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共栄報の新聞写真

書籍名

復刻 共栄報 1942~1945 全32巻+別冊1

著者名

津田 浩司 (監修・解題)

判型など

A3判、上製、本体: 華語 (中国語)、マレー語 (インドネシア語)、別冊解題: 日本語、中国語

言語

発行年月日

2019年4月

ISBN コード

978-4-8433-5530-5

出版社

版元: 漢珍数位図書 / 国内販売: ゆまに書房

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復刻 共栄報 1942~1945

その他

版元: 漢珍数位図書
 

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アジア太平洋戦争中、日本軍は東南アジアのほぼ全域を占領下に置いた。広大な旧オランダ領東インド (今日のインドネシア) の領域のうち、政治・経済の中心地であり、5千万近い人口を抱えていたジャワ島は、1942年3月に陸軍第16軍により攻略、その後終戦まで軍政が敷かれ、南方全体に食糧や労働力を供給する兵站基地と位置づけられた。そのジャワには、当時70万人ほどの中華系住民(以下、同時代の用語法にしたがい「華僑」)が暮らしており、経済的に枢要な地位を占めていた。『共栄報 (Kung Yung Pao)』は、そのジャワの華僑向けプロパガンダ紙として発行され続けた唯一の日刊紙であった。本書は、インドネシア国立図書館に所蔵されていた同紙の原本を高精細撮影し、復刻 (一部欠号あり) したものである。
 
当時ジャワの華僑社会は、現地で世代を重ね文化的に現地化したプラナカン (=ババ、僑生) と、比較的移住歴の浅いトトッ (=新客) に大きく二分されていた。そのことを反映してこの『共栄報』は、前者向けのマレー語 (=ムラユ語、後のインドネシア語) 版と、後者向けの華語 (=中国語) 版の2つがそれぞれ別々に編集され、発行地のジャカルタ (旧バタヴィア) 近郊のみならず、鉄道等を用いてジャワ全土に送られていた。
 
戦時下の新聞がプロパガンダの色彩を濃くすることは、同時期の国内の新聞と全く同様である。ジャワでは紙の不足と検閲の効率の観点から新聞の統廃合が進められ、軍政期も半ばに差し掛かる頃には、日刊紙は邦字紙1、現地語 (インドネシア語) 紙5 (中央紙1、地方紙4) と、この華僑向けの『共栄報』に集約された。これら各新聞の経営や発行業務は、軍から委託を受けた朝日新聞社が管理・監督するものとされ、特に1944年初頭以降その統制の度合いは強まった。またニュース・ソースも軍当局発表、あるいは国策通信社である同盟通信によるものにほぼ限られたため、戦局や国際情勢を伝える各紙の第1面などを見比べても、どれも似たり寄ったりである。
 
しかし第2面以降にはそれぞれの新聞の個性が際立つ。この『共栄報』に関して言えば、華僑向けのメディアであることを反映し、ジャワ各地で華僑社会を一元的に管理するために設立された「華僑総会」の組織化の過程や活動の模様、あるいは華僑学校の開設、華僑による貯金の統計、それに冠婚葬祭の告知に至るまで、当時のジャワの華僑社会の諸相を浮かび上がらせるうえで貴重な情報が多数掲載されている。これら記事は、インドネシア華僑史の中でもまとまった一次資料がなく「ミッシング・リンク」とされてきた1940年代の欠落を埋める上で資料的価値が極めて高いのはもちろんのこと、経済的動員を含む対華僑政策を重要な柱のひとつとした南方軍政の地域間比較の研究等にも大いに資するものといえよう。
 
なお、新聞に用いられている言語に関してだが、華語版を読み解くためには必ずしも現代中国語の素養は必要なく、高校の漢文の知識があれば十分である。マレー語版の方も、「世界でも最も簡単な言語のうちのひとつ」といわれることもあるインドネシア語の中級程度のレベルで問題なく読み進めることができる。全32巻より成る本編に附属する別冊には、この『共栄報』がいかなる性質の新聞であるか詳細な解題を付しているので、まずはそちらで概要を掴んだ上で、是非この新聞を手に取り、自身で歴史研究のための新たな種を見つけてほしい。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 津田 浩司 / 2020)

本の目次

第1巻: 華語版 1942年3~4月
第2巻: 華語版 1942年5~6月
第3巻: 華語版 1942年7~8月
第4巻: 華語版 1942年9~10月
第5巻: 華語版 1942年11~12月
第6巻: 華語版 1943年1~2月
第7巻: 華語版 1943年3~4月
第8巻: 華語版 1943年5~6月
第9巻: 華語版 1943年7~8月
第10巻: 華語版 1943年9~10月
第11巻: 華語版 1943年11~12月
第12巻: 華語版 1944年1~2月
第13巻: 華語版 1945年2~5月
第14巻: 華語版 1945年6~8月
第15巻: マレー語版 1942年9, 12月~1943年1月
第16巻: マレー語版 1943年2月
第17巻: マレー語版 1943年3~4月
第18巻: マレー語版 1943年5~6月
第19巻: マレー語版 1943年7~8月
第20巻: マレー語版 1943年9~10月
第21巻: マレー語版 1943年11~12月
第22巻: マレー語版 1944年1~2月
第23巻: マレー語版 1944年3~4月
第24巻: マレー語版 1944年5~6月
第25巻: マレー語版 1944年7~8月
第26巻: マレー語版 1944年9~10月
第27巻: マレー語版 1944年11~12月
第28巻: マレー語版 1945年1~2月
第29巻: マレー語版 1945年3~6月
第30巻: マレー語版 1945年7~9月
第31巻: 補遺 マレー語版 1942年9~11月
第32巻: 補遺 マレー語版 1943年12月, 1944年2月, 1945年5~6月
別冊: 解題 (日本語・中国語 [山田 清 訳]), 総目録
 

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