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先端科学と哲学の一般講演会「宇宙観の東西」開催

掲載日:2016年3月30日

実施日: 2016年03月20日

カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)では、3月20日 (日) 、東京大学柏キャンパス (千葉県柏市) にあるKavli IPMU レクチャーホールにて、一般の方を対象とした講演会を開催しました。この講演会は今年1月に行われて好評を博した科学者と哲学者の交流を広く一般市民の方と共有する試みに続くもので、最先端のサイエンス(西洋)と、中国思想(東洋)それぞれの視点から「宇宙観」を語りその共通項を探るものです。
 
今回は、カリフォルニア大学バークレー校教授で、Kavli IPMUの客員上級科学研究員でもある野村泰紀氏と、東京大学東洋文化研究所教授中島隆博氏を講師にお招きしました。当日は、野村氏による「マルチバース宇宙論 ー 最新物理理論の語る宇宙」と題した講演、中島氏による「コスモロギア, その内と外 ー 中国の宇宙論的想像力」と題した講演、続いて両氏による対談「宇宙観の東西」、さらに両氏を囲んでのティータイムが行われ、会場は定員140名ぴったりの参加者で文字通り満席となる盛況ぶりでした。
 
野村氏による講演では、 わたしたちが存在しているこの宇宙は、より大きな構造内にある1つの「泡」であり、その泡の始まりやその泡の外側をも問いえるマルチバース宇宙論を紹介しました。
真空のエネルギー(宇宙項)が0ではない非常に小さい値であるという実験結果を現在の物理学の枠組みの中で唯一説明できる理論であること、超弦理論やインフレーション理論との連関、今後観測で示されることが期待される宇宙の曲率の値、宇宙同士の衝突の観測の可能性、などに触れ、これまでの人類の宇宙観の変遷を概念変更の歴史であったとまとめ、マルチバース宇宙論の今後の展開として、宇宙の概念だけではなく、それを支える時間や空間の概念をも問い直す必要があることを提示し、活力溢れる講演となりました。続いての質疑の時間には「宇宙同士が衝突すると何が見えるのか」「宇宙の研究と日々の生活のギャップについてどう考えているか」「負の曲率の数値が理論的に予測できないのはなぜ」等、質問が相次ぎました。
 
中島氏による講演では、野村氏の講演を受け、現在の世界は無数に考えられるさまざまなあり方をした世界の中で神が選んだ最善の世界であるとするライプニッツによる可能世界論 をマルチバース宇宙論に並置することを端緒として、現代の仏人哲学者メイヤスーによる、近代科学に向き合い、人間の存在と無関係に持続する世界を、神なしに思考し続ける道を歩むべしという主張を紹介しました。
そのライプニッツが、彼の同時代の中国の思想を研究していたことを紹介し、「時」「化」「天」の系譜をたどると、ヒュームが問うた、根源に偶然性を抱えるこの世界にあってどのようにして安定がもたらされるのかを、彼の同時代人の戴震も問うていたことを紹介し、今われわれは強い理由のないこの世界でどう善を生きていくかを問うて、古今東西を縦横無尽に駆け抜け講演を終えました。続いての質疑の時間には「理論的説明が果たして本当に可能なのか」「人間の思考のツールとして数理物理と言語では足りないのではないか。新しいツールの開発は哲学側では行っているということはないか」「科学を追うのは時につらい、哲学から元気づけるようなメッセージをもらえないか」等、質問が相次ぎました。
 
続いての対談においては、現在の科学と哲学の最先端では、方法は違うけれど描いているビジョンや、何が基本的な部分で何が変わる部分なのかを見極めようとするなど、非常に多くの部分を共有していることが確認され、
物理学、西洋哲学、東洋哲学での「時間」という概念の扱いの違い、サイエンティストはサイエンスの枠を決めその中で答えを求めるが、哲学は何の枠組みもない中で答えを出さずに問い方を洗練させるなど限界に向かう態度の違い、サイエンスが西洋で発展し、中国で発展しなかった原因を考察するなど、方法としてのサイエンスと哲学の相違点が並びました。
 
最後に行われた、講師を囲む懇談会も、熱心に講師に質問を寄せる参加者の方々により、短時間ながら非常な盛り上がりを見せ、イベントの終了の時刻を迎えました。
 
終了後のアンケート結果では、「普遍的だと思っていたものがそうではないということが衝撃だった」「それぞれの専門の研究者が、交流して知を深めるという趣旨は、数理と物理の交流に加えて、さらに知の刺激をもたらすものと感じました」「刺激的でした。脳みそが熱くなる知的興奮を覚えました」「とてもおもしろかったです。哲学と宇宙論と素人には一見関係がないような学問がここまで密接だったのかとびっくりしました」など多くの感想が寄せられ、多くの来場者が科学と哲学から1つのテーマに迫った本講演会を非常に強いインパクトとともに知的に楽しんだ様子が伺えました。

関連URL:http://www.ipmu.jp/ja/2016EastWest



参加者の質問に答える両講師

野村教授による講演「マルチバース宇宙論 ー 最新物理理論の語る宇宙」

中島教授による講演「コスモロギア, その内と外 ー 中国の宇宙論的想像力」
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