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東大在学中に刺激を受け起業、9年で上場を果たす Entrepreneurs 25

掲載日:2024年4月9日

このシリーズでは、東京大学の起業支援プログラムや学術成果を活用する起業家たちを紹介していきます。東京大学は日本のイノベーションエコシステムの拡大を担っています。

東大起業家シリーズ25

東大在学中に刺激を受け起業、9年で上場を果たす

株式会社アイデミー(東京都千代田区)は、企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や、人工知能(AI)・DX技術の内製化を主に支援するスタートアップ企業です。2014年の設立からわずか9年、2023年6月に東証グロース市場に上場を果たしました。

同社を率いる石川聡彦・代表取締役 執行役員 社長は上場当時、グロース市場の企業トップとしては最年少の30歳でした。2012年に東京大学に入学。ビジネスサークルの活動などに多大な影響を受け、起業エコシステムの支援を受けながら、2014年6月に同社の前身、Goods株式会社を設立しました。

起業当初の3年間は苦労の連続でしたが、2017年に商号を株式会社アイデミーに変更。無料で学べるAIプログラミング学習サービスをリリースし、AIやDXの人材育成事業に参入しました。現在は、大企業のAI・DX技術の内製化支援に重点を移しつつ、2023年5月期には約16.66億円の売り上げを達成。今後は、「若者の瞬発力と大人の経験値を掛け合わせたチーム力」を駆使して、世界を目指します。

入学後に「起業は難しくない」と感じる

Aidemy Business(法人向けオンラインDXラーニング)の受講風景
Aidemy Business(法人向けオンラインDXラーニング)の受講風景

石川さんは、日本発SNSである 「mixi」の笠原健治会長や、株式会社ユーグレナ(バイオテクノロジー企業)の出雲充代表取締役社長など、名だたる起業家が東大出身だということを知り、刺激を受けたそうです。「自分と同じような学生生活を送った方が、起業して世界の課題を解決するようなビジネスに成功している。起業もそれほど難しくないはず」と、起業家を目指すようになりました。その気持ちを後押ししたのが、ビジネスサークル「KING」で代表を務めた経験と、学生向けビジネスコンテストでの優勝の経験でした。

また、東大の起業エコシステムも大きな支えとなりました。産学協創推進本部が主催する「アントレプレナー道場」に起業前後に参加して、体系的に起業について学んだほか、ビジネスアイディアのブラッシュアップや、ビジネス文書作成などの面で手厚い支援を受け、起業に臨みました。

「ビジネスアイディアを自身だけで考えない」にたどり着く

創業当初は、各ユーザーに適した商品を推薦するアプリや、キャンパス付近の弁当店の予約注文・決済アプリなどをリリースしましたが、ユーザーを集めることができずに撤退を繰り返しました。石川さんは、いったん休学してビジネスに専念したものの、工学部都市工学科に復学。水処理を専門とする研究室に所属し、AIを使った浄水プロセス制御の最適化の研究に触れました。ここでAIに魅了され、東大大学院の情報学環・学際情報学府に進学し、AI研究の第一人者、松尾豊・東大工学系研究科教授などの授業も履修しました。松尾教授の授業では、のちに投資を受けることになる東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)の郷治友孝代表取締役社長(当時、社会人として博士課程に在籍)と同じチームになり、一緒にAIを使ったアプリ制作に取り組んだそうです。

学業のかたわら、石川さんはベンチャーキャピタルの関係者と、40個以上のビジネスアイディアの精査に着手しました。大学4年生までの失敗体験から学び、ビジネスアイディアは自身の考えだけに固執せず「投資家の『このAI関連事業なら投資する』という意見を素直に受け入れ」、ユーザーの集まらないアプリ事業から時流に乗ったAI関連事業への転換を果たしました。

このように、投資家らを巻き込んで学生起業にチャレンジできた原点は、幼稚園から小学5年まで歌舞伎の子役を務めた経験にあるとか。「丁寧に振る舞う、舞台の前に挨拶に行く、感謝の言葉を伝える。年上の方に可愛がってもらうための基本所作は学びました。いかに年長の方に関与してもらうかは、ビジネスでも大事です」

AI・DX人材育成プログラムをリリース

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「顧客が求めるサービスを提供できた」と実感できたのは、2017年にリリースした無料のAIプログラミング学習サービス「Aidemy Free (アイデミーフリー)」の登録者が、100日足らずで1万人を超えた時でした。その後リリースした、有償の集中講座も即日完売。当時の社員は、石川さんのほかKINGの後輩と東大の後輩の2人だけでしたが、東大生のインターンやバイトら約40人が、教師になったり、教材を作ったり、受講生が提出したプログラミング課題の採点などを担当してくれました。「AIの急速な発展を支えている技『ディープラーニング』が注目を集めるようになったのは2012年です。これらの新しいテクノロジーにキャッチアップして、嚙み砕いて伝える、実装できるというのは学生の強みです」と、石川さんは説明します。

その後、社会人の受講者数が多いことに着目し、大手企業のDXに必要な人材の育成支援を行う、オンラインDXラーニングサービス「Aidemy Business (アイデミービジネス)」をリリース。急成長を遂げるなか、若いアイデミー社員たちと、技術アドバイスを行う東大教員、マーケティングの経験が豊富なビジネスマンらの力を結集したチームづくりにも成功しました。

現在は、大手企業におけるAI・DX技術の内製化をサポートする、プロジェクト伴走型支援サービス「Modeloy」の展開に軸足を移しつつあります。「さまざまな産業でAIの活用が叫ばれています。企業が競争力をつけるためには社内でAI技術を開発していかなければなりませんが、人材が足りません。そこで、我々が二人三脚でAI技術の社内実装のお手伝いをしています。これは、他社にはないアプローチだと考えています」

取引企業は、ダイキン工業株式会社、KDDI株式会社、株式会社ニチレイなど累計550社以上、ユーザー数は累計26万人に上ります。石川さんは、「今後は世界を代表するようなスタートアップになっていきたい。そのために、チーム力をさらに強固にしたい」と、さらなる成長を見据えます。

株式会社アイデミー
 

株式会社アイデミー

石川聡彦・代表取締役 執行役員 社長が2014年、Goods株式会社として創業。東大出身者を含む複数のエンジェル投資家に資金提供を受けたほか、東大産学協創推進本部が提供するインキューベーション施設「アントレプレナープラザ」に2年半の間、オフィスを構えた。2018年、ベンチャーキャピタルの東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)などから9200万円を調達。2020年にUTEC、東大協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)などから計8.3億円を調達した後、2023年に東証グロース市場に上場。新しい事業も開発し、グリーントランスフォーメーション(GX)の人材を育成する「Aidemy GX」や、AI・DX人材育成プラットフォームに搭載するパーソナルAIアシスタント「My Aide」 、研究開発組織向けのデータ活用プラットフォーム「Lab Bank」をリリース。石川社長は、エンジェル投資家として、東大後輩などのスタートアップ約10社に出資する。2024年には、株式会社ファクトリアルを子会社化。グループ全体、正社員約120人規模で世界を目指す。

取材日:2024年2月9日
取材・文/森由美子
撮影/東京大学本部広報課

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