東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黄色い表紙に鱗模様

書籍名

Advances in Japanese Business and Economics Keynesian Economics and Price Theory Re-orientation of a Theory of Monetary Economy

著者名

Masayuki Otaki

判型など

XV + 207ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2015年2月6日

ISBN コード

978-4-431-55344-1 (ハードカバー)

出版社

Springer

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

Keynesian Economics and Price Theory

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書の目的は貨幣数量説を理論的に棄却し、貨幣供給量の変化が実体経済に対して深刻な影響を与えることを示すことであり、同時に構築された理論を既存の学説では説明できない経済現象の構造的理解に資することにある。
 
貨幣数量説は経済学に長くはびこる悪習である。その主張は経済に流通している貨幣 (貨幣供給量) に比例して物価水準が決定される点に集約される。講義では、「お金の量がものに比べて多くなると、お金の価値が薄れ、ものが高くなる」と紹介されるのがつねである。このようにサラッと説明されると、なるほどと思いがちである。しかしながら、少し立ち止まって考えてみよう。この考え方では、お金を増やしても物価が上がるだけで、経済社会に実質的影響はないのである。

かりに、生産に隘路がなくある一定の費用でいくらでも追加生産できるとしよう。この意味でものの希少性は存在しない。そして人々は、「お金の価値」を変わらないものと信じているとしよう。ここでいう「お金の価値」とは、1万円あたりで買えるものが変わらないという意味である。言い換えれば、物価水準の逆数を「お金の価値」と定義するわけである。
 
このとき何らかの方法で、経済に新たに貨幣が注入されたとしよう。受け取った個人は一部を現在の消費に、残りは将来の消費に備えた貯蓄に回すことになる。無論この社会に住むすべての人は「お金の価値」を信じているから、ある一定の価格でそれに対応する生産がなされる。

したがって経済に余剰資源が存在するれば (失業も労働サービスが余剰資源となっていることである)、人々が「お金の価値」を信じている限り、貨幣供給量の増加は余剰資源の有効利用に役立つことが分かる。つまり「お金の価値」に関する確信 (confidence) が維持されている限り、貨幣数量説は否定される。
 
以上の議論では「お金の価値」と貨幣供給量が無関係であることを、人々が「確信」することを前提としてきた。このような「確信」は経験から反証されない合理的なものなのだろうか。ここが本書の核心部分である。この証明は、企業と個人の行動を記述する簡単な数式により提示しうる。
個人は一生を考えて働くと考えられるから、彼らの要求する賃金Wは、現在の物価水準Ptだけでなく将来の物価水準Pt+1にも依存しよう。個人一人でもの一個が生産できるとすると、企業はこの賃金にあるマージンmをかけて製品価格Ptをきめるから、結局、

Pt=[1+m]・W (Pt’Pt+1)

という差分方程式が得られる。この方程式には貨幣供給量は一切含まれておらず、物価水準Ptはそれ自身の将来の値Pt+1の予想によって決まってくることになる。言い換えればこの方程式は、個人が将来も「お金の価値」が安泰であると思い込めば、現在のそれも安泰であることを示しているのである。すなわち「価値があると思うから価値がある」という循環論法である。

詳細は省くが、この理論を用いると現在の「異次元金融政策」呼ばれる危うい金融拡張が、当局の目論見とは裏腹に、ディスインフレーションを引き起こしていることを説明できる。より多くの貨幣を保有してもらうためには、それが個人に有利なものでなければならない。したがって貨幣の収益率 (インフレ率の逆数) が上昇するのである。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 大瀧 雅之 / 2017)

本の目次

1. Introduction
2. Price Theory in a Monetary Economy
3. The Existence of an Involuntary Employment Equilibrium
4. The Phillips Curve and Inflation Theory Reconsidered
5. A Basic Model of a Flexible Exchange Rate System under Perfect Capital Mobility
6. Function of a Key Currency: International Liquidity Provision and Insurance
7. On the Necessity of Optimum Currency Areas: The Case for Perfect Capital Mobility and Immobile Labor Forces
8. Universal Discipline or Individual Discipline: On the Vulnerability of the Eurozone as a Nonadjustable Local Fixed Exchange Rate Regime
9. Industrial Hollowing under a Flexible Exchange Rate System
10. On the Function of Gold Standard in Idealism and Reality
11. Dexterity as a Source of Economic Growth
12. Monetary Growth Theory under Perfect Competition: Can Monetary Expansion Really Enhance Economic Growth
13. A Keynesian Monetary Growth Model under Monopolistic Competition: Is Economic Growth Sustainable Without Government Help
14. A Critique on Lucas’ Theory
15. Does Search Theory Succeed in Describing a Monetary Economy?