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人生の軸となる古典文学の復興を目指す | UTOKYO VOICES 001 (広報戦略本部)

2018年01月09日掲載

実施日: 2017年11月01日

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大学院人文社会系研究科・文学部 教授 野崎 歓

人生の軸となる古典文学の復興を目指す。

小学4年で出会った、ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』。「読み終わったときは家族全員が寝ていて、自分だけが別世界を旅していたのです」と、野崎は当時の感動を反芻する。子供用にリライトされた本だったが、その後の歩みに決定的な影響を及ぼしたことは間違いない。

それ以来、本にどっぷりハマる。『少年少女世界文学全集』を真剣に読み、野崎の世界は拡張を続ける。中学になり、小遣いで買った講談社文庫で自覚的に世界の文学に没入。同時に創元推理文庫のミステリーにも囚われ、読書はさらに加速する。ただ、「ミステリーばかり読んでいていいのかというやましさを覚え、いつもあえて難しそうな文学書とセットで買っていました。常に二つの選択肢がないと落ち着かない」というから、物事を相対化する視点はその頃に芽生えていたに違いない。

また、身体が弱くて小学校の遠足にも行けなかった野崎は『ミクロの決死圏』に衝撃を受け、映画に熱中。さらに中学の時に、ザ・ローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンなどイギリスのロックにも心を奪われる。今でも、文学・映画・音楽という3つのチャンネルは野崎の心を刺激し続け、何事にも束縛されない発想の原動力となっている。

最初はシンプルなアメリカ文学に引かれたのだが、中学で出会った堀口大學訳『月下の一群』をはじめボードレールやバルザックに異様な興奮を覚え「フランス文学こそ世界の頂点と思い込み」、進路指導には東大仏文と書く。先生からは「つぶしがきかない」と諭されるのだが、翻訳書の訳者プロフィールに「東大仏文卒という人が多いので、楽しく食べていける」と確信。希望通り東大仏文に入学して、大学院からフランス留学を経て、研究者人生一直線。

とはいえその途中、大学院の修士論文で躓き、どうしても書けないため屈辱の休学。追い詰められた修士4年の秋、「ロマン主義詩人のジェラール・ド・ネルヴァルの長大な『東方紀行』に取り組んだのですが、非力な自分には全体を網にかけられない」と苦慮していたところ、「田村毅先生から『東方紀行』は長いから序章だけ論じれば修士論文になる」とアドバイスを受けたことで何とか完成にこぎつけた。「意外と好評で涙がこぼれそうになりました」と話す。

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Memento

猫の小物入れ。前職の宿舎に遊びにくる猫の相手をするうち、大の猫好きになった。この小物入れは30年ほど前に、職場の近くで買ったもの。少し前まで家でも飼っていて、仕事中はいつもそばにいた

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Maxim

ルネサンス期の作家、ラブレーの作中の言葉。仏文研究室のモットーとして代々伝えられてきている

フランス文学研究の面白さは3つのポイントがある。「まず、ロマン主義以降は現在まで地続きで繋がっており、絶対と考えられていた価値の揺らぎの中で戦っていくための軸となること。次に、日本人研究者としては、研究成果を翻訳によって日本の読者に届けることができる。そして映画など他のジャンルに接続していく楽しさ。映画も文学と対等とみなすフランスの研究者に影響を受けた。いずれもが、人間にとってリアルな真実に迫る道」だと語る。

現代のわれわれは活字文化の旧時代と、インターネットであらゆる壁を突破できる全く新しい文明の誕生期のはざまにいる。「変動する時代だからこそ過去と向き合って軸を見つければ、流されたとしても自分を見失うことはありません。今後の目標は古典復興です」と笑顔で話す。

取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

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野崎 歓(のざき・かん)
1981年東京大学文学部卒。同大学院人文科学研究科博士課程中退。一橋大学法学部講師、一橋大学大学院言語社会研究科助教授、東京大学総合文化研究科・教養学部助教授を経て、現在東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授。フランス文学研究のほか映画評論、文芸評論など幅広く手がけている。主な著訳書に『ジャン・ルノワール 越境する映画』(青土社、サントリー学芸賞)、『赤ちゃん教育』(青土社、講談社エッセイ賞)、『異邦の香り――ネルヴァル「東方紀行」論』(講談社、読売文学賞)、トゥーサン『浴室』(集英社、ベルギー・フランス語圏翻訳賞)など多数。



 
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