春の紫綬褒章受章

 大学院経済学研究科・岩井克人教授、大学院工学系研究科・藤野陽三教授が、本年春の紫綬褒章を受章いたしました。

岩井克人 大学院経済学研究科・経済学部 教授

 岩井克人教授は、永年にわたり、経済学、特に経済理論の分野の研究、教育に努めてきました。その研究の特徴は、学界の多くの理論家をもってしてもその重要性はわかりつつも、困難さゆえにしり込みしてしまうようなテーマについて、長期間にわたって執拗に研究を続け、多くの学者に祝福されるような業績に結びつけた点にあります。
 その代表と言えるのが、「不均衡動学の理論」で、マクロ経済理論の研究において、経済を安定した長期均衡の状態にあると捉えるのではなく、均衡への調整過程の連鎖の状態にあるという理論の開発に力を入れ、シュムペーター流の経済モデルの開発に貢献しました。この理論は現実との関係という点では、持続的なインフレーションやデフレーション等の現象の解明の基礎となるものです。また、企業を所有関係とする古典的な企業理論の復権を図り、株式会社の中核に二重の所有関係を見出す新たな株式会社論を展開し、企業の理論についても多大な貢献をしています。貨幣の理論についても、サーチ理論的な枠組みを用いて、貨幣を自己循環論法的に捉えるという新たなアプローチを提唱しました。

 岩井教授のこうした深い思考は多くの若手研究者をひきつけ、また、難解な理論を平易にしかも味わいのある文体で解説するという優れた能力で、学界の外にも多くの彼の支持者を集め、こうした範囲まで経済理論を普及させた点においても重要な貢献をしています。
 岩井教授はこれらの業績に対して、日経図書文化賞・特賞、サントリー学芸賞、小林秀雄賞等数々の受賞に輝いており、その他の活動としては、Journal of Evolutionary Economics, Structural Change and Economic Dynamics等様々な国際誌の編集にも当たりました。また東京大学経済学部内では、経済学部長として国立大学の法人化を進める中で、経済学部内に二つのCOEプロジェクトを獲得することにも成功し、基礎的な経済理論の発展、その普及に尽くしたその功績はまことに顕著です。

(大学院経済学研究科長・経済学部長 植田和男)

 

 

藤野陽三 大学院工学系研究科・工学部 教授

 藤野陽三教授は、永年にわたって社会基盤構造安全学の教育研究に努め、地震・風等の環境外乱と、交通を含む社会経済活動に伴う人的外乱に対して、俯瞰的な立場から構造・環境相関モデリングと構造システムのセンシング、さらにその制御に先進的な研究業績を挙げてこられました。振動抑制技術を科学的予測に基づく構造制御学に発展させ、国際学会の設立まで導かれました。これらの業績が今回の受章につながりました。波動・振動は藤野先生の研究の色合い、ともいえるものです。風工学・橋梁工学・地震工学を出発点にして、環境・維持管理・ヘルスモニタリングへと、工学の大きな波を主導されました。
 藤野先生は卓抜なる直感と熱意と実行力に裏打ちされた技術者でもあります。大型橋梁や高層ビルの動的制御技術である液体同調ダンパーや、風環境予測システム等の最新技術を世界に先駆けて開発されました。これらの成果は世界的にも活用されています。現在、アジア構造工学会議の議長、世界構造制御学会理事、最年少の国際構造工学会副会長を務めるとともに、海外基盤整備プロジェクトの技術アドバイザーに就任するなど、International professional engineerとしての顔も併せ持っています。

ロンドンのテームズ河に架かるミレニアムブリッジは、歩行者による振動で緊急閉鎖されことで一躍、世界的に有名となりましたが、これを事前予見し、かつ実際にロンドンに飛んで振動を止めるのに一肌脱いだのも藤野先生でした。また、東京大学で最初の英語による留学生教育プログラムを25年にわたって主導され、藤野先生のもとで博士と修士の学位を得た留学生は60名を超え、アジア、アメリカ、欧州で大学教員や技術者、技術行政官として活躍していることも藤野先生を語る上で欠かせません。笑顔の絶えることなく、温厚にして実直、責任感に富み、多くの後輩をリードされています。

 現在、災害事故に対する都市社会基盤リスクの軽減と制御を目的に、これまでに培ってきた事前予測技術と、事中・事後対策までを含めた知動化セケュア空間概念を提唱し、その実現にむけて鋭意努力を傾注されています。今後益々のご発展とご健勝を祈念してやみません。

(大学院工学系研究科・工学部 教授 前川宏一)