平成28年度東京大学大学院入学式 大学院法学政治学研究科長式辞

式辞・告辞集 平成28年度東京大学大学院入学式 大学院法学政治学研究科長式辞

 

東京大学大学院に入学および進学された皆さん、本日は本当におめでとうございます。また、入学された方、進学された方のご家族や関係者の皆様もさぞお喜びのことと思います。心からお祝いを申し上げます。

これから皆さんは、それぞれ修士課程、専門職学位課程、そして博士課程において、それぞれの課程に応じた能力を培うことを目指して、研究に取り組んで行かれることになります。

私自身の専攻分野は、社会保障法・労働法です。この分野では、次々と新しい問題が提起されています。それは、一つには今日、わが国の産業構造や企業の経営戦略を根底から揺り動かしている国際化の進行の影響です。また労働市場の世代別構成や社会保障制度に密接に関係する人口構造を大きく変える少子高齢化の進展も原因です。さらには、これらに伴って進んでいるいわゆる非正規従業員、とりわけパートタイム労働者の急速な増加等とも結びついています。これ以外にも新たな課題をもたらす種々の要因が存在します。こうした外的環境の変化によって、さらには新たな研究成果の蓄積によって、新しい課題が続々と登場することは、社会保障法や労働法の分野だけではなく、文系、理系を問わず、それぞれの専門分野で起きています。皆さんのような新進気鋭の大学院生がこうした新しい課題にチャレンジしたいと考えるのは当然です。また学問の発展はそうしたチャレンジングな試みによって支えられています。

ただ、私が専攻する社会保障法・労働法の分野でも同様なのですが、ある新しい課題を表面的に追いかけるにとどまると、研究成果の寿命は短くなります。取り上げた課題にとって代わる新しい課題が登場すると、その価値は大きく下がり、引用等もされなくなってしまいます。たとえば国内のものでも、外国のものでもよいのですが、社会保障法や労働法の分野で新しい立法ができ、それをテーマとして設定したとき、研究の対象がまずはその立法の内容がどのようなものかを明らかにすることになるのはごく自然です。しかし、重要なのはそこではありません。私自身への自戒の意味も込めて申し上げますと、なぜそのような内容の立法が制定されたのか、また、なぜその立法の内容はそのようなものになったのかをとことん調べ、分析することこそが重要なのです。テーマを深く掘り下げ、幅広く資料等を漁り、徹底的に考え、分析することによって、取り上げたのが小さな立法であっても、その奥に潜む、たとえば社会構造の大きな変化の発見に至るということがあるのです。そうした発見は、既存の理論の根底からの見直しにまでつながりうる可能性を持っています。研究の醍醐味は、まさにここにあると私は思います。皆さんにも、本学の大学院でこのような研究の醍醐味をぜひ味わってほしいと思います。

皆さんの中には、修士課程修了後または専門職学位課程修了後に社会に出るつもりの方もいらっしゃるでしょう。また、修士課程修了後または専門職学位課程修了後にはさらに博士課程への進学を考えている方もいらっしゃるでしょうし、博士課程に入進学された方は将来それぞれの専門分野で研究者になることを考えている方が多いと思います。将来、どのような進路に進んでも、皆さんは、未知の問題、まだ解決策の見つかっていない課題に直面することでしょう。本学の大学院で研究を行って各界の仕事に就くことになる皆さんの場合はなおさらです。私の専攻する社会保障法や労働法でも同様ですが、そのときに肝要なのは、基本に立ち返って考えることです。そのことによって、その問題の核心を把握し、それに立脚した解決策等を考えることが可能となります。これは他の専門分野でも同じだと思います。そして、このような課題解決へのアプローチは、先ほど申し上げた研究への取り組み方と共通するところがあります。ですので、本学の大学院での真摯な研究は将来の皆さんの各界での仕事に必ず生きると私は信じています。

本学の大学院での学生生活は、心身の健康があってこそです。皆さん、くれぐれも心身の健康には十分に配慮して下さい。そして、皆さんがこれから充実した学生生活を送り、十分な成果を挙げられることを心から祈念しています。

 

平成28年(2016年)4月12日
大学院法学政治学研究科長  岩村 正彦

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