東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙の背景に、本のシリーズ名がピンク色の書体でデザインされた表紙

書籍名

シリーズ・21世紀の地域 (1) インターネットと地域

著者名

荒井 良雄 (編)、箸本 健二 (編)、 和田 崇 (編)

判型など

204ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年3月30日

出版社

ナカニシヤ出版

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

インターネットと地域

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情報・通信技術の発達がわれわれの社会のありようを急速に変える、いわゆる「情報革命」は、1990年代後半以降、インターネットの普及・定着にともなってあらたな展開をみせつつある。これについて、世界の「情報の地理学」の研究者は、地理的なデジタル・デバイドの問題、インターネット上に作り上げられた仮想的な世界であるサイバースペースの誕生などを指摘してきた。いっぽう、日本では、地域政策・地域振興のツールとしてのインターネットという側面に関心が向かってきた。日本における地域情報化の取組みは、1990年代までの通信インフラの整備を主目的とする段階 (アクセシビリティ) から、2000年代以降には通信インフラの利活用を通じた地域振興を主目的とする段階 (アダプタビリティ) へと移行してきた。
 
こうした状況を踏まえて、本書では、インターネットの普及・定着が進んだ21世紀初頭の日本の諸地域におけるインターネットと、その上に蓄積され流通する情報を活用したさまざまな地域情報化プロジェクトの報告を通じて、インターネットと地域にかかわる多様な実態を浮き彫りにしようした。第I部では「インターネットの基盤整備と地理的情報格差」をテーマとして、地方行政の再編と地理的デジタル・デバイドに着目し、情報へのアクセシビリティの観点から、日本のさまざまな地域におけるインターネット基盤整備の実態と課題を報告している。これに続く第II部では「インターネットを利用した地域・産業の構築」をテーマとし、地域情報化プロジェクトを取り巻く地理的・社会的文脈を取り上げて、日本の各地における地域情報化プロジェクトの実態を描き出している。最後の第III部では「生活者のインターネット利用とオンライン・コミュニティ」のテーマの下に、サイバースペースとリアルスペースの相互関係などに目を向けて、情報をいかに利用するかというアダプタビリティの観点から、生活者によるインターネット利用の実態と彼らがつくるオンライン・コミュニティの内実を浮き彫りにしている。
 
本書で扱われているテーマはいずれも、インターネットとそれを活用した取組みが地表上の空間的位置や社会生活と無関係ではなく、つとめて地理的であることを示すものである。インターネットは、日進月歩で技術改良が進み、次々とあらたなサービスが提供されている。そのため、本書で取り上げた事例の中には、インターネットをめぐる最新動向からみれば、やや古いものがあるのも事実である。しかし、本書が、インターネット時代の地域のありようを読み解き、今後を展望するうえでのなにがしかの手がかりを示すことを期待している。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 荒井 良雄 / 2016)

本の目次

序章 インターネットと地理・空間
第I部 インターネット整備と地理的デジタル・デバイド
 第1章 地域情報化政策の変遷と地方行政広域化の下での課題
 第2章 条件不利地域における地理的デジタル・デバイドとブロードバンド整備
 第3章 低人口密度地域におけるブロードバンド整備と事業所のネット利用
第II部 インターネットを利用した地域・産業の構築
 第4章 インターネットによる地方自治体の情報発信
 第5章 地場産業振興とインターネット: 高齢者アグリビジネス「いろどり」の事例
 第6章 商店街におけるウェブサイトの開設と活用
 第7章 医療分野におけるICTの利用
第III部 生活者のインターネット利用とオンライン・コミュニティ
 第8章 子育て世帯の「情報戦争」とインターネット
 第9章 芸術・文化鑑賞者の行動特性とインターネット利用の実態
 第10章 まちづくりにおけるインターネット利用

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