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人々の話(ストーリー)の中から現代人の死生観や倫理観が浮かび上がる。 | UTOKYO VOICES 006 (広報戦略本部)

2018年01月30日掲載

実施日: 2017年12月19日

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大学院人文社会系研究科 死生学・応用倫理センター 准教授 堀江宗正

人々の話(ストーリー)の中から現代人の死生観や倫理観が浮かび上がる。

4才の頃の堀江は、「自分はどうして生まれてきたのだろう」と考えた。

その時に「人間の幸福のために生きろ」という啓示のようなものが浮かんだという。「そんなことを考えるなんて普通ではないかもしれませんね。ただ振り返って見れば、結局、その時から今に至るまで、『では人間の幸福とはなんだろうか』ということを考え続けてきたわけです」。

中学生になると、ドイツの文学者ヘルマン・ヘッセを読むうちに、そのつながりから心理学者ユングに関心が出てきた。高校時代には心理学の本を読むようになり、信仰や憑依などの現象の宗教的な説明と心理学的な説明を統合できないかと考えるようになった。

大学では精神分析家であり、社会学者であるエーリッヒ・フロムを知り、学部では心理学を専攻したが、宗教心理学という分野があることを知り、大学院では宗教学の島薗進教授に学び、その指導のもとで博士論文を書いた。

学生時代、周囲では死生学への関心は高くなく、宗教は葬式などより、人間の生き方に影響しなければ意味がないという考え方が一般的だった。「私自身は霊的なものへの関心から、死生学は重要だと漠然と考えていましたが、一方で死と生に関する経験がないうちにやるのは限界があると感じていました。それでも死生学の理論や思想の研究を続け、身内の死も体験したあとに、東日本大震災が起こりました。それが本格的に踏み込む契機でした」。

最初は支援のために被災地に出かけていたが、親しい人を亡くした人たちから、自然に死者の霊の話が出てきた。研究しなければならないという思いで、東北大学の研究者と100人に話を聞いて論文にまとめた。そこでの一番大きな発見は、未知の霊についての怖い話と身内の霊についての心温まる話の二種類の話があるということだった。

「共同体が壊れたままの地域は浮かばれない霊が出るという話が多い。逆に寺院や墓が高台にあって助かり、人々の結びつきも強い地域では、霊が出たという話を聞くと皆が『どこだ? 会いに行きたい』という雰囲気だった。死者を住民として考えているのです」。

また、「死んだ人はどこにも行っておらず、ここにいるのだ」という人にも何人か出会った。「生き残った人たちはただ生きているだけでなく、死者たちとともに生きている。そのような語りから、誰もが伝えるべき死生観や倫理観を持っており、それを掘り起こしていきたいと考えるようになりました」。

その後も、反原発デモの参加者100人に聞き取りを行い、集計・分析を続けた。最近では人の死生にかかわる領域でケアを行うようになった人たちの価値観やライフストーリーの調査を進めている。

宗教学者・姉崎正治の肖像画

Memento

堀江が描いた宗教学者・姉崎正治の肖像画(作成中)。姉崎は明治26年に東京大学文学部哲学科に入学、井上哲次郎、ケーベルに学んだ人物。明治37年には東京帝国大学教授となり、翌年宗教学講座を開設、日本の宗教学研究の発展の基礎を築いた

直筆コメント

Maxim

「『星の王子さま』からの一文を5・7・5で訳してみました。信仰などないという人でも、何か目に見えないものを大切にしています。愛も心もいのちも。それを探り当てたいという気持ちが私を研究に駆り立てています」

東日本大震災後、人を助けるために活動しようという人がとても増えたと堀江はいう。一方で、弱っている人を自己責任だと攻撃する人もいて、世の中が二極分解している。

「なぜ自分の役に立たないのに、人助けをしようとする人が出てくるのか。生存を脅かされている人たちをケアすることは自然に、死生学の問題に結びつきます。人助けをし、ケアする人格はどうして形成されるのか。それが今、最大の研究テーマです」。

堀江は2011年に『スピリッチュアリティのゆくえ』(岩波書店)という本を書いている。「死と生や霊の問題、要するにスピリチュアリティ(霊性・精神性)に関心がある若者たちへのインタビューなのですが、彼らの多くはそれを友だちには話せないでいる。語ると引かれたり、いじめられたりすると恐れるのです。振り返れば、自分にもそういうところがあった。反論があるのは良いとしても、語ることすらできない状況はおかしい」。自分にとって大事な生き方や考え方の話を、普通に語れる世の中にしたいと語る。

「人間の幸福とは何だろうか」と問い続ける堀江の挑戦は続く。

取材・文/菊地原 博、撮影/今村拓馬

プロフィール画像

堀江宗正(ほりえ・のりちか)
1995年、東京大学大学院人文科学研究科修士課程を終了、2000年3月に同大学博士課程を単位取得退学。2001年から2013年まで、聖心女子大学にて専任講師、准教授。2008年に東京大学大学院人文社会系研究科にて博士(文学)。2013年から同研究科人文社会系研究科の死生学・応用倫理センターで准教授。著書に『歴史のなかの宗教心理学』(2009年)、『スピリチュアリティのゆくえ』(2011年)。研究テーマはスピリチュアリティ、死生観。今後は世代間正義、未来倫理などにテーマを広げる予定。

関連URL:UTOKYO VOICES 一覧




 
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