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クリーム色の表紙中央に機関車のイラスト

書籍名

海をわたる機関車 近代日本の鉄道発展とグローバル化

著者名

中村 尚史

判型など

264ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年2月10日

ISBN コード

978-4-642-03851-5

出版社

吉川弘文館

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学内図書館貸出状況(OPAC)

海を渡る機関車

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近年、日本の鉄道車輌メーカーや鉄道事業者の海外進出が本格化している。その背景には、ヒト、モノ、カネ、そして情報の国際的な移動が加速する、グローバル化の動きがある。グローバル化のなかで車輌を中心とする鉄道システム供給をめぐる国際競争が激化し、最先端の高速鉄道技術や都市交通システムが、先進国のみでなく、途上国にも一気に拡がった。しかし、グローバル経済のもとでの鉄道システムの拡散は、21世紀に固有の現象ではない。同様の現象は、19世紀後半から第一次世界大戦直前にかけて出現した、「第一次グローバル化」といわれる時代にもみられた。この時代には、スエズ運河や大陸横断鉄道、海底ケープルに代表される運輸・通信インフラが整備され、イギリスを中心とする国際金本位制や多角的決済システム、ロンドンでの海運取引所や海上保険が高度に発達した。そのため、ヒト、モノ、カネ、情報が頻繁に行き交うようになり、緊密なグローバル経済が構築された。日本の鉄道は、まさにこの時代に、イギリスから導入され、技術的な多様化と収斂を経験しつつ、急速な発展を遂げたのである。
 
日本における鉄道業の形成を考える場合、その再生産を可能する鉄道用品の供給が、誰によって、如何にして行われたのかという点が重要となる。とくに蒸気機関車は、当時における最先端技術の粋を集めた製品であったことから、明治末年まで自給が困難であった。そのためこの問題は、機関車とその部品の円滑な輸入が、いかにして可能になったのかという問いに置き換えることができる。そしてこれに答えるためには、まず当該期における鉄道車輌の世界市場の状況を把握した上で、機関車取引の実態を、出し手である外国鉄道車輌メーカーと受け手である国内鉄道事業者、その仲介者である内外商社の活動に注目しながら明らかにする必要がある。
 
以上の問題意識をふまえて、本書では、第一次グローバル化の時代における鉄道車輌の生産と流通の構造を、日本を中心とする東アジア市場に焦点を当てつつ検討し、日本の鉄道業形成の国際的な契機を明らかにした。鉄道は産業革命のリーディング・セクターの一つである。そのため本書を歴史的な文脈からみれば、日本の産業革命とグローバル化との関連を、輸入の側面に注目しながら問い直す研究といえる。また本書は、イギリス、アメリカ、ドイツといった世界各国の機関車メーカーによって繰り広げられた激しい国際競争の経緯を、生産方式や入札システム、商社活動といった様々な局面から多角的に考察した。その結果、グローバル化の時代には、「良いものであれば高くても売れる」という話に限界があることが明らかになった。それは単に19世紀末の鉄道車両の問題にとどまらず、グローバル競争のなかでしのぎを削る現代の日本企業への貴重な教訓にもなるであろう。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 中村 尚史 / 2016)

本の目次

序章 海をわたる機関車
第1章 世紀転換期における機関車製造業の国際競争
第2章 日本における鉄道創業と機関車輸入 - イギリス製機関車による市場独占 -
第3章 日本の技術形成と機関車取引 - アメリカ製機関車をめぐる攻防 -
第4章 局面の転換 - 日露戦争・鉄道国有化と機関車貿易 -
第5章 機関車国産化の影響 - 最後の大型機関車輸入と市場再編 -
終章 日本鉄道業形成の国際的契機

関連情報

書評:
BOOK asahi.com 書評: [評者] 吉岡桂子 (本社編集委員) 2016年3月20日
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2016032000003.html
 
日本経済新聞 朝刊: 鉄道をめぐる100年前の国際競争 2016年3月20日
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO98613480Y6A310C1MY6000/
 
学会誌書評:
社会経済史学 82巻4号 (2017年2月) 評者・沢井 実 (南山大学教授)
 
日本歴史 825号 (2017年2月) 評者・老川慶喜 (跡見学園女子大学教授)
 
世界経済評論 61巻2号 (2017年3月) 評者・橘川武郎 (東京理科大学教授)
 
交通史研究 90号 (2017年3月) 評者・渡邉恵一 (駒澤大学教授)

 

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