東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に球体がパズルになったイラスト

書籍名

よくわかる認知行動カウンセリングの実際 面接の進め方とさまざまな感情への応用

著者名

ピーター・トローワー (著)、ジェイソン・ジョーンズ (著)、ウィンディ・ドライデン (著)、アンドリュー・ケーシー (著)、 石垣 琢麿 (監訳) 、古村 健 (訳)、古村 香里 (訳)

判型など

276ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年2月8日

ISBN コード

978-4-7608-3614-7

出版社

金子書房

出版社URL

書籍紹介ページ

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よくわかる認知行動カウンセリングの実際

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『人間は出来事自体によって苦しむのではない。それをどのようにとらえるかによって苦しむのだ』(2世紀の哲学者エピクテトス)。この言葉が、本書で扱う「認知理論」の中核的概念を端的に表している。
 
1970年代にアメリカの精神科医アーロン・ベックは「認知理論」に基づき、うつ病に対する「認知療法」を創始した。「推論の歪み」に着目したこの治療法の有効性は様々な形で実証されている。その後、認知療法の対象は不安症、依存症、統合失調症などの精神障害だけではなく、ダイエットや性犯罪など多方面に広がり、認知療法という名称も「認知行動療法」へと変化した。一方、ベックと同時期に活躍したアメリカの心理学者アルバート・エリスも「認知理論」に基づき「論理情動行動療法」を創始した。彼は「極端な評価」という不合理な認知に注目することで、過剰な反応を理解し、修正する方法を創始した。本書の著者たちは、このベックとエリスの理論と実践を統合し、1988年に「認知行動カウンセリング」第1版を発表した。なお、著者たちは、現在でも論理情動行動療法のトレーナーとして活躍しているように、エリスの影響をより強く受けていると考えてよい。
 
本書は、2012年に出版された「認知行動カウンセリング」第2版の全訳である。第1版から20年以上が経過したが、その間に認知行動療法にまつわるさまざまな混乱が生じていると著者らは指摘する。先述のように、認知行動療法が対象を多様化させる流れのなかで、この治療法の重要な中核や基礎が見失われているのではないかと著者たちは憂えている。この問題を克服するために、ベックとエリスの治療理論をあらためて概観、整理すること、認知行動療法の近年の発展についても触れたテキスト兼実践ガイドを開発すること、の2点を目的として執筆されたのが本書である。本書は、「軽度から中等度の心の問題」という但し書きは加えられるものの、ネガティブな感情全般に関する認知行動療法実践マニュアルとして位置づけることができる。
 
また、著者の一人ピーター・トローワーが著した統合失調症の治療マニュアル「幻声・妄想・パラノイアへの認知行動療法」は1997年に発表され、現在では統合失調症に対する心理的介入の必須テキストの一つになっているが、本書の内容はそこで解説されている介入技法の基礎となっている。なお、この治療マニュアルも我々が2012年に邦訳を出版している。
 
本書が出版されたことで、著者たちの手による、軽度から重度の心理的苦痛や精神障害に対する認知行動療法の重要なテキストが出そろったことになる。認知行動療法に関して、日本はまだまだ諸外国から学ばなければならないことが数多くある。その日本において、本書は基礎となる理論と実践を、具体的かつ包括的に理解するための良きガイドとなるだろう。また、今後、臨床実践マニュアルを日本から発信する際のモデルにもなるという点からも貴重な書籍だと考えられる。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石垣 琢麿 / 2017)

本の目次

監訳者まえがき
1 認知行動カウンセリングとは?

パートI 認知行動カウンセリング基礎ガイド
  2 基礎ガイドの構成と概要
  3 準備段階I 緊張をほぐす: スクリーニング・初回面接・関係づくり
  4 準備段階II 認知行動カウンセリングはあなたの役に立ちますか?: 初回面接と治療関係
  5 初期段階I 問題の具体例を教えてください: 認知アセスメント
  6 初期段階II 私たちの目標は?: 目標設定
  7 中期段階I 現実的になること: 推論への介入
  8 中期段階II ホットな思考を変えること: 評価への介入
  9 中期段階III イメージを書き換える
  10 中期段階IV 定着化: 面接構造
  11 終結段階 クライエントが自分のカウンセラーになるための指導

パートII さまざまな感情への応用
  12 不安
  13 うつ
  14 怒り
  15 恥と罪悪感
  16 傷つき
  17 嫉妬
  18 おわりに

付録 認知行動カウンセリングのためのクライエントガイドと記入用紙
  付録1 準備ガイド
  付録2 アセスメント・目標設定ガイド
  付録3 介入ガイド

引用文献
索引
監訳者あとがき

関連情報

書評:
今村扶美 評 (国立精神・神経医療研究センター病院 医師) 『臨床心理学』 第16巻第4号 pp504-505、2016 金剛出版
 

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