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太平洋同盟を知っていますか?

掲載日:2016年2月2日

実施日: 2016年01月29日

東大ラテンアメリカ留学生会が企画したシンポジウム『太平洋同盟:日本にとってのチャンスと課題』が、2016年1月29日(金)午後に本郷キャンパスで行われました。会場には太平洋同盟の加盟国(ペルー、チリ、メキシコ、コロンビア)の大使や日本の民間企業からの講師をはじめ、約50人の参加者が集まりました。

最初に登壇したのは太平洋同盟の議長国ペルーのエラルド・エスカラ在日大使で、ペルー、チリ、メキシコ、コロンビアの経済統合を目指す仕組みである太平洋同盟について説明を行いました。大使は、この同盟を支えているのは民主主義と自由経済という共通の基盤である点を強調し、世界の国々に同盟への参加を促す活動をしていると述べていました。日本にとってはまだまだなじみの薄い同盟ではありますが、今回のシンポジウムをきっかけに、太平洋同盟に関心を持った参加者も多くいたようでした。

続いて行われた質疑応答では、エラルド・エスカラ在日ペルー大使、パトリシオ・トーレス在日チリ大使、カルロス・アルマダ在日メキシコ大使、アレハンドロ・ポサダ在日コロンビア臨時代理大使が登壇して参加者の質問に答えました。質疑応答の司会進行を務めたのは、東京大学公共政策大学院の河合正弘特任教授でした。会場からは太平洋同盟に関する質問や南米と日本の関係に対する質問など、多くの質問が寄せられました。大使たちはそうした質問に答えながら、太平洋同盟の革新性と若さ、加盟国の労働力や鉱山資源の魅力、開放経済政策の利点などをアピールしていました。また、参加者からは南米からの留学生が日本に残りたいと思ってもなかなか残れない現実があることが指摘されました。これに対して大使たちは、チリとペルーでは奨学金の拡充をしていること、メキシコでは日本の大学とジョイントディグリープログラムを立ち上げていること、コロンビアでは域内での人的交流を通して教育の質の向上を目指していることなどを伝えました。また、日本では南米というと「危険」というイメージがあり、そのせいで多くの日本企業が南米への進出を躊躇しているとの指摘がありました。大使たちによると、南米が「危険」というのは昔のことで、今は比較的安全にビジネスができるので安心して4か国との関係を築いてほしいとのことでした。さらに参加者からは先住民問題に関しても質問がありました。大使たちは太平洋同盟が経済統合だけでなく社会統合の取り組みでもあり、先住民へ手を差し伸べる取り組みも行っていることを強調していました。

シンポジウムの後半は日本側からみた太平洋同盟という切り口で、国際協力銀行の阿由葉真司氏、三井物産の森泰憲氏、JICA研究所の細野昭雄博士が講演を行いました。阿由葉氏は様々なデータを提示しながら、太平洋同盟がASEANとほぼ同じくらいのマーケット規模を持ち、日本との関係も良好で相互補完性があるので魅力的なビジネスパートナーであることを示唆していました。森氏は三井物産が太平洋同盟の4か国で行っているプロジェクトを国別で紹介しました。森氏はまた、安部首相の「発展、主導、インスピレーションを共に(juntos)」という言葉を引用しながら、日本と太平洋同盟が「juntos(協力)」することが大切なことを訴えていました。細野博士は、日本の企業が南米各国と長い間にわたって良好な関係を築き上げ人材開発にも貢献していること、日本企業による海外直接投資は多くの部門にバランスよく分配されていることが強みであることを説明しました。細野博士は、日本が目指すべきなのはFTA(自由貿易協定)というよりもEPA(経済連携協定)であると述べていました。講演後の質疑応答では、日本が太平洋同盟に投資する場合、通貨は何を使うのかという質問がありました。これに対して森氏は、一つの通貨に集中させないでリスクの分配を行うことが大切であると述べていました。最後に河合特任教授がシンポジウム全体のまとめを行い、太平洋同盟加盟国は活気にあふれ資源も豊富で、日本と相互補完性があるのでパートナーとして魅力的なことを伝えた上で、大切なのは経済協力だけでなく人的資源の開発であることを力説しました。日本と太平洋同盟加盟国が、人的交流を通して関係を深めることが今後の大切な課題であるとのことです。

講演終了後は会場を移して、登壇者と参加者が加盟4か国の料理やお酒を囲んで交流を深めるイベントが行われました。本シンポジウムを企画した東大ラテンアメリカ留学生会のロドリゴ・デ・レイエスさんは、「今回のシンポジウムは4か国と日本がお互いを知る良い機会でした。」と述べていました。河合特任教授は「来年もこうしたイベントを是非続けて下さい!」とリクエストしましたが、デ・レイエスさんは今年で東大を卒業してしまうそうです。これに対して河合特任教授はデ・レイエスさんに、「東大に残って博士課程に進んで、来年もこうしたイベントを企画したらどうですか?」と笑いながらアドバイスしていました。大使たちも「それはいい考えですね。」と冗談を交えたやり取りを楽しんでいました。日本と太平洋同盟加盟国の関係強化を担う人材が確実に育っているようです。

*本イベントは留学生・外国人研究者支援課のサポートを受けて行われたもので、第二回東京大学国際交流イベント企画コンテストの一環として開催されました。

*本イベントの概要および講演会の発表内容は下記PDFファイルにてご覧になれます。(英語のみ)
  シンポジウムのプログラム 
  講演者のプロフィール
    エラルド・エスカラ在日ペルー大使の講演
  阿由葉真司の講演
  森泰憲氏の講演
  細野昭雄博士の講演
  4ヵ国の料理のメニュー
  
  



参加者の質問に答える、和やかな雰囲気の4か国の大使たち

開会のあいさつをする東大ラテンアメリカ留学生会のロドリゴ・デ・レイエスさん

4か国の料理とお酒を片手に談笑する参加者たち。同じく東大ラテンアメリカ留学生会のオーランド・バルガスさんの姿も見えます
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