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書籍名

早稲田大学現代政治経済研究所研究叢書 40 メディアは環境問題をどう伝えてきたのか 公害・地球温暖化・生物多様性

著者名

関谷 直也 (編著)、 瀬川至朗 (編著)

判型など

338ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年4月15日

ISBN コード

978-4-62-307363-4

出版社

ミネルヴァ書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

メディアは環境問題をどう伝えてきたのか

1980年代後半から2000年代に至るまで、気候変動を中心として地球環境問題は、冷戦後の世界において中核的な問題であった。そして、それらはメディア、ジャーナリズムにおける大きな議題となっていった。本書は、1960年代後半の公害問題、1980年代後半以降の地球環境問題に対する関心の高まりなどをきっかけとして、研究がすすめられてきた内外の「環境問題に関するメディア、ジャーナリズム」研究を概観し、その新たな研究視座を示す。サイエンスコミュニケーション、リスク研究などの隣接領域も含めた環境問題とメディア、ジャーナリズム研究の概観、環境問題とメディア、ジャーナリズムの研究の先行研究の概観、日本国内における公害報道、日本国内における地球環境問題の報道、東日本大震災後の環境報道の変化、放射性物質汚染に関する報道について概観した後、日本の地球温暖化報道の分析、NGOと報道の関係、メディアと政策の関係、生物多様性などテーマについて論じる。
 
公害問題、環境問題は1960年代後半以降、報道で常に取り上げられるジャンルである。だが、政治や経済、外交、スポーツなどとは異なり、報道する専門の部署があって、毎日、報道されるジャンルというわけではない。ただし完全に偶然に依存するという訳でもない。1970年前後や1990年前後、1997年前後など、環境問題に関連するイベント、潮流と関連づけて報道される時期があった。また社会部だけではなく、政治部、経済部、科学部など様々な部署の記者が取材した。2000年代に入り環境問題に関連した広告やPRなどが盛んになってくると芸能関係やスポーツ新聞などでも取り上げられ、従来の区別を横断する特殊なジャンルとなっていった。
 
メディア研究、ジャーナリズム研究は、具体的に報じられたもの、描かれたものが研究対象である。ゆえにメディア、ジャーナリズムはその時々、時代時代において、関心対象、トピックを変えていく。メディア研究、ジャーナリズム研究は、元来、社会的関心、特定のトピックから切り離せないイッシュー・オリエンテッドな研究である。環境問題というシングルイッシューに注目し、長期間におよぶその変遷の総過程を扱うということは、いかにメディアにおいて社会問題そのものの問題提起がなされるか、その限界は何かという点を解明しようという試みであるといってもよいのである。そして対象が絞られているからこそ情報源、送り手、内容、受け手というメディア、ジャーナリズムの総過程が分析可能であり、またメディア、ジャーナリズム研究に対して新たな視座、切り口を提供するのである。
 

(紹介文執筆者: 情報学環・学際情報学府 特任准教授 関谷 直也 / 2017)

本の目次

  第I部 環境メディアの理論と歴史
第1章 環境メディア研究の周縁とメディア・アジェンダ
 1 環境問題とメディア / ジャーナリズム研究
 2 環境報道の実態論的アプローチ -- 環境問題の構築過程と影響過程
 3 メディア / ジャーナリズムにおける「環境問題」の影響過程
 4 環境報道の規範論的アプローチ -- 四つの規範
 5 環境メディア研究における今後の課題
第2章 公害問題とジャーナリズム -- 1970年の意味
 1 戦後の環境報道 -- ビキニ事件と本州製紙江戸川工場暴動事件
 2 第一期公害キャンペーン報道
 3 第二期公害キャンペーン --「1970年」という契機
 4 報道キャンペーンの内実 --「疑わしきは罰す」論調と不偏不当性の失墜
 5 環境庁記者クラブの発足と「自然保護」報道への移行
第3章 地球環境問題とジャーナリズム -- 客観・バランス報道は何をもたらすのか
 1 公害問題から地球環境問題へ
 2 取材経験からみる地球環境報道の変遷
 3 ジャーナリズムの規範から見た地球環境報道
 4 地球環境報道の課題と求められる原則
 5 環境ジャーナリズムの変革に向けて
第4章 3.11後の環境ジャーナリズム -- 地球温暖化報道はなぜ後退したのか
 1 京都議定書以降の地球温暖化問題
 2 京都議定書以降の地球温暖化報道の特徴
 3 3.11前の地球温暖化報道 -- 関心はいつから低下したのか
 4 3.11後の地球温暖化報道 --「温暖化」と「エネルギー」の逆転
 5 「地球温暖化と原発」に対する全国紙の態度
 6 地球温暖化報道 -- 何が求められているか
第5章 放射性物質汚染とジャーナリズム
 1 東京電力福島第一原子力発電所事故の特徴
 2 直後の原子力事故報道への批判
 3 「健康への影響」に関する報道
 4 「放射線量」の報道
 5 議題の多様性
 6 放射性物質汚染と消費行動 -- いわゆる「風評被害」の問題
 7 「放射性物質汚染報道」研究の必要性

  第II部
第6章 「輸入された」地球温暖化問題 -- 社会的な構築過程に見る外からの影響
 1 社会問題としての地球温暖化
 2 社会問題とは何か?
 3 地球温暖化が社会問題になるまで
 4 国際政治のアリーナでの注目
 5 外からの圧力による社会問題化
第7章 地球温暖化へのメディア・アテンション -- 科学より重視される政治
 1 メディアの注目
 2 記事内容とソース
 3 科学より政治に注目
第8章 環境NGOとメディア -- 気候変動法の制定過程におけるFoE UKのコミュニケーション戦略
 1 「気候変動法」の制定と環境NGOのコミュニケーション戦略
 2 The Big Askキャンペーンの背景・前期
 3 The Big Askキャンペーン・後期
 4 環境NGOのコミュニケーション戦略の検証と考察
第9章 気候変動におけるメディアと政策のはざま -- ガバナンスの視座から再考するメディア言説の政治性
 1 「人為紀」としての気候変動 -- 近接する政治とメディア
 2 気候科学のメディア表象のポリティクス——米国・欧州・日本
 3 グローバルとローカルの境界——ナショナル化される気候変動
 4 "分断" を超えて -- メディアと政策の統合への課題
第10章 COP10・生物多様性の報道を振り返る --「地球生きもの会議」の不都合な真実
1 「地球生きもの会議」と国益の交渉のはざまで
 2 気候変動と生物多様性の交渉に関わる過去の分析から
 3 記事に関する定量的結果
 4 記者へのヒアリングの定性的結果
 5 COP10報道を振り返って見えてきた「不都合な真実」