東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

表紙に東アジアの地図のイラスト

書籍名

アジア比較社会研究のフロンティアIII 連携と離反の東アジア

判型など

276ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2015年3月30日

ISBN コード

978-4-326-65392-8

出版社

勁草書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

連携と離反の東アジア

英語版ページ指定

英語ページを見る

イギリスのEU脱退 (いわゆるBrexit) をめぐる問題が世界的に注目されています。これもイギリス国民がEUという地域統合体をどのように理解し、どのような将来を選択するかが、イギリスばかりか広くヨーロッパ、世界全体に大きな影響を与えるからです。
 
アジアに目を転じてみると、「ASEAN+3」や「東アジア共同体」といったアジアの地域統合をめぐる議論は行われていますが、多くの学生諸君にはピンとこないかもしれません。こうした地域統合のためのニーズがどこにあり、自分たちの生活とどのように関係するかがわかりにくいからです。実際、アジアの地域統合をめぐる議論は、ほとんどの場合、国際政治や外交、国際経済の専門家によって担われ、これを人びとがどのように理解しているかといった「市民」「社会」の視点は圧倒的に欠落していました。
 
2008年、編者が早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の教員をしていた際、グローバルCOEプログラム「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」を主導していたのですが、以上のような問題意識から、アジア各国を代表する大学で学ぶエリート大学生 (これに本学の学生も含まれます) を対象にした大規模調査 (これをアジア学生調査と呼んでいます) を実施しました。ところが編者が早稲田を去るとアジア学生調査のデータはそのままとなり、フォローアップがされないままとなっていました。
 
そこで最初の調査が実施されてから5年たった2013年に、本学と早稲田の学生諸君に声をかけ (本学の場合、授業というツールを使ったのですが)、第二波調査を行うプロジェクトを進めることにしました。文学部社会学科の学生を中心に20名を超える学生諸君が集まり、第一波調査の質問票の検討から始め、質問票の設計からデータの収集・入力まで、すべて学生諸君が行いました。本書は、その結果得られたデータをテーマ別にまとめた論文を集めたものです。
 
本書で扱われているテーマはまちまちです。中国の台頭がどのように学生に認識されているかといった時事問題に近いものから、留学や就職をどのように考えているかといった学生のキャリア選択に関するもの、ソフト・パワーや地域統合をめぐる意識といった国際政治に関するものなど、問題関心はバラエティーに富んでいます。しかしその背後に、アジアが果たして地域としての一体感を増すことになるかどうかといった、共通の問いが潜んでいます。これも編者と学生諸君が厳しいやり取りを、何度もやってきたからです。
 
アジアの9つの国・地域、18の大学から4300を超すサンプルを集め、3度の国際会議に参加し、最終的に本書に寄稿する論文を執筆した学生諸君の多くは学部生です。学部生でも鍛えればこうした論文が書けるのだということを、読者の方々に感じ取っていただければ、編者も教師冥利に尽きるというものです。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 園田 茂人 / 2016)

本の目次

序章 アジア地域統合研究への社会学的アプローチ  園田茂人
第1章 中国の台頭はアジアにどう認知されているか  園田茂人
第2章 東南アジアの対日・対中認識  向山直佑・打越文弥
第3章 越境する中国への受容と反発   木原 盾・上野雅哉・川添真友
第4章 英語化するアジア?  井手佑翼・寶麗格
第5章 アジアの域内留学は活発化するか  西澤和也・田代将登
第6章 日系企業を好んでいるのは誰か  園田 薫・永島圭一郎
第7章 ジャパン・ポップはソフト・パワーとして機能するか  町元宥達
第8章 東アジア共同体成立の心理的基盤を探る  園田茂人
第9章 学生の意識にみるアジア統合の展望  麦山亮太・吉川裕嗣

関連情報

『日本経済新聞』2016年5月3日の書評
「アジアの人々が『みずからの過去や、現在、未来をどのように眺めているか』を、9つの国・地域のエリート大学生たちへのアンケートによって探ろうした研究の成果。中国の台頭をどうとらえるのか、日系企業を就職先としてどうみているか、といった問いを通して導き出されるのは、アジアの地域統合について『現時点では必ずしも明るい希望を思い描くことができない』との結論だ」
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています