東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に各十二支を表現した焼き物の写真

書籍名

十二支になった 動物たちの考古学

判型など

216ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年12月

ISBN コード

978-4-7877-1508-1

出版社

新泉社

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十二支になった動物たちの考古学

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どんなに科学技術が発達した今日でも、「今年は子年だね」とか「誰々さんは丑年生まれだから」とか言って、十二支の動物たちは私たちに身近な存在です。
 
十二支は、中国で生まれました。その歴史は大変古く、紀元前16世紀に興った殷の時代に10日を1旬として6旬を周期とする各日の名に「干支」が用いられ、戦国時代 (紀元前403~前221年) 以降には、日付を示すのに加えて年月時刻や方位を表すのに用いられるようになりました。
 
その頃はまだ「子」「丑」という言葉だけでしたが、遅くとも秦代 (紀元前221~前206年) に十二支に「動物」があてられるようになりました。後漢代 (25~220年) に王充が記した『論衡』物勢編には、現在の「十二獣」との対応が明確に認められます。
 
本書は、この十二支というかたちで人と大変身近な動物たちを取り上げ (想像上の「龍」もいますね)、それぞれの動物の利用の痕跡、動物の造形品、動物のことが記された文献など多角的な方面から、人と動物のかかわりの歴史を掘り下げたものです。
 
十二支の動物に関する内容を、いくつか紹介してみることにしましょう。
 
弥生時代は食料としての家畜がいない時代だと考えられていました。ところが、弥生時代のイノシシとされていた頭蓋骨を分析したところ、どうやら飼育していたらしいことが分かってきました。さらに、縄文時代にも飼育をしていた可能性のあることが指摘されていますが、当時たくさんつくられたイノシシ形の土製品がそれを示しているのかもしれません。
 
縄文時代の大きな集落で有名になった青森県三内丸山遺跡で出土した獣骨の4割近くがノウサギであったのには驚かされます。なぜならば、縄文人のおもな狩猟動物はイノシシとニホンジカだったからです。集落が肥大化し人口が大きくなりすぎてイノシシなどへの狩猟圧が高まった結果だと分析されています。
 
和菓子の「羊羹」にはヒツジの字が使われているのはなぜでしょうか。『庭訓往来』(14~15世紀) に点心の一つに羊羹をあげていますが、当時の羊羹は羊肉を用いた羹 (あつもの = 熱いスープ) だったのです。
 
縄文人はサルを狩猟して食べていたことが、貝塚から出土した骨からわかります。サルの土製品もつくりますが、それらは出産の状態をかたどったとされています。各地の山王神社ではサルを安産のお守りにしていますが、サルと出産の関係は古くからのことだったようです。
 
稀代の博物学者、南方熊楠の代表作に『十二支考』という書物があります。古今東西の文献から得た神話や言い伝えなどの知識を総動員した、十二支の動物にまつわる文化史です。それに対して本書は、熊楠がほとんど扱わなかった考古遺物も考察の対象に加えました。この分野は動物考古学というジャンルに属します。考古学は間口の広い学問だということも、本書を通じて実感してもらえれば幸いです。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 設楽 博己 / 2017)

本の目次

はじめに

[子] ネズミ
1 ネズミが語る人の移動 / 2 南洋を航海したネズミ / 3 農耕とネズミ / 4 都市遺跡とネズミ / 5 弥生人とネズミ / 6 縄文人とネズミ

[丑] ウシ
1 ウシの家畜化 / 2 ウシと古代人 / 3 描かれた牛 / 4 牛車の世界

[寅] トラ
1 殷周青銅器の虎意匠 / 2 古代中国北方の虎意匠 / 3 臥せた虎と闘争紋 / 4 虎意匠の渡来とその後 / 5 トラと日本人

[卯] ウサギ
1 歴史の中のウサギ / 2 旧石器時代人とウサギ / 3 雪国のウサギ猟 / 4 縄文人とウサギ / 5 ノウサギと環境

[辰] タツ
1 龍の発祥 / 2 漢代の龍 / 3 日本列島への龍の渡来 / 4 龍と王権 / 5 井戸と龍 / 6 龍の文化史

[巳] ヘビ
1 縄文の蛇信仰 / 2 中国北方の剣と蛇 / 3 蛇から鋸歯文へ / 4 蛇意匠の継承と伝来

[午] ウマ
1 ウマと文明社会 - 戦車の始まりはウマだった - / 2 古代日本人とウマ / 3 ウマと信仰 ─絵馬に至るまで─

[未] ヒツジ
1 羊の伝来 / 2 ヒツジの家畜化 / 3 湾曲する角 / 4 ヒツジの飼養 / 5 祥羊 / 6 祥・不祥 / 7 古代日本の羊

[申] サル
1 サルの造形にみる縄文人のこころ / 2 食料と呪術に関するサルの役割 / 3 聖なる仲介役としてのサル

[酉] トリ
1 酉 / 2 アジア生まれのニワトリ / 3 造形のはじまり/ 4 古墳の鶏 / 5 鶏形埴輪 / 6 闇に佇む鶏 / 7 辟邪の鶏 / 8 鶏の象形

[戌] イヌ
1 イヌは大切なパートナー / 2 食肉用の家畜となったイヌ / 3 大切にされるイヌと食べられるイヌ / 4 多様化するイヌたち

[亥] イノシシ
1 イノシシ類とのつきあいの始まり / 2 弥生ブタの登場 / 3 本州~九州と北海道・沖縄におけるイノシシ類 / 4 江戸のイノシシ類

<解説> 動物考古学の今
1 動物考古学と生態学的アプローチ
2 戦前日本の生態学的研究
3 戦後日本の生態学的研究
4 本書の構成とあらまし

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