財務省「平成22年度予算編成上の主な個別論点」について(コメント)

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財務省「平成22年度予算編成上の主な個別論点」について(コメント)

 

平成21年12月9日

財務省「平成22年度予算編成上の主な個別論点」について(コメント)

東京大学理事・副学長(財務担当)
前田 正史

さる12月3日、財務省は、標記資料(以下、「財務省資料」という。)を公表しました。この文書は、歳出削減という目的の下で整理されたものであり、内容の解釈は慎重を要するところです。特に、東京大学の実情に即して、正しい理解を求めたいと考える主な点は、下記のとおりです。

1.財務省資料は、国立大学法人に対する交付金の削減が、独立行政法人に比して不十分であるかのように指摘しています。しかし、国立大学法人は、86法人全体として、平成16年度の法人化以降、5年間で約720億円も削減されてきており、23大学分に相当する規模に達します。東京大学の削減分だけでも約44億円、お茶の水女子大学の交付金全体に匹敵します。そもそも、国立大学法人と独立行政法人とは制度上も実質上も異なる存在です。自主的・自律的な運営の下、安定的・継続的に教育研究活動を行うことを使命とする国立大学法人への支援と、同列で論ずることは適当でありません。

2.財務省資料は、国立大学の収入、支出(事業費)の拡大に関するデータを示しています。しかし、これは、国立大学財政のゆとり、非効率性を意味するものではありません。激しさを増す国際競争の中、法人化のメリットを最大限生かし、自己収入や外部資金の獲得、教育研究活動の活性化、大学のプレゼンスの向上に関わる懸命な努力を重ねた結果が現れたものです。そして、そうした努力を底支えするものが、国からの運営費交付金です。

3.財務省資料は、国立大学の教職員一人あたり学生数を私立大学と比較し、過大であるかのように記述しています。しかし、ここで求められることは、私立大学の教育環境の改善、そのための私学助成の充実です。国立大学の教職員数は抑制されてきており、とりわけ職員は、東京大学の場合には10年間で約2割も減少しています。国立大学が余剰人員を抱えているかのように認識されているとすれば、誤りです。東京大学と海外の有力大学とを比較するならば、それらと競争していく上で、職員の質・量の確保が必須条件であると考えます。

4.財務省資料は、学生納付金の日米比較を行い、日本の大学の授業料があたかも安価であるかのように記述しています。しかし、アメリカにおいて給付型の公的奨学金が普及していること(逆に、そうした仕組みを持たない点で日本が先進国中特異な存在であること)、アメリカの所得水準(一人当たりGDP)が日本を大きく上回ることなどの重要な事実が触れられていません。こうした点を加味するならば、少なくともアメリカの州立大学に比して、日本の国立大学が安価であると安易に断定できません。

5.財務省資料は、大学に対する公的投資や私費負担の全体規模に関するデータを一切示していません。OECDの国際比較統計によれば、日本の大学への公的投資が最低水準であること、逆に、私費負担が最高水準であることなどが明らかにされています。バランスのとれた議論のためには、こうした情報が併せて示されることが必要です。

 

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