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書籍名

就業機会と報酬格差の社会学 非正規雇用・社会階層の日韓比較

著者名

有田 伸

判型など

280ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年3月16日

ISBN コード

978-4-13-050187-3

出版社

東京大学出版会

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就業機会と報酬格差の社会学

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近年の日本社会では、さまざまな格差・不平等問題が深刻な課題として浮上しています。もちろん格差問題への関心の高まりは、日本のみならず、諸外国でも同様に生じていますが、注意深くみてみると、具体的にいかなる格差に社会的な関心が集まっているのかには、国によってかなりの差異があります。
 
日本では、正規雇用と非正規雇用間の格差に強い関心が集まり、深刻な問題として浮上している点が特徴です。たしかに日本では、正規雇用と非正規雇用の間に、諸外国とくらべてもかなり大きな報酬格差が存在しています。だからこの問題への関心も高いのだ、と考えられるかもしれません。
 
しかし、その理由は格差の量的な程度のみにあるのではなく、そこにはさらに何らかの重要なメカニズムがはたらいているためではないか、と感じたことが、私が本書を執筆したきっかけです。本書は、このような問題関心をもとに、日本では正規雇用と非正規雇用の区分になぜ、そしてどのように報酬格差が結び付いているのか、さらには、そもそも日本における「非正規雇用」とはいったい何であるのかを、社会学、ならびに国際比較の視点を通じて検討したものです。
 
このためにまず着目したのが、それぞれの国の雇用統計において非正規雇用がどのように捕捉されているのか、という問題です。比較の対象とした韓国を含めて、多くの国では「雇用契約の期限が定められているかどうか」のように、客観的な労働条件を基準として非正規雇用がとらえられます。これに対して日本では「勤め先における呼称」を基準として、パート、アルバイト、契約社員など、正社員・正職員以外の呼称をもつ従業員が非正規雇用とされるのが一般的です。
 
「勤め先における呼称」を基準とする、というきわめてユニークな捕捉方法は、日本における正規雇用と非正規雇用の区分の本質が、ひとびと自身が築きあげた従業員カテゴリーの違いにあること、さらには、このような従業員カテゴリーの体系が、名称や、それが内包する実際の格差まで含めて、日本社会において強く標準化されていることを示唆しています。このような知見をもとに、本書ではさらに、これらの従業員カテゴリーの違いに、なぜ、どのように報酬の格差が結び付くことになるのかを、それぞれのカテゴリーに対するひとびとの意味付与や想定なども考慮に入れつつ説明することを試みました。就業者が占めている「ポジション」が報酬格差を生み出す直接的な要因となっている、とする以上の説明図式は、就業者個人の技能や資質が報酬格差を生み出していると考えるこんにちのオーソドックスな説明図式とはかなり異なるものとなっています。
 
人文社会科学研究者が負っている役目の1つは、世界を理解するための新たな視角や枠組みを提示し、その多様性を確保する努力を絶えず重ねていくことだと私は考えています。本書は、私なりにおこなったその試みのささやかな成果でもあるといえるでしょう。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 有田 伸 / 2016)

本の目次

序章 日本の格差問題を理解するために,いまいかなる視角が必要か?
1章 ポジションに基づく報酬格差への視座 ―― 議論の整理と課題の導出
2章 所得と主観的地位評価の格差 ―― 企業規模と雇用形態の影響は本当に大きいのか?
3章 雇用形態・企業規模間の賃金格差 ―― パネルデータの分析を通じて
4章 日本と韓国における「非正規雇用」とは何か? ―― 政府雇用統計における被雇用者の下位分類方式とその変化
5章 正規雇用 / 非正規雇用の区分と報酬格差 ―― 雇用形態の違いはどのような意味で格差の「独立変数」であるのか?
6章 ポジションにもとづく報酬格差の説明枠組み ―― 付与された意味・想定による格差の「正当化」に着目して
終章 日本社会の格差問題の理解と解決に向けて

関連情報

書評:
横田伸子 評 (『大原社会問題研究所雑誌』No.706 2017年8月)
http://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/706_08.pdf
 
高安雄一 評 (『アジア研究』Vol.63, No.1 2017年1月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/asianstudies/63/1/63_120/_pdf
 
中川宗人 評 (『書評ソシオロゴス』13巻1号p.1-16 2017年)
https://doi.org/10.24676/rslogos.13.1_1
 
高橋康二 評 (『社会学評論』67巻4号 2016-2017年)
https://doi.org/10.4057/jsr.67.504
 
申在烈 評 (『理論と方法』第31巻第2号 2016年12月)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ojjams/31/2/_contents/-char/ja
 
徐侖希 評 (『日本労働研究雑誌』第676号 2016年11月号)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/11/pdf/083-091.pdf
 
角能 評 (『現代韓国朝鮮研究』第16号 2016年11月)
http://www.ackj.org/?page_id=1858
http://www.ackj.org/wp/wp-content/uploads/2017/12/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E9%9F%93%E5%9B%BD%E6%9C%9D%E9%AE%AE%E7%A0%94%E7%A9%B616_%E6%9B%B8%E8%A9%95%E8%AB%96%E6%96%871.pdf
 
藤村正司 評 (『教育社会学研究』第99集 2016年11月)
https://jses-web.jp/publication/journal/journal99
 
太郎丸博 評「賃金論のパラダイム転換――人的資本論にとってかわる社会学的賃金理論を提示」 (『図書新聞』第3261号 2016年7月2日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3261
 
栗田隆子 評 (『社会新報』6/1号 2016年)
https://sdp.or.jp/category/sdp-paper/
 
 

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