アイルランドにおける大飢饉のモチーフ、(8) 20世紀のアイルランドにおける歴史学・歴史認識と大飢饉研究の位置づけ、である。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 勝田 俊輔 / 2016)

本の目次

はじめに: 勝田俊輔
第一章 アイルランド大飢饉 - 概略と歴史認識:勝田俊輔
第二章 大飢饉とアイルランド経済: 武井章弘
第三章 大飢饉とアイルランド政治: 勝田俊輔
第四章 古典派経済学とアイルランド大飢饉: 古家弘幸
第五章 政府の救済策: 高神信一
第六章 チャリティと大飢饉: 金澤周作
第七章 大飢饉とアメリカ移民のナショナリズム: 高神信一
第八章 インド19世紀後半の飢饉の歴史像―アイルランド大飢饉との関連で: 脇村孝平
第九章 19~20世紀アイルランド文学と大飢饉: ジェーン・オハロラン (勝田俊輔 訳)
第十章 大飢饉の歴史研究と20世紀アイルランド政治: L・M・カレン (勝田俊輔 訳)
あとがき: 高神信一
索引、文献目録

関連情報

書評:
永島剛氏『図書新聞』3264号 2016年07月16日