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第25回海と希望の学校―震災復興の先へ―

岩手県大槌町にある大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に、社会科学研究所とタッグを組んで行う地域連携プロジェクト―海をベースにしたローカルアイデンティティの再構築を通じ、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み―です。研究機関であると同時に地域社会の一員としての役割を果たすべく、活動を展開しています。

もう5年、まだ5年

青山 潤
大気海洋研究所附属
国際・地域連携研究センター長
青山 潤
草で飾られた白い扉と茶色の椅子。奥は三陸沿岸
三陸沿岸に設置された「すずめの戸締まり」の白い扉。
震災を忘れないというメッセージは地元の人たちの心を強くしてくれます

東日本大震災から12年。未曾有の災害に見舞われた被災地三陸の復興を旗印に始まった「海と希望の学校 in 三陸」も6年目を迎えました。この間、大気海洋研究所と社会科学研究所という異色のタッグにより、「海をベースにしたローカルアイデンティティの再構築」を通じて、三陸沿岸にいくつもの希望の種を生み出すことができたと自負しています。海に関わる様々な企画の中で、老若男女を問わず、震災直後にはなかった笑顔に触れることが多くなりました。海洋研究者の話を聞いて水産関係の大学へ進学した高校生、江戸時代の三陸沿岸で起きた“三閉伊一揆”に関する政治学者の解説に感銘を受け、唐傘連判状に署名して学級目標に“一揆”を掲げた中学生、そして研究者との関わりを通じ、成果ではなく“答えを探すこと”の重要性に気づいた生徒たち。大学の壁の中から地域へ踏み出した我々のメッセージを受け止めてくれた若者たちが、三陸の将来に大きな希望の花を咲かせてくれると信じています。思い返せば5年前、どこかそっけなかった地元の自治体や各種団体の皆さんに、「東大さん、本気だったんですね」と言われるようになったことが何よりの勲章です。

「海と希望の学校 in 三陸」を通じ、私自身も多くを学びました。それまで行ってきた海洋科学研究には、時代も国境も文化も超えて存在する絶対解があり、そこへ続く道に残る先人たちの足跡や、更なる高みを目指す世界中の研究者たちの動向を示す論文という明確な地図がありました。かつては、自分の現在地や進む方向を確認できるという安心感を意識することすらありませんでした。しかし、「海と希望の学校 in 三陸」には、道標どころか明確なゴールすらありません。いったいどこを目指して、何をすればよいのか。訳もわからず手探りで進む心細さといったら……。何もかも投げ出して、研究の世界へ駆け戻りたくなったものです。

そんな私の灯台となったのは、震災前から「希望」という掴みどころのないテーマに挑み続けてきた社会科学研究所の研究者たちの考え方や立ち振る舞いでした。今、振り返れば、自分はなんと小さなことに怯えていたのかと感じます。海洋研究の地図に、希望のありかを示すことができれば、これまでにない新しい世界を創造できるかもしれません。

漁船とその奥にある牡蠣の養殖筏
山田湾にびっしりと浮かんだ牡蠣の養殖筏

「海と希望の学校 in 三陸」は、5年の区切りを迎えました。震災復興支援を長く見つめてきた三陸の人たちは、「金の切れ目が縁の切れ目」となりがちであることをよく知っています。「東大さん、やっぱり本気だったんですね」。そう言ってもらうためにも「海と希望の学校in 三陸」はこれからも継続します。地域との連携で一番大切なことは、大仰な理念や奇抜なアプローチではなく、そこと信じたゴールを目指し、いつまでも本気で走り続けることだと知ったからです。一方、このプロジェクトには、震災復興だけでなく、その先に広がる世界にも希望を生み出すポテンシャルがあると確信しています。機会があれば、いつかどこかで「海と希望の学校」の力を試してみたいと考えています。

「海と希望の学校 in 三陸」公式 TwitterのQRコード「海と希望の学校 in 三陸」公式Twitter(@umitokibo)

制作:大気海洋研究所広報室(内線:66430)メーユ

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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第34回

工学系研究科建築学専攻
技術専門職員
角田真弓

関東大震災と大学建築

赤茶色の建物がたくさん描かれている東大本郷構内構想図
東大本郷構内構想図(昭和11年頃、岸田日出刀画)
内田祥三によるキャンパス構想に基づき描かれた油彩画

本郷キャンパスや駒場キャンパスを歩いていると、赤茶色や黄土色のスクラッチタイルに覆われた古い建築がキャンパス空間を形成していることがわかります。これらの建築は、第14代総長を務めた内田祥三うちだよしかず(1885~1972)を中心とする大学営繕課(現在の施設部)の設計に係る、関東大震災後に建てられた鉄筋コンクリート造のいわゆる復興建築です。

ちょうど100年前にあたる1923(大正12)年9月に発生した関東大震災により、東京はもとより南関東を中心に多くの建物が倒壊や焼失しました。大学の建築も例に漏れず、大半を占めたレンガ造校舎は大きな被害を受け、教育再開に向け校舎建築の再建が喫緊の課題となります。

内田祥三は東京帝国大学卒業後、建築学科教授を務める傍ら営繕課長を兼任しており、関東大震災により被災した東京帝国大学のキャンパス復興に尽力しました。当時の営繕課には岸田日出刀きしだひでとなど数多くの建築学科卒業生が採用され、20年弱の間に40棟以上のキャンパス建築が建設されました。内田ゴシックと呼ばれる特徴的なスクラッチタイル貼のカレッジ・ゴシック建築ばかりに目が行きがちですが、瓦屋根が葺かれた育徳堂(1935年)や七徳堂(1938年)、モダニズム建築の特質を持つ小石川植物園本館(1939年)など用途や立地に合わせたデザインを採用していることが解ります。

内田祥三に関係する資料は東京大学文書館や東京都公文書館などが所蔵していますが、内田家に保管されていた図面類が2000年にご遺族より工学系研究科建築学専攻に寄贈されました。工学系研究科建築学専攻ではこの資料群を東京大学デジタルアーカイブズ構築事業によりデジタル化し、2022年9月から「内田祥三資料」としてインターネット公開しています。

キャンパス散策とともに100年の歴史を感じてください。

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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第43回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

刑務所は意外と身近?

みなさんは、刑務所の作業で作られた製品を買ったことはありますか。最近では、洗濯用スティック石鹸は買い占め問題が起こるほど、とくに人気のようです。

今回ご紹介する資料は、大正13年の、小菅刑務所からの刑務作業品の用命依頼の文書です。(「刑務者作業製作ニ係ル諸種製品供給ニ應ス可クニ付御用命方照會越ノ件」『官庁往復 大正十三年』(S0003/40))。

「直接申込」や「東京帝国大學」と書かれた文書

大学では依頼を受けて、各部局が直接申し込むようにと学内周知しています。

まさかの刑務作業品の販促文書に驚きましたが、こうした作業物品販売や業務引き請けは、実は、明治5年に「監獄則並図式」が定められた時から、すでに制度化されているものでした。

ところで、東京大学には刑務作業品が間違いなくひとつ残されています。安田講堂の基礎に使われている小菅刑務所製の煉瓦です。平成25・26年に行われた改修工事の際に、桜花の刻印のある通称「小菅煉瓦」が確認されています(東京大学大講堂(安田講堂)改修工事報告書)。小菅刑務所は、もともと高品質の煉瓦をつくる工場があった場所を引き継いで設置されたもので、小菅煉瓦は軍施設や官公庁に多く使われたそうです。それならば安田講堂で採用するのも当然のように思われますが、じつは明治末期にはすでに煉瓦製造事業は大幅に縮小されており、関東大震災でついに操業中止となりました。そうした状況下でなお小菅煉瓦が選ばれた理由は筆者には確認できていませんが、いずれにせよ、安田講堂の小菅煉瓦は最晩期の貴重なものと言えそうです。

学内には、まだ他にも刑務作業品が残されているかもしれません。そこの古い帳簿も、もしかして……(小菅煉瓦について成瀬晃司先生(埋蔵文化財調査室)に多くの御教示をいただきました)。

(准教授・森本祥子)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第203回

教育・学生支援部
国際教育推進課学生交流チーム
柴崎亜弥

USTEP生いらっしゃい!

柴崎亜弥
米国でのNAFSA年次大会へ出展

国際教育推進課(グローバル教育センター設置に伴い国際交流課から進化しました!)では、学生の国際教育交流に関する幅広い業務を行っています。その中で「ワタシのオシゴト」は、世界中にある80校以上のパートナー校から交換留学生(USTEP生と呼びます)の受入れをコーディネートすることで、海外パートナー校の担当者・本学へ留学を希望する学生・部局の担当者様など、様々な方と日々コミュニケーションをとっています。

留学は人生に大きな影響を与える貴重な経験だと思うので、留学生が本学で有意義な時間を過ごせるように心がけて仕事に取り組んでいます。感染症や世界情勢の影響を大きく受ける分野のため、臨機応変な対応が求められる難しさや責任を感じる場面も多いですが、来日した学生の嬉しそうな笑顔が見られる瞬間はとてもやりがいを感じます。

「USTEP」のロゴが入った黒いTシャツを着たチームの集合写真
心強いチームの皆さんと!
得意ワザ:
何ごとも楽しく、まずはやってみること!
自分の性格:
山よりは海派です
次回執筆者のご指名:
橋本有葵さん
次回執筆者との関係:
同期で留学生受入仲間
次回執筆者の紹介:
おっとり系でも実は行動派

世界最大規模の国際教育交流団体

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ぶらり構内ショップの旅第14回

Bio cafe ape@駒IIキャンパスの巻

体と環境に優しいイタリアン

駒場リサーチキャンパスのAn棟1Fにあるオーガニックカフェ「Bio cafe ape」。隣接するイタリアンレストラン「ape cucina naturale」で腕を振るう島田伸幸シェフの料理を、より気軽に食べられるカフェとして2016年にオープンしました。イタリア語でミツバチを意味する店名の「ape」には、

島田伸幸さん
島田伸幸シェフ

花から花へ花粉を運ぶ蜂のように、生産者とお客さんをつなげたいという思いが込められているそうです。野菜や調味料など、使用している食材は全てオーガニック。草木堆肥による土作りを行っている自然農園の野菜やハーブで育てられた豚など、厳選した素材を生かし、健康に配慮した食事を提供しています。

ランチは2種類から選べるパスタとサラダボックスのセットが1000円(学内者は900円)。水曜日はピザも選択できます。サラダボックスは、栄養価を高くするために発芽させたレンズ豆と春菊などのサラダや、パプリカのフランボワーズマリネなど時期によって変わる総菜が4種類(単品600円)。ドレッシングにも人参やキュウリなど、旬の野菜が使われています。全てのメニューは、健康を考えて優しい味わいにしていると話すマネージャ―の矢木清美さん。「咀嚼して食べていただくと、素材が本来持つ味を楽しめます」

毎週金曜日に登場するカレーは、スパイスを調合して作る本格派。ターメリックやパプリカを使ったご飯と一緒にサーブされます。

食材から洗剤まで、サステイナブルなものを使用しているape。食事を入れる容器も土に還る植物由来の材料で作られたもの。混雑時でなければ、持参した容器に詰めてもらうこともできるそうです。コーヒーやハーブティーを飲むだけでも、気軽に利用してほしいそうです。

枝豆などで和えた緑色のパスタとラディッシュなどの野菜のサラダ
オーガニック野菜をたっぷり使ったパスタとサラダのランチセット
営業時間
10:30–14:30 定休日:土、日、月
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インタープリターズ・バイブル第188回

総合文化研究科教授
科学技術インタープリター養成部門
梶谷真司

コミュニケーションの前にコミュニティを!

私は2013年から2015年の3年間、京都の総合地球環境学研究所(通称「地球研」)で、都市と地方の関係から環境問題を考えるプロジェクトをもっていた。これは国際規模では、先進国と発展途上国の関係であり、より一般的に言えば、「中心」と「周縁」の関係である。そこにある問題とは、「中心」に当たる都市や先進国が物事を決定し、「周縁」に当たる地方や途上国の人々を犠牲にしているということである。つまり、環境問題とは要するに格差問題なのである。そのような視点から、プロジェクトでは、周縁に位置するコミュニティのイニシアティブをどのように強化するかという課題を立てていた。

さて、環境問題に取り組むさい、通常は理系の研究者が中心になっていて、解決すべき問題――汚染や破壊――が具体的に決まっているのが普通だろう。ところが私たちは、コミュニティ形成の仕方からアプローチしていたので、取り組むべき問題が明確ではなく、理系の研究者がほぼいなかった。代わりに私たちのプロジェクトにはいろんな分野の人たちがいた。哲学以外に、文化人類学、民俗学、宗教学、人文地理学、建築史、社会安全学、都市政策、環境史、災害史、さらには農家の人や金融機関の人、自治体職員、デザイナーもいた。

それで私たちがしていたのは、ひたすらおしゃべりであった。メンバー間はもちろん、地方のいろんなところへ行っていろんな人と話をした。結局私たちは、具体的成果はとくに出さなかったが、一つはっきり分かったことがある――科学に限らず、専門領域が何であれ、よいコミュニケーションをするには、それ以前によいコミュニティがなければいけないということだ。さもなければ、立場の違いからくる衝突や軋轢など、コミュニケーションの困難さにフォーカスが当たりやすい。だから問うべきは、このコミュニティがどんなもので、どうすれば実現できるかである。この一見当たり前のことが、意外に理解されていない。プロジェクトの最大の成果は、そこにあったと考えている。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第42回

本部渉外課
戦略チーム
杉山光佑

川柳で届けたい、寄付への想い。

東大基金では、昨年秋に「寄付川柳コンテスト2022」を開催し、寄付をテーマとした川柳を募集しました。募集当初は、本当に作品のご応募をいただけるのか心配だったのですが、メールマガジンやSNSでの告知に加え、イベント会場に川柳応募BOXを設置するなど、地道に広報を続けたことで、最終的に寄付者、卒業生、教職員など様々な方々から計381作品のご応募をいただきました。

優秀賞「寄付をした あの日の自分 わりと好き」ペンネーム ゆずきヶ島さん
優秀賞受賞作の一つ

これらの作品の中から、基金事務局での選考を経て、大賞1作品、優秀賞6作品、特別賞3作品を選出しました。入賞作品は、学内向けにライブ放送でお届けした「基金つながるラジオ」で発表したほか、作品紹介動画を作成し東大基金のWebページに掲載しました。どんな作品が入賞したのか気になる方は下記のQRコードから作品一覧をご覧ください。また、紹介動画では、私が心を込めて入賞作品を読み上げたので、そちらにもご注目ください。

これら一連の企画により、東大基金は「寄付月間2022」の「企画特別賞 学校賞」を受賞しました。「寄付月間」とは、「欲しい未来へ、寄付を贈ろう。」を合言葉に毎年12月の1か月間、全国規模で行われる寄付啓発キャンペーンです。この期間に合わせて様々な企業や団体が寄付に関する取組を実施しており、今回は160個以上の賛同企画の中から特別賞に選出いただきました。

担当者の手作り感満載の企画ではありましたが、川柳というツールを通じて、多くの方に東大基金や寄付の魅力について、知っていただく機会になったのではないかと思います。また、あまりコストをかけなくても工夫次第で企画を盛り上げることができるという手ごたえも感じ、一職員としても学びが多い企画となりました。

私たちは今後も、東大基金の取組みや寄付についての情報発信を続けていきます。川柳コンテストのように、学内の皆様にもご参加いただける企画も実施していきますので、どうぞお楽しみに!

川柳コンテスト結果
https://utf.u-tokyo.ac.jp/newslist/senryu2022result
川柳コンテスト2022結果のQRコード

東京大学基金事務局(本部渉外課)
kikin.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp