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2018年 五神総長年頭挨拶 (広報室)

2018年01月01日掲載

実施日: 2018年01月01日

新年明けましておめでとうございます。
2018年の年頭にあたり、ご挨拶を申し上げます。

東京大学は昨年創設140周年を迎えました。この140年は、第二次世界大戦を境としてほぼ前後の70年にわかれます。前半の70年は、開国によって国際社会で認められるために、明治政府のもとで近代国家の建設を担う人材を育成することから始まりました。そのために西洋の学問を旺盛に取り入れる中で、東洋と西洋の異なる学問を融合し、新たな学問を作り出すという東京大学の伝統が築かれました。後半の70年は、敗戦後の復興から始まりました。20世紀後半は科学技術の革新を牽引力とした工業化が進み、世界経済は飛躍的に拡大しました。その中で日本はめざましい高度経済成長を成し遂げ、世界有数の先進国としての地位を獲得するとともに、平和な社会を築いてきました。ここでも東京大学は、最先端の学術研究を学んだ数多くの人材を社会の各方面に送り出し、大きな役割を果たしてきました。

この140年間における科学技術の革新は、人類に大きな力を与えました。今世紀に入ってからも科学技術の進歩は加速しており、それに伴って社会の様相も大きく変化し続けています。しかし、その一方で、地球環境の劣化、地域間格差、国際紛争の複雑化といった地球規模の課題も顕在化しています。この数年を見ますと、世界は不安定さをいっそう増しているように感じます。新しい技術は、個々の人々の生活を変えるだけでなく、人と人の繋がり方を質的に変えてきていると感じます。その変化は、人類が数世紀をかけて構築してきた資本主義や民主主義といった、社会を支える基本的な仕組みそのものを揺るがし、限界を際立たせています。最近、よく耳にするようになった、ポストトゥルースという言葉もその表れだと言えます。一方的な情報拡散によって、情動が大きなうねりとなって大きな力をもつのです。私たちはこのうねりを押し返し、新しい技術をしっかり制御し、社会をより良い方向に導いていかねばなりません。その原動力は「知」の力に他なりません。知恵とそれを活用する人が集積する場としての大学の責任はいっそう高まっていると感じています。

ところで、最近IoT、Internet of things、という言葉をよく聞きます。インターネットは人と人を繋ぐネットワークとして発展してきましたが、IoTは、人を介さずに、様々な物をインターネットに直接繋げるのです。インターネットに繋がった物が生みだすデータは既に加速度的に増大し、サイバー空間を行き交っています。さらに、最近の目覚ましい技術の発展によって、この巨大なデータを人工知能によってリアルタイムで自動的に解析し、その結果を活用できる可能性も見えてきました。これは、私たちが暮らすリアルな物理空間とサイバー空間が高度に融合した新たな世界の誕生を意味します。これによって、私たちが好むと好まざるとに関わらず、社会の様相は大きく変わって行くことは間違いありません。人々の価値創造の営みそのもの、すなわち産業構造をも一変させるでしょう。社会のあらゆる分野で、いわばパラダイムシフトがもたらされるのです。

近代において経済成長は、産業が労働集約型から資本集約型へと移行することによって達成されてきました。冒頭で述べたように、日本を含め先進国は、この成長モデルの中で、一次産業から二次産業に軸足を移し、工業化を進めました。日本は明治期からの殖産興業、戦後の高度成長期において、資本集約化を進め、工業立国となり世界有数の経済大国となりました。しかし、この成長の一方で都市と地方の格差拡大、環境劣化などの課題が進行しました。さらに日本では超高齢化という深刻な課題が控えています。

パラダイムシフトはこの状況を好転させる可能性を持っています。物理空間とサイバー空間を高度に融合させたスマート化を行うことで、旧来の1次、2次、3次産業という分類によらず、すべての産業活動が同時に質的な変化をすると考えられます。価値の主体は物ではなくなり、知恵や情報が新しい価値創造を担うのです。これまでは資本を集約しなければ生産性を向上させられなかった分野も、これからは、遠隔地に分散した資本をサイバー空間上で繋ぐことによって高い生産性を実現できるようになります。これは「知識集約型」産業へのパラダイムシフトとも言うべき姿です。この知識集約型社会への転換は、現代社会が抱えている様々な困難を克服するチャンスをもたらします。都市と地方の格差は縮小し、老若男女、ハンデのあるなしを問わず、ひとりひとりの知恵と可能性が最大限に引き出され、皆が参加できるより良い社会に向かう大きな可能性を持っていると私は感じています。

しかし、私たちがこの理想にまっすぐ向かうことが出来るかどうかは自明ではありません。これを実現するために、東京大学は、多様な人々が集い、互いを尊重し合いながら知恵を出し合い協力する場を提供し、人類社会をより良い方向へ導くための、新たな社会の仕組みを提案していきたいと考えています。

こうした理念を掲げて、東京大学は昨年6月30日に指定国立大学法人の指定を受けました。これによって大学の経営力をいっそう高め、より自律的に大学を運営することが可能になりました。私たちは、認定申請を期に「地球と人類社会の未来に貢献する『知の協創の世界拠点』の形成」という構想を全学でまとめ、この新しい制度を生かして、東京大学が、より良い社会への変革を駆動すると宣言しました。特に、2015年に国連が提示したSustainable Development Goals(SDGs)に着目し、これを学内外で共有する共通目標として、社会と大学がこれまで以上に強い信頼関係を持って、一緒に行動していくことを掲げています。7月には、この構想を全学として推進するために「未来社会協創推進本部」(Future Society Initiative : FSI)を設置し、すでに活動を開始しています。

今後も全学の総力を結集し、いっそう力強く行動していきたいと思います。皆様の温かいご支援、ご協力をお願いいたします。

最後に、新しい年が皆さまにとって良い年になるよう心よりお祈り申し上げます。

2018年1月1日
東京大学総長
五神 真



東京大学総長 五神 真
Photo: Jun-ichi Kaizuka
 
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