東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

赤い表紙に、「市場としての中国をどのように捉えるべきか」と帯にコメントあり

書籍名

チャイナ・リスクといかに向き合うか 日韓台の企業の挑戦

著者名

園田 茂人 (編)、 蕭 新煌 (編)

判型など

288ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2016年3月8日

ISBN コード

978-4-13-040275-0

出版社

東京大学出版会

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チャイナ・リスクといかに向き合うか

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めざましい経済成長を遂げ、世界的なプレゼンスを大きくしている中国。その市場での成功を求め、多くの外資系企業が中国に進出しています。中でも、日本、韓国、台湾といった周辺地域の対中投資はこの20年ほどの間に急増し、日中、中韓、中台の経済関係は大きく変化しました。
 
では、進出した先の中国で、これらの企業はどのような困難に直面し、これをどのように乗り越えようとしているのでしょう。中国は「社会主義市場経済」という独自な政治経済体制を敷いていますが、そこで企業はどのようなリスクを感じているのでしょう。急速に発展する中国の市場をこれらの企業は、どのように理解しているのでしょう -- これらの問いを発してわかるのは、日本、韓国、台湾の対中進出をめぐる研究は、それぞれの「国境」によって分断され、相互を横睨みする比較研究が圧倒的に少ないという事実です。日韓台の研究者は、それぞれに自国の企業の対中進出に関心をもってきてはいても、これを比較する試みが圧倒的に欠如していたのです。
 
この本は、2000年に始まる調査プロジェクトの成果をとりまとめたものです。2001年と2010年の2度にわたり実地調査を行い、日韓台の企業で働く駐在員や現地従業員の特徴を炙り出しました。そして、その結果を数年にわたって検討し、日韓台の研究者がそれぞれの知見をまとめた結果が収録されています。
 
研究を進める過程で、いくつかの「謎」が浮かび上がってきました。韓国の大企業幹部には対中進出リスクはあまり強く意識されず、むしろこれを自社の成長にとってのチャンスだと捉える傾向が強く見られました。これに対して日本企業や台湾企業は、どちらかといえばリスクを警戒しながら進出しているといった雰囲気が強く見られます。日本企業は、中国国内のことは中国人に任せるしかないといった姿勢が一般的なのに、韓国企業は駐在員自身が中国語を学び、現地経営に強くコミットしています。中国の現地政府ともっともネットワークを作っているのも、台湾人ビジネスマンではなく韓国人ビジネスマンです。
 
なんでこんなことが起こっているのでしょう? 1950年以降、日本は中国と直接的な戦争をしていませんが、韓国は中国の人民解放軍と朝鮮戦争の際に戦っています。こうした「戦争の記憶」がビジネスに影響を与えていても不思議ではないのですが、韓国企業の駐在員から、こうした話を聞いたことはありません。
 
比較研究は、複数の対象を比較して終わり、ということはありません。そこに見られる共通点と相違点を精査し、特に、どうしてこうした相違が生まれたのかを首尾よく説明する必要があります。そのためには先行研究を批判的に検討しつつも、絶えず研究パートナーと意見交換をし、自分たちが置かれた社会の状況を相対的に見ることが必要とされます。
 
本書を通じて、簡単そうでむずかしい日韓台を対象にした比較研究の醍醐味を理解してもらいたいと思います。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 園田 茂人 / 2016)

本の目次

はじめに 中国の台頭をめぐる挑戦と応戦  園田茂人・蕭 新煌
第1章 中国における「台商」  陳 志柔
第2章 政治ゲームとしてのビジネス  呉 介民
第3章 韓国の大企業はなぜ中国投資に積極的なのか  朴 濬植・李 賢鮮
第4章 韓国中小企業の中国適応戦略  金 潤泰・李 承恩
第5章 日本企業の中国リスク認識に見る三〇年  園田茂人
第6章 反日デモは中国リスク認識に影響を与えたか  園田茂人・岸 保行・内村幸司
第7章 「関係」のポリティクスとリスク管理  園田茂人
おわりに 日韓台企業にとっての中国リスク  蕭 新煌・園田茂人

関連情報

『日本経済新聞』2016年5月8日の書評
「1980年代以降、改革・開放路線に転じて世界2位の経済大国にまで躍進を遂げた中国。その成長力に吸い寄せられた外資企業は『社会主義市場経済』という特殊な体制下でどんな『リスク』に直面し、対処してきたのか。日本、韓国、台湾の研究者たちがチームを組み、それぞれの中国進出企業の事業展開の特徴を分析・比較した。地道な聞き取りで得た生々しいエピソードが興味深い」
 

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