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環境が言語習得に与える影響を赤ちゃん実験で探索 | 辻晶 | UTokyo 30s No.1

掲載日:2019年9月24日

やらいでか!UTokyo サーティーズ
淡青色の若手研究者たち

約5800人いる東京大学の現役教員の中から、30代の元気な若手研究者を9人選びました。職名の内訳は、教授が1人、准教授が2人、特任准教授が1人、講師が1人、特任講師が1人、助教が3人です。彼/彼女らは日々どんな研究をしているのか、そして、どんな人となりを持っているのか。その一端を紹介します。(広報誌「淡青」39号より)

言語心理学

環境が言語習得に与える影響を赤ちゃんの行動実験から探索

辻 晶
Tsuji, Sho
ニューロインテリジェンス国際研究機構助教
写真
写真1:医学部1号館にあるIRCNの辻ラボにて。「調査に協力してくれる赤ちゃんを募集しています。babylab@ircn.jpまでお問い合わせを!」 写真:貝塚純一

人工知能が言語を習得するには、膨大な量のデータを学習することが必要です。一方で、人工知能よりも非常に少ないデータしか学習しないのに驚くべき速さで言語を習得できるのが、乳幼児です。この素晴らしい力には社会環境が大きく関与していると考え、行動検査や脳画像解析といったアプローチから乳幼児の言語能力が発達する仕組みを研究しているのが、ドルトムント生まれの辻先生。ドイツ語のほか、ご母堂仕込みの日本語、英語やフランス語も話すマルチリンガルです。

「私の関心の一つは、赤ちゃんがどのように社会環境から言語を習うのか、です。人から対面で習うのが普通ですが、では人に類似した機械ではどうか。人のビデオ映像かビデオチャットでは? 人に似せたイラストでは? 動物のイラストでは? 顔のない人っぽい動きをする図形では……?  各々のケースで単語の学習が進むかどうかを、1歳の赤ちゃんたちで実験してきました」

ポイントは、教える側に人間っぽさがあるか、視線があるか、そして、赤ちゃんの動作に反応する「随伴性」があるか。この3つの重要性と、どれか一つでは学習が進まないことは、すでに判明しています。独自に開発した視線の自動記録システムを使って実験を続け、3つをどのように組み合わせるのがよいかがわかれば、効果的な言語学習法の開発に役立ちます。

「もう一つの関心は、赤ちゃんの視線から見た言語を習得する環境に何があるのか。赤ちゃんの身に直接つけられる録音機やビデオカメラを使い、聞く音声や見る世界を記録します。たとえば「ナマケモノ」と聞いたときに、赤ちゃんがナマケモノのぬいぐるみを見ていたかどうか、つまり、聞いた単語と社会環境にあるものを結びつける機会があったかどうか。こうしたデータを1年かけて積み重ね、解析します」

フンボルト大学で心理学を学んだ後、東大の総合文化研究科で言語学に出会い、訪れた理化学研究所の脳科学総合研究センターで馬塚れい子先生の言語発達研究に触れたことが、いまの研究に結びついている、と辻先生。そうした経緯の後、この4月、機構に「赤ちゃんラボ」を立ち上げました。助教が主任研究者を務めるのは異例のことで、抜擢です。

「周りにいるのは大きな実績を持つ先生ばかり。そんな中にいる自分に気づいて、少し変な気持ちになることもあるんです」

ニューロインテリジェンスという新分野を発展させるために整えられた、生まれたての「赤ちゃんラボ」。乳幼児の言語発達だけでなく、若い主任研究者の発展にも、環境が大きな意味を持つはずです。
 

Q & A
休みの日のお楽しみは? 「友達とお茶すること。ヨガ。あと、ジュエリーやカーペットの自作」
よく読むのは誰の本? 「脆弱性も備えたフェミニスト、シモーヌ・ド・ボーヴォワール」
30代の研究者仲間を見て感じることは? 「速いテンポやマネージャー的感覚が昔より求められがちですね」
新しい時代に望むことは? 「キャリアよりも家族を優先しない女性が驚かれずに理解されること」


 

写真2
辻先生はアウトリーチ活動も積極的に行っています。7月13日には日本科学未来館で行われたIRCN一般講演会「予測する脳・発達する脳」に登壇(写真2)。高校生や一般の聴衆に、生後すぐの赤ちゃんでも母国語のリズムを識別できること、母国語以外の音への認識は弱くなることなどを紹介しました。7月20日には、豊島区の託児施設RYOZAN PARK PRESCHOOLでのトークセッションに登場。子どもの言語習得のために親は何をしたらよいか、二言語併用の効能などについて話しました。今後の活動はウェブサイトでご確認を。
https://ircn.jp/

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