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濃い赤の表紙に北東アジアの風景や人の写真

書籍名

変容する華南と華人ネットワークの現在

著者名

谷垣 真理子、 塩出 浩和、容 應萸 (編)

判型など

506ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2014年2月20日

ISBN コード

978-4-894-89193-7

出版社

風響社

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変容する華南と華人ネットワークの現在

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本書は科学研究費補助金 基盤 (C)「華南地域社会の歴史的淵源と現在」(2007年度~08年度) と同 基盤 (B)「北東アジアから東南アジアを結ぶ華人ネットワークについての研究」 (2009年度~11年度) の成果をとりまとめた論文集である。
 
編者3名は1980年代半ばにはお互いのことを知っており、1988年から開催された広東研究会 (塩出が主催) に参加した。共同研究を始めたのは、日本における中国研究が北方中心であるという3名の思いからであった。東北地域および、北京・天津を中心とする華北地域、上海を中心とする華東地域などについては、地域名を冠する著作がある。しかしながら、華南については重厚な実証研究があるものの、華南研究というくくりはそれほど明確になっていなかったように思えた。
 
最初のプロジェクトは編者3名が中心となり、日本における華南研究の重要性を強調した。当該プロジェクトは華南地域を単純和ではなく、地域的な文脈のなかで有機的にとらえようとした。現在進行形で華南地域の一体化は進んでいたが、当該プロジェクトは現状にのみ関心を持つのではなく、その歴史的淵源をさぐることをつよく意識した。
 
後続のプロジェクトは、華南をより広い地域的文脈のなかにおいて理解しようとした。具体的なきっかけは、日本華僑華人学会の特別研究会で、2008年に函館の中華会館を訪問したことであった。長崎を経由して函館の地まで華南のネットワークが歴史的に延伸していたことを確認した。同時に、ロシア極東連邦総合大学函館校の存在や、案内標識のロシア語併記を見て、函館という土地で華南のネットワークが他の北東アジアのネットワークと出会う可能性を目のあたりにした。
 
とはいうものの、華南研究者主体のプロジェクトで、どこまで「北東アジアから東南アジアまで」を視野に入れられるかは冒険であった。駒場の学術ネットワークを活かし、後続プロジェクトには、東南アジア研究者のほかに、ロシア研究者や北海道華僑研究者、さらに琉球華僑の研究者にも参加してもらった。また、プロジェクトが仲間内の議論に終わらないように、海外の研究者との交流に力を入れた。
 
本書はこうしたふたつのプロジェクトの研究成果を世に問うものであり、現段階での華南研究の日本におけるひとつの到達点をあらわすものである。
 
本書の最大の特徴は、華南という地域を関係性においてとらえたことである。ロシア極東、アラスカまでの地域をとりあげたことで、華南のネットワークがより多様であることを指摘している。一見関連性の薄い「北東アジアから東南アジアまで」であるが、歴史的には戦前、南洋や旧満州において現実性のあった組み合わせであった。
 
なお、本書は華南研究の最新動向を提供することを目指した論文集であるが、同時に、華南研究の今後の発展のために、華南という地域に興味を持った学生が、卒業論文や修士論文を作成する際に役立てられるように編集を工夫した。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 谷垣 真理子 / 2017)

本の目次

まえがき

●第1部 華南地域論

返還後の香港 -- 中国内地との関係に注目して (谷垣真理子)

中国の海洋意識が大陸文化と遭遇するとき -- 閩南人の海洋発展を事例として (荘 国土 / 杉谷幸太 訳)

香港とマカオ、珠江デルタにおける地域協力 (陳 広漢 / 崔 学松 訳)

華南研究 -- 歴史人類学の実践について (程 美宝 / 土肥 歩 訳)

江西と東南アジア -- 真空教と帰国華僑を中心に (飯島典子)

●第2部 北東アジアを舞台にしたネットワーク

コンブの旅とコンブ革命 -- ロシア極東、日本列島、中華世界 (神長英輔)

樺太華僑史試論 (小川正樹)

歴史認識のネットワーク化へ -- 北海道~北東アジア~アラスカ先住民の生存の三〇〇年 (坂田美奈子)

北東アジアにおけるエスペラント運動と国際連帯活動 (崔 学松)

中日韓安全保障戦略協力と北東アジア安全保障体制の構成 (魏 志江)

●第3部 変容する広東

広東 -- 急速な発展における挑戦と矛盾 (鄭 宇碩 / 石塚洋介 訳)

珠江デルタの地域一体化 -- 経済社会の改革と発展を中心にして (毛 艶華、楊本 建 / 伊藤 博 訳)

高等教育における香港と中国の一体化 -- 香港の大学による中国内地学生の受け入れに着目して (日野みどり)

三灶島の人々 -- 日本、台湾、沖縄の人々との邂逅 (和仁廉夫)

分断される琉球華僑社会 -- 第二次大戦から沖縄返還にかけての時期を中心に (八尾祥平)

●第4部 人がつなぐネットワーク

地域的キリスト者家族からグローバル家族への展開 -- 華南の関・容・張三家族の場合 (容 應 萸)

海南島における海外交通と回族の形成 (廖 大珂 / 小池 求 訳)

マカエンセという人々 --「中国の少数民族」もしくは「マカオ人」として (内藤理佳)

心の地図を描く -- 疾走する周縁への旅:マカオ、そして珠海 (塩出浩和)

あとがき

索引

関連情報

書評:
『華僑華人研究』第11号 (2014年) に松村智雄氏が書評論文を掲載
http://www.jssco.org/kaishi.htm#2014

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