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海と希望の学校 in 三陸第19回

岩手県大槌町にある大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センターを舞台に、社会科学研究所とタッグを組んで行う地域連携プロジェクト―海をベースに三陸各地の地域アイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み―です。5年目を迎え、活動はさらに展開していきます。

ウニと希望の学校 in 三陸 ~名産から学ぶ、生き物の進化~

吉川晟弘
吉川晟弘
大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センター 地域連携研究部門
特任研究員
ウニの解剖の実演風景
解剖はさみを右手に持ち、殻を割ったウニを左手に乗せているセンターの職員とそれを見守る中学生

私は2020年12月から、「海と希望の学校 in 三陸」のプロジェクトに関わらせていただいています。私は学部生の頃から臨海実習が大好きで、いろいろな大学が主催する公開臨海実習にたくさん参加していました。そのため、いま臨海施設で海の生き物を使った実習プログラムに関われることがとても嬉しく、楽しく、やりがいのある毎日を過ごしています。今回は、そんな私が初めて担当した実習について紹介したいと思います。

少し前のこととなってしまいますが、2021年9月28~29日にかけて、地域連携研究センターで宮古市立重茂中学校(以下、重茂中)2年生に向けての実習を行いました。その中で私が任されたのは、重茂の「海」を生物学の側面から理解するというプログラムであったため、重茂名産の「ウニ」の解剖実習を行うことにしました。三陸のなかでも岩手県宮古市重茂地区は、ウニの高い水揚げ量を誇る地域のひとつです。生徒の多くの家庭が漁業を営んでいることもあり、ウニは大変身近な水産物ですが、普段はウニの食べられる部分しか見ていないようです。そこで実習では、生き物としてのウニをじっくり観察して体の構造を理解してもらい、命をいただくことへの感謝につなげることを狙いとしました。

ウニの解剖は、一般的な公開臨海実習では高校生や大学生を対象として行われるプログラムであり、中学生にはやや難しい作業です。そのためまず私が簡単に手順を説明した後で、解剖してもらうことにしたのですが、さすがは重茂の中学生、普段から触り慣れているらしく、抵抗なく手際よく解剖し、すんなりと、五放射状の骨格や、口やお尻の位置など、さまざまなウニの特徴を観察してくれました。

ウニは棘皮動物という動物門に含まれ、近縁グループには、ヒトデやナマコ、クモヒトデ、ウミシダ、ウミユリなどがいます。これらの近縁な動物と比較して、どこが同じか?何が違うのか?自分の目で実物や標本を確かめてもらいながら、ウニが歩んできた進化の道のりや、その生態を学んでもらいました。「ぜんぜん形が違うのに、ナマコと近い仲間なんだ!」とか「いつも食べているところって、星形に並んでいるんだ!」と驚いていたことが印象に残っています。これまでとは違う切り口で、名産を見てもらえたことと、その意外な側面などを学んでもらえたようで、私が担当したはじめての実習の目的はなんとか達成できたように思います。

今後も身近な海の生き物を使って、お家の人や友達に教えたくなるコネタを発見してもらえるような、ワクワクする実習プログラムを作りたいと思います。改善すべき点は多々ありますが、所員の方々の意見をもらいつつ、日々洗練させていきたいと思います。

ウニを顕微鏡で覗いている中学生
顕微鏡で興味深そうに見る子供たち
解剖はさみを使ってウニの殻を割っている中学生と指差しで説明するセンターの職員
慎重に、慎重に
殻を割ったウニを片手または両手に乗せている中学生
綺麗に割れると、いつも食べているところ(生殖腺)が星形に並んでいるのがよくわかります

「海と希望の学校 in 三陸」公式 TwitterのQRコード「海と希望の学校 in 三陸」公式Twitter(@umitokibo)

制作:大気海洋研究所広報室(内線:66430)メーユ

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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第28回

総合文化研究科准教授渡辺美季

沖縄の実情を示す田代安定資料

田代安定たしろやすさだ(1857-1928年)は、近代沖縄研究に先鞭をつけた植物学者・人類学者です。鹿児島城下に生まれ、上京して内務省博物館の博物館掛として勤務した後、1882-87年に農商務省や東京帝国大学(以下、帝大)の依頼を受け、三度にわたって沖縄(特に八重山地方)を訪問・調査し、多数の論文や報告書を執筆しました。そのうち14件が理学図書館に「田代安定資料」として所蔵されており、2021年10月よりデジタル公開が始まりました。いずれも1887年の調査の成果として帝大理科大学(理学部の前身)へ提出されたもので、琉球王国の滅亡(1879年)からまもない時期の沖縄の実情を知り得る貴重な資料です。

「米国新移民法に就いて」と書かれた原稿
今帰仁間切なきじんまぎり親泊おやどまり村のノロの勾玉

内容は宗教・言語・民俗・文学・地理など多岐にわたりますが、なかでも当時盛んに用いられ、後に廃れてしまう結縄けつじょうの一種「藁算わらざん」(藁を結んで数量などを表す方法)に関する一連の調査記録は、その資料的価値の高さから、田代の死後、『沖縄結縄考』として刊行されました。また村落の祭司ノロ(祝女)についての調査記録(「沖縄島おきなわじま祝女のろ佩用はいよう勾玉まがたま実検じっけん図解ずかい」)には、勾玉などの祭具が詳細に図解され[上図]、沖縄の祭祀・信仰をモノから考える手がかりを与えてくれます。

看護師にナースキャップをかぶせているイラストが描かれた「Become a Nurse」と書かれたポスター
上図に描かれた勾玉の原品(個人蔵、写真は沖縄県今帰仁村歴史文化センター提供)

田代は後半生を台湾で過ごしましたが、近年、国立台湾大学図書館で田代の稿本などが大量に発見され、デジタル公開されました。本学のデジタル資料と合わせて、研究のさらなる進展が期待されます。

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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第37回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

家族とともに

当館では、様々な写真帖を所蔵しています。その多くは卒業アルバムや大学の記念アルバムですが、今回は、筆者イチオシの「同窓会」のアルバムをご紹介しましょう。

卒業・記念アルバムは、大学の建物や、その時の総長をはじめとする教師、生徒の個人写真、そして校内の建物の前や旅先での集合写真、という構成が一般的ですが、農科大学の同窓会組織「林友会」の、大正6(1917)年12月印刷『林友会員部会写真帖 第一輯』(F0025/S01/0027)は、少し趣向が異なります。なんと、その人とその家族、ひいては飼い犬や馬なども一緒に写っており、たいへんプライベートな一コマが公開されているのです。写真帖目次によると明治22(1889)年から大正4年までの卒業生が対象で、印刷時の大正6年当時、卒業から年数が経っている人は家族とともに、年数の浅い人は学生服姿で、という被写体の特徴的な傾向もあるようです。

「岩崎祐次」というキャプションのある和装姿の家族の集合写真

中でも筆者がとくに興味を持ったのは、写真帖29頁に掲載されたこの写真です。明治39年卒業の岩崎氏は向かって左端の男性と推測できますが、この写真の主役は子供たち、とくに中央奥の琵琶を構えた少女ではないでしょうか。この琵琶、弦を通して結ぶ「 」(少女の右腕の斜め下の部分)が4つ、棹(細い部分)にはじゅう(フレット)が5つ確認できます。右腕が置かれた琵琶の胴の部分が白いことなどから、この琵琶は、明治後期から大正にかけて大流行した「筑前琵琶」と考えられます。胴の白い部分の素材は、桐です。右手がちょうど机で隠れているのが残念ですが、きっとばちを持っていたことでしょう。

とっておきの家族写真を提出したのかな? などと想像しつつ、当時、享受されていた文化や日常の様子が展開されたアルバムの、一寸マニアックな楽しみ方をご紹介しました。

(学術専門職員・星野厚子)

東京大学文書館

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第191回

農学生命科学研究科・農学部経理課
予算・決算チーム(資産管理担当)
西村洋平

アルコール燃料で元気に動きます

西村洋平
書類は山積み

農学部では、生態調和農学機構、7つの地方演習林、牧場、水産実験所など、附属施設が全国各地にあり、広大な敷地を使用しております。

そのため、方々で土地の貸し借りの手続き、境界確認依頼や売り払い依頼だけでなく、不動産に関するトラブルなどもあり、それぞれの現地の教職員の皆様、本部事務の皆様と協力して対応しております。

この仕事に携わらなければ知ることはなかったであろう、ご近所様との関係や決して表に出ることがない東京大学のローカルでマニアックな歴史を知ることができる点、魅力かと思います。

実際に現場を見ることの重要性を認識しつつも、コロナ禍により、各附属施設を訪れることができておりませんでしたので、今年度こそはと考えております。

弥生キャンパスにおける研究等のためのスペース不足問題、田無キャンパスの整備や水産実験所の移転など、とりかかるべき課題は山積しておりますが、それぞれの業務が円滑に進むよう、努めて参ります。

片側1斜線の道路でカワサキ製のバイクに乗る西村氏
※バイクの燃料はガソリンです
得意ワザ:
雨雲を呼び寄せる
自分の性格:
慎重だが隙が多い。入念だが抜け目が多い
次回執筆者のご指名:
宍戸靖彦さん
次回執筆者との関係:
前職でお世話になった先輩です
次回執筆者の紹介:
頼れるダディ
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ぶらり構内ショップの旅第2回

ルヴェ ソン ヴェール駒場@駒場キャンパスの巻

木々に囲まれたブラッセリー

緑豊かな駒場キャンパスの一角にあるフレンチレストラン、ルヴェ ソン ヴェール駒場(Lever son Verreは「乾杯」の意)。旧制第一高等学校の同窓会館を改修し、2004年にオープンしてから教職員や学生、そして近隣の方など多くの舌を楽しませてきました。プロヴァンスを彷彿とさせるオレンジを基調にした店内では、南仏で修行したシェフが腕を振るいます。「フレンチというとかしこまったイメージを持つかもしれませんが、ここはカジュアルです。気負わずに、是非ドアを開けてみてください」と話すのはマネージャーの小川健太さん。

小川健太さん
マネージャーの
小川健太さん

日替わりランチは魚、肉、ラタトゥイユから選べるメインディッシュに、サラダブッフェと珈琲か紅茶がついて1100円(5月から1200円)。人気のサラダブッフェに並ぶ新鮮な野菜の数々は、シェフが直接市場から仕入れています。東京にある3店舗一括で仕入れることで、鮮度のいい野菜を安価で提供できるそうです。食欲旺盛な学生などは、締めの珈琲の後に、再び野菜をよそっているとか。他には、2420円のランチコースや女性に人気のデザート盛り合わせなどがあります。

コロナ禍で休業を余儀なくされた間には、オンラインショップを立ち上げました。お店の味を自宅で楽しめるフルコースのキットなどは、今でも外出を控えている人などの利用が多いそうです。昨年の10月に再開してから「一層おいしくなった」と声をかけてくれる人が多く、励みになっていると小川さんは言います。

約一年前に他店舗から異動してきた小川さんは、駒場店は雰囲気と環境が抜群にいいと話します。「 都会にありながら、こんなに自然豊かで静かな環境があることに驚きました。外での食事が気持ちのいい季節に、テラス席でカジュアルフレンチを楽しんでみてください」

白いお皿の中央部に肉、野菜、ソースなどが乗っている
ランチ
11:00~14:30 (L.O.)
ディナー
17:00~21:00 (L.O.)
南仏で修業したシェフが作る品々は「どれを食べてもおいしい」と小川さん
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インタープリターズ・バイブル第176回

総合文化研究科 客員教授
科学技術インタープリター養成部門
小松美彦

コロナ禍における科学と政治

コロナ禍に見舞われたこの2年間を顧みれば、日本の関連施策は「人命か/経済か」を基準になされてきたといえよう。また、政府と専門家会議との対立もその基準をめぐっていたと見受けられよう。たとえば、最初の緊急事態宣言(2020年4月7日)にあって、政府は経済活動再開の観点から解除を急いだが、専門家会議は感染拡大防止の点からそれに抗した。しかも、同会議は、政府の諮問への答申や科学的助言にとどまらず、広く独自の政策的発信を行ったが、これも感染爆発への危機感に由来すると報じられた。

その後(20年6月24日)、専門家会議はそうした姿勢を「前のめり」と自省し、改善策を示して世に問うた。そこで科学論分野でも、専門家の権限や当為の検討などを通じて、政府と専門家会議の在り方が論じられてきた。だが、かような実践的な議論とともに、原理的な考察も必要であろう。すなわち、「政治と科学との関係そのもの」についての考察である。

この点に関しては、フランスの哲学者A.コント=スポンヴィルの卓見をまず参照するのがよい。紙幅の制約のため単純化すると、世の中は基盤から順に、「科学技術・経済」、「政治・法」、「道徳・倫理」の各層からなっており、政治・法が科学技術・経済の暴走を、道徳・倫理が政治・法の専制を、それぞれ制御する関係をなしている。ただし、いずれの階層も固有の領分をもっているため、ある階層の問題を他の階層に担わせることも、従わせることもできない。たとえば、科学理論の真偽を国会が多数決で決めることは暴挙であろう。コント=スポンヴィルは、このような領分の混同・転化を「純粋主義」と呼んで戒めている。

ところが、コロナ禍においては、純粋主義が公然となされている。科学的提言の評価が、少なくともその軽重の判断が、政治によって行われており、しかも、そこでは科学と経済とが比較考量されているのである。今その是非は問わないが、それが現実にほかならない。さらには、ここでいう科学とは、いわば真理の探究と提示のためのものであり、かの哲学者がそれと一括した生産力の発展手段としてのものではない。近年では等閑視されがちな両科学の異同も、再検討が必要なのである。

翻ってみれば、そもそも科学による感染症拡大防止とは、人命(個々人の命)を真の目的としているのだろうか。もしそうではないのなら、「人命/経済」であるかに見えた政治(政府)と科学(専門家会議)との真の対立軸は、はたして何であろうか。

科学技術インタープリター養成プログラム

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第30回

渉外部門
シニア・ディレクター
高橋麻子

春から始めるアニュアルギフト

新年度を迎え、新たなチャレンジとして「何か社会貢献をしてみたい」という声を聞きます。おすすめなのが、奨学金制度や研究プロジェクトへ毎月少しずつ寄付ができる継続寄付(アニュアルギフト)という方法です。

東京大学基金ではウェブサイトから、様々なプロジェクトへの継続寄付を申し込むことができます。“寄付のサブスク”とも言われる継続寄付の特徴やメリットをご紹介します。

少額から始められます。1,000円以上で好きな金額と頻度(毎月、年1回、年2回)が選べます。ご自身の無理ない範囲で始めることができます。

手続きは最初の1回だけ。変更や停止は、お申込み時に作成されたマイページからいつでも可能です。

寄付の使い道がわかります。メールマガジンやウェブサイトの活動報告で、寄付先プロジェクトの最新情報や寄付の活用方法を知ることができます。

領収書はまとめて年1回。1年分のご寄付の領収書をまとめて翌年2月上旬に受け取ることができます。領収書の紛失の心配もありません。

寄付金控除が受けられます。継続寄付も東京大学へのご寄付として税法上の優遇措置の対象となります(確定申告が必要です)。

研究を深く知る機会も。いくつかのプロジェクトでは、継続寄付者を対象にした独自の特典や報告会イベントへの招待があり、研究者と交流する機会もあります。

安田講堂にあなたの銘板を。毎月1,000円のご寄付を25年続けると累計寄付金額が30万円となり安田講堂に銘板を掲示させていただきます。いつかご家族と見にこられるといいですね。

一滴の水がやがて大河になるように、小さな応援もたくさん集まることで、学生や研究者の夢を支えることができます。また寄り添い喜びを分かち合うことが、自身の励みとなり豊かな気持ちにしてくれます。

この春、アニュアルギフトで新しい社会貢献を始めてみませんか?

「光量子コンピューター研究支援基金」と書かれた猫のイラストのある会員証
かわいい「シュレ猫」の会員証がもらえるプロジェクトもあります
(光量子コンピューター研究支援基金)
継続寄付の詳細はこちら→
https://utf.u-tokyo.ac.jp/htd/annual
東京大学基金の継続寄付のQRコード

※ウクライナ侵攻を受けた「学生・研究者の特別受入れプログラム」の一助として、東京大学基金では緊急人道支援基金の寄付募集を開始しました