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バイオロギングを世間の常識に。 | UTOKYO VOICES 009 (広報戦略本部)

2018年02月09日掲載

実施日: 2017年12月05日

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大気海洋研究所 海洋生命科学部門 教授 佐藤克文

バイオロギングを世間の常識に。

海の中は謎だらけ。

四半世紀前は、陸上動物に比べて、多くの水生動物の生態が未解明だった。そこで考案されたのが、データロガーという小型の記録計を用いるバイオロギングだ。データロガーを動物に装着することで、水生動物の行動・生理・生態の解明はもちろん、現在では地球レベルの気象研究にも貢献している。

佐藤をバイオロギングに導いたきっかけは、小学生のときに読んだ漫画『釣りキチ三平』だ。初めて釣りに行ったときに、ビギナーズラックで父よりも大きな魚を釣り上げ、その楽しさにものめり込んだ。中学・高校はサッカーに熱中しながら、「『釣りキチ三平』全65巻を読んで、将来釣りができる仕事につきたいと思い」、京都大学農学部水産学科に入学。「京大に入ったのは親元から離れたかったこともありました」と、神奈川育ちの佐藤は話す。

「当時はバイオテクノロジーによるミクロな研究が主流になりつつある時代で、動物まるごとを研究するマクロな研究をする人が少数派になっていました」と振り返る。大学4年間はサッカーにのめり込み、体力と精神は鍛えたが、研究者になろうとは思っていなかったという。ところが、卒業研究でデータロガーを使ったウミガメ研究に取り組んだことが、研究者へと導いた。装置の脱落やカメが帰還しないといった不測の事態が次々と発生し、データを入手できなかったため「このままでは終われない」と大学院に進学したのだ。

修士2年のとき、「ウミガメは爬虫類の仲間なので変温動物のはずですが、得られたデータを分析すると、胃の中の温度は変化しないことがわかりました」と、今までの常識を覆す結果を得て、ますますバイオロギングにのめり込んだ。結局、「カメは大きな物体なので物理的な性質として冷えにくいということがわかり、それが学位論文になりました」。

今、最もホットな研究は、JAXAに開発してもらったフライトレコーダー(方位、高度、速度、加速度、温度などを細かく記録)を鳥の背中に装着して行う行動研究だ。「一人の学生が鳥に装着したフライトレコーダーで風速や風向、温度などがわかるのではと閃き、人工衛星による観測の空隙を埋める気象データとしても活用できることがわかったんです」。

小物

Memento

岩手県大槌町にあった研究室の資料は東日本大震災で全て流されたが、瓦礫の中から祖父が使っていたハサミ「種子島」が見つかった。1945年の新潟県の長岡大空襲と3.11の津波をくぐり抜けた100年物のハサミは今でも現役として、封筒を切っている

直筆コメント

Maxim

ほとんどの研究はうまくいかないが、「自分で試行錯誤を繰り返すと、なぜか最後はうまくいく。バイオロギングという面白い分野があるから是非参加して欲しい」と、佐藤はエールを送る

動物の生態研究の手段として生まれたバイオロギングが、気象研究者から見て画期的な装置にもなったのだ。2016年12月からは、気象研究者と連携してバイオロギングで得られたデータを活用する大型プロジェクトが始まった。「鳥を使って推定する風情報はかなり信頼できるということまでは分かってきました。今後、鳥由来のデータを使って気象予測の精度が上がれば大ホームランです」と、佐藤は期待している。

また、佐藤は「中学校の国語教科書に『バイオロギング』が載り、毎年数十万人が読んでその可能性を感じてもらえることが最高に嬉しい」と語る。バイオロギングによって野生動物の生態が次々と明らかになっている。「野生動物を漠然ととらえずに、同じ地球に暮らす身近で大切な存在であることを理解して欲しい」。

今後は「バイオロギングを活用した研究成果が世間の常識になるだけでなく、バイオロギングという手法の面白さも世間に広めたい」と佐藤の夢は広がる。

取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

プロフィール画像

佐藤克文(さとう・かつふみ)
1990年京都大学農学部水産学科卒業、92年京都大学大学院農学研究科水産学専攻修士課程修了、95年京都大学大学院農学研究科水産学専攻博士課程修了(農学博士)。日本学術振興会特別研究員(国立極地研究所)を経て、1997年より国立極地研究所助手。2004年3月より東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター准教授、2014年から同研究所行動生態計測分野教授となる。著書に「サボり上手な動物たち」(岩波科学ライブラリー)、「ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ~ハイテク海洋動物学への招待~」(光文社新書)など。

関連URL:UTOKYO VOICES 一覧




 
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