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先端科学と哲学の一般講演会「起源への問い」開催

掲載日:2016年2月5日

実施日: 2016年01月10日

2016年1月10日(日)、カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)と東京工業大学の地球生命研究所(ELSI)共催による講演会「起源への問い」を日本科学未来館未来館ホール(お台場)で開催しました。

この講演会は、文部科学省による、世界のトップレベルに匹敵する研究拠点を国内に作るという「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択された拠点の中で、「宇宙の起源に迫る」ことを目的とするKavli IPMUと「地球と生命の起源に迫る」ことを目的とするELSIが人類にとって根源的なテーマといえる「起源への問い」という共通のテーマのもと、最新の研究内容を平易に一般に紹介するもので、東京大学共生のための国際哲学センター(UTCP)から哲学の講師も交えた、多様な視点を提供するイベントとなりました。

当日は、まずWPIプログラムの黒木登志夫ディレクターによる挨拶があり、続いて村山斉Kavli IPMU機構長による「宇宙の起源と星の誕生」と題した講演、廣瀬敬ELSI所長による「地球の起源と生命の誕生」と題した講演、梶谷真司UTCPセンター長による「科学と世界観の系譜—人間の存在意義の歴史性−」と題した講演、そして3名による鼎談「起源を問うとはどういうことか」、さらに別室に移っての講師を囲んでの懇談会、という盛りだくさんの内容が行われ、会場は参加者で満員となるほどの大変な盛り上がりとなりました。

村山機構長による講演では、"ビッグバン"により水素とヘリウムが生み出されたが、わたしたちを形成するその他の元素は実は星の内部で作成されたこと。星の形成には暗黒物質が必要であったことを、ニュートリノ観測実験が果たしてきた役割をからめつつ、わかりやすい比喩で軽快に解説しました。
さらには、暗黒物質に迫るため、加速器実験で実際に粒子を作り出そうとする試みと地下深くの実験装置で捕獲する試みの紹介や、暗黒物質は強い相互作用をする複合粒子であるとする自身の新説について紹介がありました。また、なぜ今私たちの世界には物質しか残っていないのかに関する話題や、宇宙自身の始まりについて説明する"インフレーション理論"については今後具体的にKavli IPMUも参加するLiteBIRD実験で迫れる可能性があることをお話ししました。さらに、なぜ宇宙はこんなにうまくできているのかという謎には、超ひも理論の9次元宇宙という説を紹介し、謎だらけの宇宙の起源と星の誕生の話を締めくくりました。

続いて廣瀬所長による講演では、まず地球の起源については、地球と月の地質記録および、理論モデルにより迫ることができること、惑星全般については、"惑星形成モデル"としてかなりわかってきていること。さらに、地球の海が"奇跡的に少ない"ために陸と海の共存が可能になり、それが環境の多様性、多様な生命へとつながったと考えられている、と解説しました。
一方、生命の起源については、地球上の生命は単一の共通祖先から進化したとするものの、地球の生命と比較できる対象が地球外に今のところないことから生命の起源に迫ることは難しく、惑星形成のように生命に関する標準モデルすらないということが示されました。続いて生命の起源の研究は、遺伝子解読により生命の進化を遡る方法と、生命の3大要素である細胞膜、DNA/RNA、タンパク質を無機物から合成するという方法があることを挙げ、後者の方法をとり、生命の本質を持続していることとすると、生命に必要な原初的な分子の持続的な供給の方法を明らかにすることが最も意味を持つことから、原始の代謝反応(逆クエン酸回路)が鉱物を触媒にして成立していることを再現できれば、実験室で生命の起源に迫れると解説しました。

最後に梶谷センター長による講演では、まず、科学(地動説と進化論)を支える価値観には"秩序"の尊重があるとし、ピタゴラス、ケプラーを例に引いて、数学的な調和、数量化を志向する特殊性を指摘しました。また"完全性"の尊重について、ケプラー、ニュートン、アインシュタインを例に引き、不変、普遍の尊重を指摘しました。
続いて、こういった価値観に支えられた科学が支えている価値を、科学以前と以後という切り口から、紹介しました。退化/堕落として捉えられていた人間の歴史が、科学の出現以後、進化/発展として受容されるようになり、神による救済という希望が残されていた科学以前に対し、人間という存在の尊厳が保証されなくなった今、宇宙の進化、科学技術の発展の果てにある未来への疑問を投げかけました。

続いての鼎談では、梶谷センター長から問いが出され、それに科学者としての廣瀬所長、村山機構長の両氏が個人的な視点を交えて回答していく中で、できすぎている宇宙、できすぎている惑星としての地球、生命の多様性を知らないが故の地球の生命の特殊性の特定不可能性、そして普遍性の希求として数学の絶対性を”信じて”いる反面、あまりにうまくできすぎていることへの躊躇いもたしかにあること、ここまで継続しえた科学という不思議さなどが話題に上がりました。

最後に、眺めの良い別室で行われた講師を囲む懇談会も、非常な盛り上がりを見せ、3名の講師を囲む来場者による何重もの輪はいつまでも小さくなることはないまま、イベントの終了の時刻を迎えました。

終了後のアンケート結果では、「科学と哲学を併せた講演会というのは始めてで面白かったです。」「いつもより多く疑問がわいたり興味が広がりました。」「トークセクションで先生方が疑問のぶつけ合いで大変楽しかったです。」など多くの感想が寄せられ、多くの来場者が科学と哲学から1つのテーマに迫った本講演会をここでしか味わえない知的興奮と共に楽しんだ様子が伺えました。

関連URL:http://www.ipmu.jp/ja/2016origin



科学者と哲学者がざっくばらんに"起源への問い"を交わした (credit:ELSI)

Kavli IPMU村山機構長による「宇宙の起源と星の誕生」の講演の様子

講演後の懇談会にて熱気を帯びたたくさんの来場者に囲まれるUTCP梶谷センター長
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