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ケネディ駐日大使とゴッテモラー米国務次官が東大を訪問しました

掲載日:2015年8月19日

実施日: 2015年08月07日

2015年8月7日、キャロライン・ケネディ駐日米国大使およびローズ・ゴッテモラー米国務次官が東京大学の本郷地区弥生キャンパスを訪問し、STEM教育*と女性の教育をテーマにした討論会に参加しました。東京大学からは生産技術研究所の大島まり教授(情報学環兼任)および13名の学生が討論会に参加しました。

最初に登壇したケネディ駐日大使は、父・故ケネディ元大統領の科学発展への貢献の功績に触れながら、現在の国際社会にとって最も重要なのは「諸問題を解決するために、科学的知識を向上させ、より多くの革新的な技術や政策を生み出すこと」だと話を始めました。そして、そのためにはほぼすべての分野でSTEM教育が不可欠であることを強調しました。さらに、各国が協調して物事に取り組む必要のあるグローバル化の現代においては、一国だけでは大きな問題は解決できないこと、各国が協調して問題の解決に当たらなくてはならないことを訴えました。そして、討論会に参加した学生たちに、東大で受けている世界第一級の教育を活かして、STEM関連分野で革新を起こしてほしいと語りかけました。ケネディ駐日大使は最後に、学生たちに日米の研究交流に積極的に参加するように要請し、こうした交流は「アジア太平洋地域、さらには世界の平和と発展の大きな礎となっている」日米同盟をさらに強化することになると述べました。

続いてゴッテモラー国務次官が登壇し、STEM分野は日米関係にとって重要なだけでなく、世界の経済の安定にとっても重要であると語り始めました。そして自身の1960年代のアメリカの高校時代を振り返り、その当時の女子学生は科学の勉強ではなく言語や文学の勉強をするように「半ば強制される」のが一般的だったけれど、現在ではこうした文系への「半強制」はもはや存在していないと述べました。さらに、日本とアメリカでは教育事情が異なることを前提にしながらも、STEM分野で勉強したり働いたりする女性には世界各国で共通点があると指摘しました。女性の教育という課題について世界各国で話をする機会が多い国務次官は、STEM分野の女性は結婚や出産を機に仕事を続けるのが難しくなることに気が付いたそうです。ゴッテモラー国務次官は女性がSTEM分野で働くことの困難を認めつつ(例えば、日本ではSTEM分野で働く女性は、就労女性のわずか14%のみ)、世界経済のさらなる安定発展のためには、すべての人がSTEM分野と深く関わっていかなくてはならないと訴えました。国務次官は先ほどケネディ駐日大使が科学技術はあらゆる分野で重要だと述べたことに賛同して、自身の職業を例に挙げてその重要性を語りました。国務次官は核廃絶に取り組んでいますが、そのためには核弾頭を追跡し監視するための精密な能力が必要で、ここでSTEM分野が重要になってくるそうです。彼女が例として挙げたのが、センサー技術のユビキタス活用でした。タブレットやスマートフォンなどの電子デバイスのセンサー技術(例えば地震波の感知)をネットワークでつないでユビキタス化することは、地震活動を記録するのに貢献するだけでなく、(揺れを感知することで)不正な核実験を察知できる可能性があり、それが核兵器の追跡につながるかもしれないと述べていました。

次に大島教授が登壇して、自身の次世代育成オフィス(ONG)室長としての仕事を簡単に紹介しました。次世代育成オフィスは、小中高生を対象にSTEM教育を展開するために2011年に設立された、産学連携を重視した東京大学生産技術研究所の組織で、STEM教育のアウトリーチや教材開発を行っています。(生産技術研究所は、STEM教育および小中高生の科学分野への関心を高めることに熱心に取り組んでいます。)次世代育成オフィスでは、小中高生が科学や数学の知識を向上させること、さらには科学技術が日常生活に与える影響に対してより関心を持つことを目指しています。大島教授は日本が少子化などの重大な問題に直面している現在、将来のイノベーションのための人材開発が重要なことを訴えました。そのためにも、STEM教育、特に女子学生に対するSTEM教育が重要であると述べました。大島教授によると、日本の教育は暗記重視から生徒の知識力を深める方向へ転換しており、それに沿って2020年には入試改革が導入され、高校ではプロジェクト学習が施行され、2022年には文科省助成の数学と科学のリエゾンプログラムが導入されるそうです。大島教授は、日本のSTEM教育がこれから大きく変わっていくのが楽しみだと語っていました。

続いてケネディ大使、ゴッテモラー国務次官、大島教授が東大の学生たちと討論や質疑応答を行いました。一人の女子学生が、自分は専攻クラスの中で唯一の女子であること、クラスの男子生徒から対等な立場で接してもらっていることを話しました。ゴッテモラー国務次官はこの話を受けて、自らの体験談を披露しました。国務次官が大陸間弾頭ミサイルの交渉でロシアへ行った時、交渉相手は全員男性の軍幹部だったそうです。国務次官は当時を思い出しながら、次のように語っていました。「男性幹部たちは最初、こんな若い女が大陸間弾頭ミサイルのことなどわかっているはずがないという態度でした。でも、私が大陸間弾頭ミサイルについて詳しく知っているとわかると、私の女性という見かけは問題にならなくなりました。私は男性とか女性とか関係なく、彼らの一員として迎えられたのです。」そして、大島教授は、自分も学生時代の10年間周囲は男子ばかりで自分が唯一の女子学生だったけれど、今は社会が変わりつつあり働く女性を支援する政策も進化していると日本の現状を説明しました。

ゴッテモラー国務次官は女性支援政策という点に関して、米国では教育法の第9条(1972年改正)が女子学生のSTEM教育を推進していく上で大きな役割を果たしたことを述べました。スポーツにおける女子学生の差別を禁じたこの第9条は、女子学生に大きな変革をもたらしたそうです。ゴッテモラー国務次官は次のように語りました。「第9条は女子学生の考え方を変えていきました。彼女たちはまず、「これまで女子ができなかったスポーツをやりましょう」と考えるようになりました。そして次第に「女の子が化学の研究室にいて何が悪いの?」「私たちも微積分学を勉強すべきよ!」と考えるようになりました。女子学生はまずそれまで男子だけが許されていたスポーツに進出し、次第に科学、技術、工学、数学といった分野へ進出し始めていったのです。」

そして最後にケネディ大使が、この教育法第9条改正の提案者の1人が実は日系アメリカ人として初めての女性下院議員パッツイ・タケモト・ミンクだったことを討論会に参加した東大の学生たちに紹介し、「つまり、私たち米国政府はあなた方すべてに大きな期待を寄せているのです。」と学生を奨励して討論会の幕が閉じました。

(本イベントは、東京大学広報室・UTokyo Researchがコーディネートしたものです。)

*STEM教育とは、サイエンス(science)、テクノロジー(technology)、エンジニアリング(engineering)、数学(math)に重点を置いた教育のこと。



STEM教育や女子学生の展望について熱心に語るゴッテモラー米国務次官
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