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海と希望の学校 in 三陸第22回

岩手県大槌町にある大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センターを舞台に、社会科学研究所とタッグを組んで行う地域連携プロジェクト―海をベースに三陸各地の地域アイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み―です。5年目を迎え、活動はさらに展開していきます。

「海と希望の学校 in 重茂」を目指して

大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センター
地域連携研究部門特任研究員
吉村健司
吉村健司
スクリーンの前の演台で中間発表する中学生とそれを聞く参加者
中間発表会の様子

大槌沿岸センターでは宮古市立重茂おもえ中学校との協定を締結後、さまざまな実習等を行ってきました(No. 1537)。重茂中学校では、「自分の興味関心について、自分で調べ、発表する」という3年生の学年目標が設定されています。その目標達成の課題として、3年生の生徒は「重茂」や「海」に関するテーマを設定し、生徒各自が興味を持ったことについて調べ、発表する活動をしてきました。センターのスタッフは、その発表準備のお手伝いをしてきました。

10月23日に開催される文化祭での最終発表会に先立ち、8月30日に中間発表会が行われました。本年は「重茂の将来の漁業」や「重茂に流れつくゴミ」など7つのテーマに分かれての発表でした。今回の発表ではセンターのスタッフに加え、地域の方々にもご参加いただき、地域の視点からのアドバイスをいただくことができました。今回、中間発表にも地域の方にもおいでいただいた狙いはここにありました。

以前の『学内広報』で、これからはセンターと重茂地区は学校の繋がりだけでなく、地域も交えて連携を目指していくことをお伝えしました(No.1553)。昨年までは最終発表を行い、それに対して地域の方やセンターのスタッフがコメントをして終了となっていました。しかし、今年からはより地域性を取り入れていくべく、中間発表の機会を設けました。そして、センターのスタッフと地域の方々が一丸となり生徒の発表をサポートしようということになりました。

センターのスタッフは学術的な側面からのアドバイスはできますが、どうしても「重茂」という地域の情報については疎いという弱点があります。地域の方々を招くことで、そうした点を克服できる点からも、今回の中間発表会はセンターと地域がタッグを組んだ、よい会になったのではないかと思います。この取り組みは来年度以降も続け、より多くの地域の方がコミットしていく会にしていきたいと思います。

中間発表会の後、生徒たちは早速、質問やアドバイスを受けた点を解決するために、重茂地域を奔走しているようでした。生徒たちは今回の発表をさらにブラッシュアップし、10月23日に開催される文化祭での最終発表会に臨みます。これまでは、3年生のプログラムは、最終発表会で終了となっていましたが、本年度からは、こうした成果を重茂地域内での発表に留まらず、盛岡などでも発信していく予定です。

大槌沿岸センターと重茂中学校の協定の締結後、重茂中学校で様々な取り組みをさせていただきました。「海と希望の学校 in 三陸」のプロジェクトは今年度で最終年となりますが、来年度以降も大槌沿岸センターと重茂地域が一丸となって、重茂版の海と希望の学校「海と希望の学校 in 重茂」を作り上げていきたいと思います。

長机で発表を聞く大槌沿岸センターのスタッフ
発表を聞く大槌沿岸センターのスタッフ
長机でマイクを使ってアドバイスをする漁協職員
漁協職員の方によるアドバイス
教室で向かい合って相談をしている中学生と大槌沿岸センターのスタッフ
発表会に向けての相談会

「海と希望の学校 in 三陸」公式 TwitterのQRコード「海と希望の学校 in 三陸」公式Twitter(@umitokibo)

制作:大気海洋研究所広報室(内線:66430)メーユ

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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第31回

総合文化研究科 准教授出口智之

鷗外文庫書入本画像データベース

『渋江家乗』第7コマの見開き
『渋江家乗』第7コマ。見開き左が鷗外自筆

総合図書館には本学の卒業生であり、文学者・軍医・官僚として活躍した森鷗外の旧蔵書「鷗外文庫」が所蔵されています。鷗外他界の翌年、大正12(1923)年の関東大震災で甚大な被害を受けた図書館の復興のため、昭和初期に遺族から寄贈されました。約19,000冊の和・漢・洋書からなり、現在でも同館蔵書の重要な一角を占めています。

この鷗外文庫には、公刊された書籍だけでなく、鷗外自筆のノートや執筆に用いられた資料などが多数含まれます。また、鷗外は読書の際に本に書込む習慣があり、なかには研究上重要な資料となる書入れもあります。ところが、文庫の完全な目録が存在しなかったうえ、あまりに冊数が多いため、どの本にどんな書入れがあるのか、その全体像は長く不明なままでした。

この状況を受け、図書館は平成17~21(2005-09)年度にかけて、通称「鷗外文庫プロジェクト」を遂行しました。まず書庫内の全図書を悉皆調査して、既存の暫定目録に漏れたものまで含めて鷗外文庫本を特定、さらに全点全ページを目視確認し、書入れの状況を調査するという壮大な計画でした。そのうえで、重要と判断された自筆・他筆の写本や書入れについて、デジタル画像化してデータベースを構築、解題を附してウェブ公開しました。これが「鷗外文庫書入本画像データベース」で、現在は和書212・洋書57の269タイトルが公開され、しばしば参照される最重要資料はおおむね網羅されています。画像の『渋江家乗』はそのうちの1つで、代表作「渋江抽斎」の基礎資料です。

調査の結果判明した書入れの数は著しく多く、そのすべてを画像化して公開するめどはいまだ立っていません。いつか完全なデータベースができることを夢見つつ、ぜひ一度、鷗外の肉筆を高精細な画像でご覧くださいませ。

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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第40回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

関東大震災とアーカイブズ資料

9月1日の「防災の日」から秋にかけてのこの時期は、各地で防災訓練が実施されます。今回取り上げるのは、来年100年の節目を迎える「関東大震災」の記録です。

大正12(1923)年9月1日に発生した関東大震災は、首都圏全域に甚大な被害をもたらし、本学も建物の多くが損壊や延焼の被害を受けました。当館所蔵資料のなかに、9月3日付で作成された被災状況報告が残されています。「一日正午大地震ノ為メ医化学教室ヨリ出火、生理薬物教室図書館法文経全部応用化学数学教室本部御殿等焼失。全市七分通全滅避難民ニテ校内混雑中」とあり、震災による被害と構内に集まった罹災者の様子を伝えています(「震災ノ為各部局移轉ノ件」S0005/25/0142)。大学では罹災者に運動場や利用可能な施設を開放し、さらに食糧支援などを実施しました。当時の職員が撮影した写真には、構内で古着を選ぶ罹災者の姿も残されています。これらの救護活動は、帝大生たちが組織した学生救護団が中心となって展開されました(「震災救護ニ関スル事項」S0001/Mo187/0005)。

関東大震災で帝国大学に避難した人々が古着を選んでいる様子
関東大震災 古着を選ぶ帝大内避難民(F0064/0012)

キャンパス復興では、震災から二十年余にわたって予算が計上されました。大学会計課が作成した震災復旧費関係の綴には、震災直後に応急的に建てられた仮建物が6、7年経っても使用されていることを憂えた意見などもみられますが、年を追うごとに綴が薄くなり、やがて文書自体が作成されなくなる過程に復興の歩みを感じられます(「東京帝国大学会計課文書」S0061/28~33)

文書館ではこれらの他にも震災関連資料を所蔵しています。災害を振り返るとき、私たちは被害の深刻さや復興した姿に目を奪われがちですが、災害対応や長期にわたる復興プロセスを後から検証できるよう記録を残し、将来にいかしていくこともまた防災の取り組みのひとつだと言えるでしょう。

(特任研究員 逢坂裕紀子)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第197回

地震研究所
研究支援チーム 係長
武林昭子

定量研から地震研の受託研究担当へ

武林昭子
事務室の窓から東大球場がよく見えます♪

4月に定量研から地震研にやってきました。担当業務は変わらず受託研究で、受入や実績報告などを行っているのですが、資金配分機関によってこんなにもルールや手続きが違うのか!と分からないことだらけ。それでもとても温かい研究支援チームの皆様に支えられて、楽しく仕事をさせてもらっています。

仕事をする時は、研究者の事務負担を減らして研究・教育に集中してもらいたい!といつも考えているのですが、現実には先生方のお手間をとらせてしまうことも多く、申し訳なく思っています。色々な手続きがぱぱっとできるシステムがあったら、研究者も事務職員もみんなハッピーなのになぁと空想してみたり。

プライベートでは、趣味のバレーボールから産後すっかり遠ざかり、自己主張の強い二人の子供から「お母さん、こっちみて!」「お母さん、だっこ!」「お母さん!!」と矢継ぎ早に飛んでくるボールをレシーブするのに駆け回る日々です。実は出勤して職場にいる時間が、私の一番の安らぎの時間だったりします。

地震研究所の玄関前に集まった研究支援チームのメンバー
温かくて頼りになるチームの皆さまです!
得意ワザ:
蚊にさされてもかゆくならない!
自分の性格:
真面目だとよく言われます(^^;)
次回執筆者のご指名:
藤本あかりさん
次回執筆者との関係:
工学部在籍時の留学生担当つながり
次回執筆者の紹介:
笑顔と英語を話す姿がとっても素敵!
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ぶらり構内ショップの旅第8回

カッフェヴィゴーレ@駒場キャンパスの巻

イタリアの本格的コーヒーを

駒場キャンパスの木々に囲まれた一角にあるカフェチェーン店、イタリアントマト カッフェヴィゴーレ。以前はカフェジュニアとして営業していましたが、2019年に改修し、ヨーロピアンスタイルを基調とした店内で、こだわりの珈琲やピザなどを提供するワンランク上のカフェとして生まれ変わりました。

石川和久さん
店長の石川和久さん

「ヴィゴーレ」はイタリア語で活力や元気という意味で、お客さんが充電できるような店にしたいという思いを込めたそうです。「学生さんが多く利用されるので、社会に出る前にワンランク上のカフェを体験していただきたい、という思いもあります」とイタリアントマトの店長、石川和久さんは話します。

パスタ、ピッツァ、サンドイッチやスイーツなどのメニューのなかでも、断トツの人気を誇るのは定番のマルゲリータピザ。ヴィゴーレで提供しているナポリピザは、耳の部分を厚く残していて、もちもちした触感が特徴です。生地は注文が入る都度伸ばして、店内にある窯で焼いています。 また、8~9割を占めるという常連客に人気なのが、毎月第二木曜日に登場する新しいフードメニューです。9月には、ペペロンチーノの上に生のホウレンソウをたっぷりのせた、ビジュアル的にもインパクト大の「生ほうれん草のパスタ」が加わりました。原材料費の高騰により、人気があった生パスタは現在休止していますが、いずれメニューに戻したいと考えているそうです。

そして、是非味わってほしいと石川さんが話すのが、イタリアの老舗ロースター、illyのコーヒー。豆は高品質なアラビカ種100%のシングルブレンドで、価格も高いため、カフェチェーン店で見かけることはあまりないとか。緑豊かな景色を眺めながら、本格的なイタリアンコーヒーを楽しんでみてはいかがでしょうか。平日の午前中と午後4時以降は比較的空いているそうです。

グラスに入っているアイスのハニーカフェラテ、カップに入っているホットのハニーカフェラテ
illyのコーヒー豆を使ったハニーカフェラテ
営業時間(10月~)

平日10:00-19:00
土日9:00-18:00
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インタープリターズ・バイブル第182回

理学系研究科 准教授
科学技術インタープリター養成部門
鳥居寛之

科学コミュニケーションの若者感覚

環境省のプロジェクトで、SNSの時代において放射線の科学的なリスク情報をいかに効果的に伝えるか、医学者や情報学者ともタイアップして研究している。昨年度まとめた提言には、Twitterにおける情報伝達の特性を理解して、科学的情報発信をするインフルエンサーをサポートする協力体制や、科学者・学会間の連携が重要だと結論づけた。影響力の大きい科学者には誹謗中傷や脅迫が届く現実も直接インタビューで聞いた。覚悟して情報発信する人を守る体制も必要だ。

根拠や判断過程を添えた迅速な情報発信が肝要で、ファクトチェックにより非科学的情報を打ち消す一方で、偏りのない様々な意見の見える化が求められる。いわゆる統一見解は信用されず、正しいことが伝わるという科学者の思い込みは幻想に過ぎない。

先日、本郷理学部で放射化学会の討論会が開催された。3年ぶりの対面での学会は大盛況であったが、なかでも福島県の高校生・高専生による発表が印象的だった。復興のために、震災遺構の役割や中間貯蔵施設の将来について、自分たちが積極的な情報発信を行うとの若き熱い思いが伝わってきた。ALPS処理水に関する情報提供について考察したチームは、当事者である電力会社が科学的に正しい発信をしても信頼されず、中立な専門家や学会の役割が大切であるとし、将来を担う若者に知ってもらうためには、権威ある老人の言葉では響かず、身近な先生や、SNSからの情報が受け入れられやすいとの分析を発表していた。文字よりも動画が好まれること、そして、ホームページのようにただ掲載する媒体ではみんなが見るわけではないので、プッシュ配信されるSNS(Twitterは中年向けで、若い層にはLINEやInstagramなどでアプローチすべきとのこと)を活用し、欧米のようにセレブが社会的責任として自発的に発信して影響力を発揮すべきだと結論づけていた。つまりは、大人の科学者が考えているような堅苦しい情報提供は誤認識による自己満足で、若い世代にアピールするやり方にシフトする必要がある、と手厳しいが、まさに的を射た指摘で感心した。

数年前にリスクコミュニケーションの大家の先生が、Twitterは変人がやるものだから世相を反映していない、と我々の研究成果を評したことと併せて鑑みるに、そろそろこの国も、未来を担う若者に目を向け、彼らの意見をもっと尊重した方がいいのではなかろうか。これから情報発信を実践するプロジェクトにおいて、大いに参考にしたいと思った次第である。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第36回

渉外部門
シニア・ディレクター
高橋麻子

寄付者の権利をまもるために

東京大学150周年ロゴ

東京大学150周年ロゴが発表され、いよいよ周年寄付キャンペーンが動き出しました。

寄付とは、大学の理念や活動への理解と共感を持った方が、自身の資産の一部を大学に譲渡することです。寄付とは、見返りがなく経済的合理性がない行為です。だからこそ、寄付は大学を信頼し託してくださる想いそのものであり、私たち寄付を受け取る側(大学)は、常に誠実さを持ちながら寄付者と向き合い、良好な関係構築に尽力する必要があります。

ファンドレイジングを推進するにあたっては、資金獲得の面だけでなく、「寄付者の権利をまもる」ことも重要と考えます。2006年に世界24カ国が賛同した「International Statement of Ethical Principles in Fundraising」(ファンドレイジングにおける倫理原則に関する国際声明)をうけて、日本では2010年に「寄付者の権利宣言2010」が策定されました(日本ファンドレイジング協会)。寄付を募るときは、まずこの寄付者の権利宣言を遵守し、誠実な説明や報告に取り組む必要があります。

寄付者の権利宣言2010

1. 寄付者は、寄付に際して、寄付先、寄付目的、寄付金額、寄付物品を自身の意思で決めることができます。

2. 寄付者は、寄付金や寄付物品の使途目的をあらかじめ知ることができます。

3. 寄付者は、寄付先の組織、事業内容、財務情報について知ることができます。

4. 寄付者は、寄付金や寄付物品が実際どのように活用されたかを知ることができます。

5. 寄付者は、寄付先に、自身の個人情報の保護を求めることができます。

一見、当たり前のように感じますが、上記を達成するためには、寄付の使徒や金額を強要しない、指定された寄付目的を勝手に別の用途に使用しない、定期的な成果の報告を怠らない、守秘義務を果たすことなどが求められます。これらファンドレイジングの取り組みに関する行動原則、行動規範をまとめた「ファンドレイジング行動基準」も同年に策定されています。

大学が、寄付者の権利を知り、まもる行動をとることで、寄付者が達成感と安心感を得ることができ、また次の寄付へと繋がります。寄付文化の醸成がすすみ、より良い社会をつくるサイクルが生まれていきます。現場のファンドレイザーだけでなく、大学組織全体で、また構成員全員が認識しておくことで、善意と共感の輪がより大きく広がっていくのではと思います。

東京大学基金事務局(本部渉外課)
kikin.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp