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『中院一品記』 『明国箚付(前田玄以宛)』の重要文化財指定について

掲載日:2017年3月21日

実施日: 2017年03月10日

 2017年3月10日(金)に開催された文化審議会文化財分科会の審議・議決を経て、文化審議会は7件の国宝、37件の重要文化財の指定を文部科学大臣に答申しました。その中で、東京大学所有・史料編纂所保管の『中院一品記』および『明国箚付(前田玄以宛)』が、重要文化財に指定されることになりました。
 『中院一品記』(自筆11巻、写2巻の計13巻)は、南北朝期の貴族中院通冬(なかのいんみちふゆ、1315~1363)の日記で、建武3年(1336)から貞和5年(1349)に至る14年間の動向を詳細に記すものです。中院家は、村上源氏を代表する一流で、大臣を極官とする家格を有していました。南北朝の内乱を詳細に伝える数少ない日記であるとともに、当時の公家がいかに日記を作成したのかを窺うことのできる素材としても貴重です。明治時代末から史料編纂所に架蔵されていましたが、破損が大きかったため、長きにわたって十分に公開・活用することが叶わずにおりました。このたび「貴重史料継承のための保全事業」経費を用いて、3年におよぶ修理・調査を完了したところ、幸いにも指定となりました。さらに2017年度中には、史料集『大日本古記録』(史料編纂所編、岩波書店刊)の一書目としての公刊を目指しています。
 『明国箚付(前田玄以宛)』は、前田玄以を都督僉事(正二品)に任じる旨を記した、明国兵部が発給した公文書(箚付とは上級官から下級官へ伝達する際に使用される文書形式)です。前田玄以は京都所司代などを務めたことで知られる、豊臣政権の吏僚です。1595年、文禄・慶長の役のはざまの和平交渉の過程で、明朝が豊臣秀吉を日本国王に冊封した際、豊臣政権下の諸大名・吏僚にも明朝の官職が与えられました。本史料はこのとき発給された文書の一つで、現在、本史料のほかに、毛利輝元と上杉景勝を都督同知(従一品)に任じた箚付が、それぞれ毛利博物館と上杉神社に残されており、すでに重要文化財指定を受けています。
 史料編纂所が本史料を購入したのは1926年のことですが、それ以前の1923年、神田乃武氏所蔵であったとき、本所で行われた第11回史料展覧会に出品されています。以後は展覧される機会のないままに過ぎましたが、2013年、第36回史料展覧会で80年ぶりに展示したことから、急速に注目を集めることとなりました。これをうけ、本所では2015-16年にかけて共同研究を組織して上杉景勝宛・毛利輝元宛箚付との比較研究を行い、2016年12月にはその成果を検討する研究会を開催しています(http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/news/2016/event_20161102.pdf)。今回の指定においては、本史料が、当該期の東アジア諸国に多大な影響を与えた戦争に関する類例稀な外交文書原本であること、古文書学・東アジア外交史研究の上での重要性が評価されました。
 いずれも史料編纂所での修理や研究を経て、歴史的価値があきらかになり、今回の指定につながったものです。来たる4月18日(火)~5月7日(日)に東京国立博物館で開催される「平成29年新指定国宝・重要文化財」展において一般に公開される予定です。ぜひとも足をお運びください。

史料編纂所の公開する所蔵史料目録データベース
http://wwwap.hi.u-tokyo.ac.jp/ships/shipscontroller

文化審議会答申(2017年3月10日)
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/2017031002.html
 



『中院一品記』巻1冒頭

『明国箚付』(万暦二十三年二月四日 前田玄以宛)
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