東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

上部に韓国語のテキストパターン、薄いモスグリーンの表紙

書籍名

韓国農村社会の歴史民族誌 産業化過程でのフィールドワーク再考

著者名

本田 洋

判型など

488ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年10月30日

ISBN コード

978-4-894-89233-0

出版社

風響社

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韓国農村社会の歴史民族誌

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本書は、著者自身が1980年代末の韓国の農村で実施した社会人類学的フィールドワークの資料を、17世紀以来の儒教的小農社会の長期持続的様相と近代 / 植民地経験、ならびに1960年代半ば以降の産業化過程での社会経済的諸状況の変化が交錯するなかでの人々の流動的な生き方の実践として記述・分析しなおすことにより、1980年代までの韓国農村社会研究と産業化後の都市社会の民族誌とのあいだに生じた断絶・乖離の架橋を試みた著作である。本書では、特に家族を基盤とした再生産戦略、すなわち生計維持と社会的生存の諸戦略と、村落コミュニティの再生産過程とに焦点をあわせ、1980年代末の農村に暮らす人たちの生き方の編成と再編成を、社会経済的な変化・流動のなかで生計維持の方策を模索し時には社会上昇を目論みつつ、決して安定することのない暫定的な均衡を更新し続ける創発的実践として読み解くことに叙述の重点を置いた。この再分析 = 再記述の試みは、一方で社会統合やある種の構造的規制 (あるいは伝統社会の自律性) を前提とした古典的な農村社会の民族誌を批判的に読みなおしつつ著者が経験した農村の事例と対照する作業であり、また他方では、農村に暮らす人たちが急激な産業化と都市化のなかで試行錯誤的に展開してきた生き方を主体的な戦略として捉えなおす作業であった。
 
本書は、序論・I部 (1~4章)・II部 (5~7章)・III部 (8・9章)・結論の構成をとる。まず序論で韓国農村における家族と村落コミュニティを本来的に暫定的な均衡を志向する関係性として捉えなおし、これに基づいてI部では家族と村落コミュニティの長期持続的諸様相と農村住民の近代 / 植民地経験、II部では産業化過程での再生産条件の変化と家族の再生産戦略の再編成、そしてIII部では産業化過程でのコミュニティ的関係性 (あるいは平等的共同性) の再生産と孝実践の再編成を論じた。1980年代末の調査村での参与観察・世帯調査とインタビューに加え、住民のライフヒストリーや手記、植民地期の村落結社文書等を直接の資料として用いて家族と村落の動態的均衡性とその揺らぎを実証的に究明し、またこれと併行して17~19世紀の朝鮮半島農村社会に関する社会経済史・歴史人類学的研究、ならびに近現代の行政・統計資料を持続性と変化という観点から分析しなおすことによって、歴史民族誌 (すなわちフィールドワークの資料の現在化 = 歴史化) としての厚い記述分析を試みた。本書は、農村社会研究と都市民族誌の間隙を埋める民族誌的実践としてだけでなく、近代化・産業化過程での持続性を基調とした創発的な実践についての民族誌的考察としても意義付けしうると考える。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 本田 洋 / 2016)

本の目次

まえがき
序論
I部 農村社会の長期持続とYマウル住民の生活経験
  1章 小農社会の社会単位としての戸と村落
  2章 在地士族の拠点形成と地域社会
  3章 植民地期の農村社会
  4章 農村住民の近代 / 植民地経験
II部 農村社会における家族の再生産と産業化
  5章 農村社会における家族の再生産
  6章 産業化と再生産条件の変化
  7章 家族の再生産戦略の再編成
III部 産業化と農村社会
  8章 産業化と村落コミュニティの再生産
  9章 孝実践の諸様相
結論
あとがき
 

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