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再エネの課題を解決し、「地球に住み続ける」 Entrepreneurs 24

掲載日:2024年3月15日

このシリーズでは、東京大学の起業支援プログラムや学術成果を活用する起業家たちを紹介していきます。東京大学は日本のイノベーションエコシステムの拡大を担っています。

東大起業家シリーズ24

再生可能エネルギー(再エネ)率100%、エネルギー自給率100%を達成して、「地球に住み続ける」──。このミッションの下、株式会社Yanekara(本社:千葉県柏市)は、太陽光発電や、蓄電池、電気自動車(EV)などを統合して、電力のユーザーが太陽エネルギーを捨てずに使い切るための蓄電ソリューションを提供しています。

同社を率いるのは、松藤圭亮・代表取締役CEOです。東京大学・工学部電気電子工学科に在学中、再エネの非効率的な利用状況を知って危機感を抱き、東大の起業エコシステムの支援を受けて、2020年に同社を共同設立しました。EVの充電・充放電を最適化し、低コストで行なうことができる独自製品の開発に成功。今後の目標として、家庭や小規模な事業所による太陽光発電とEVや蓄電池などの施設を統合し、電力の需給をクラウドで管理する「バーチャルパワープラント」の構築も視野に入れます。目指すは、ソフトウェアの力を使い電力の需給バランスを調整する「21世紀の黒部ダム」の構築です。

小学生でエネルギー問題に目覚める

既存のEV充電コンセントにリモート制御機能をアドオンする“YaneCube”
既存のEV充電コンセントにリモート制御機能をアドオンする“YaneCube”

松藤さんは、小学6年生の夏休みに行なった自由研究で、鏡やアルミホイルを使って太陽光を集め、その熱でゆで卵やパンケーキを作る「ソーラークッキング」に挑戦しました。このプロジェクトを通して、「太陽エネルギーで人の暮らしを賄えるのではないか」とエネルギー問題に関心を持ち、研究者を目指して東大に入学しました。

しかし、学部2年次の終わりごろ、「エネルギー、特に太陽電池の分野ではすでに技術革新が起きており、これから研究者になったとしても社会に与えられるインパクトは限定的だ」と感じるようになりました。そこで、再エネを有効利用する仕組みの社会実装が遅れている状況に目を向けました。

近年では再エネの供給過剰で需給バランスが崩れ、大規模停電が発生することを防ぐため、再エネの稼働を一時的に止める「出力制御」が行なわれています。出力制御を回避するためには、過剰な電力を蓄電池やEV、ヒートポンプを使って蓄電する必要があり、その手法の研究が進んでいます。しかし、その社会実装は道半ばです。「太陽エネルギーを捨てずに使い切るための手法を考案するだけではなく、社会実装したい」と考えるようになりました。

東大の起業エコシステムの支援を受け、起業の道へ

そんな意識の変化の中で出会ったのが、後にYanekara社を共同創業することになる吉岡大地・代表取締役COOです。当時、ドイツの大学で環境問題を学んでいた吉岡さんと知り合い、定期的にオンラインで勉強会を開きました。「日本も、再生エネルギー100%・エネルギー自給率100%を目指すべき」との吉岡さんの提案に賛同。達成手段を掘り下げた結果、「社会実装には起業しかない」と決意しました。

松藤さんは、東大の産学協創推進本部が主催する「アントレプレナー道場」に参加。体系的に「起業とは何か」を学び、同本部が運営する本郷テックガレージ(大和証券グループ寄附プロジェクト)で技術プロジェクト支援プログラム「Spring Founders Program (SFP)」に参加。充放電機器のプロトタイプを完成させ、製品開発のノウハウを習得しました。その後、松藤さん提案の「電気自動車をエネルギーストレージ化する充放電システムの開発」が未踏アドバンスト事業(独立行政法人情報処理推進機構)に採択され、1,000万円の資金を獲得。2020年6月にYanekara社を設立しました。

現場主義を貫き、事業を開発

Message

Yanekara社は、太陽光発電やEV利用の“現場に出向くこと”を大切にしています。「ニーズをつかみ、課題を解決するプロトタイプを作る。そして現場の意見を聞き、改良する。このサイクルが重要です」と松藤さん。自身も毎日のように現場を訪れます。

創業当初からの「蓄電ソリューション事業」では、各施設のニーズに合わせ、太陽光発電のエネルギーをEV・蓄電池で蓄電するシステムを提供。これにより、昼間に太陽光で充電した電力を夕方に使用できるようになり、もっとも使用量が多い時間帯の電力を削減する「ピークカット」を実現できます。その結果として、電力を使う事業所の電気料金の上昇も抑制できます。このシステムは、日置電機株式会社での実証を皮切りとして採用数を伸ばしています。さらに、小規模な事業所をクラウドでネットワーク化する「バーチャルパワープラント」が実現すると、地域内におけるエネルギーの需給調整も可能になります。

現場のニーズを把握したうえで開発したのが、既存のEV充電コンセントにリモート制御機能を付与するアダプタ「YaneCube」です。使用量が少ない時間帯に蓄電し、使用量の多い時間帯に電気を使う「ピークシフト」によって、コストを抑えられます。すでに日本郵便株式会社の銀座郵便局に93台導入されており、集配用EV車両の充電をリモート制御しています。また、2024年中にリリース予定の「YaneBox」は、既存の太陽光発電システムに、EVの充放電機能を付与できる機器です。

松藤さんは、ここまでに述べたような多彩な蓄電システムの社会実装による「21世紀の黒部ダム」の構築を目指しています。「20世紀の黒部ダムは、土木技術によって戦後の不安定な電力バランスを調整する役割を果たしました。21世紀に生きる私たちは、バーチャルパワープラントなどソフトウェアの力によって、これを成し遂げたい」と、インタビューを結んでくれました。

株式会社Yanekara
 

株式会社Yanekara

松藤圭亮さんが東大の学部4年生のときに、吉岡大地さんと共同で設立。屋根から得られる太陽エネルギーを捨てずに使い切るという意味を込めてYanekaraを社名とした。東大協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)から、起業インキュベーションプログラム「1st Round」に採択(2021年に500万円)されたほか、資金調達(共同出資)を行なっている(2021年に4,200万円、2022年に6,000万円)。そのほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などからの公的支援に加え、三井不動産のベンチャー共創事業「31 Ventures」などから1.6億円の資金調達を行った。松藤さんは、2023年3月に東大大学院工学系研究科を修了するまで学業と起業を両立。現在は役員3人、社員3人(2024年4月から社員6人体制)に加え、経験豊富なシニアエンジニアとシニアアドバイザーが参加し、製品の信頼性確立などに尽力している。「多様な分野の経験豊かな方々を味方につけるのが、創業者の仕事」といい、業務に関わる人材は30人ほどに上る。2030年までに、インドやインドネシアなど海外進出を目指す。

取材日:2024年1月30日
取材・文/森由美子
撮影/東京大学本部広報課

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