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スーパーカミオカンデ。タンク上部から魚眼レンズで撮影したもの。(2006年6月26日)<br>© 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
スーパーカミオカンデ。タンク上部から魚眼レンズで撮影したもの。(2006年6月26日)
© 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設

地下1000メートルで証拠を捕まえる

東京大学が拓いたニュートリノ物理学

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宇宙線研究所
2013/01/24

「この時を境にニュートリノ振動は物理的な事実となりました(宇宙線研究所所長梶田隆章)」。ニュートリノ天文学という新しい学問を拓いたカミオカンデや、ニュートリノ振動を証明し素粒子物理学の常識を覆したスーパーカミオカンデ。理論的予測を物理的事実にしてきた神岡鉱山に、今、ハイパーカミオカンデの建設が構想されています。そこでは何が発見されるのでしょうか。

ニュートリノ天文学の誕生

カミオカンデが観測した超新星SN1987Aからのニュートリノ事象

カミオカンデが観測した超新星SN1987Aからのニュートリノ事象 © 東京大学宇宙線研究所
横軸は時間(分)、縦軸は光を受けた光電子像倍管の数。縦軸は電子のエネルギーにほぼ比例している。図中7時35分(世界標準時)過ぎに高エネルギー事象が多く観測されているのが超新星からのニュートリノ。

1987年2月23日の7時35分35秒(世界標準時)から約13秒間に、カミオカンデは大マゼラン星雲の超新星爆発でつくられた11個のニュートリノを検出しました。宇宙ニュートリノ観測の業績により、カミオカンデを構想し、当時の実験の指揮をとっていた小柴昌俊東大名誉教授は、2002年にノーベル物理学賞を受けました。

カミオカンデは3000トンの水をたたえたタンクの壁面に1000本の光電子増倍管を並べた観測装置で、岐阜県の神岡鉱山の地下1000mに1983年につくられました。そもそもの目的は、大統一理論で予測されている陽子の崩壊をとらえることでした。

カミオカンデ計画に大学院生の時から関わってきた宇宙線研究所長の梶田隆章教授は、「小柴先生は観測を始めて間もない頃、観測データのエネルギー分布から、低いほうのエネルギーを精度よく測定できるようになれば、太陽ニュートリノを観測できることに気づき、すぐに改造を決断しました。そこがすごい」と語ります。

1984年からバックグラウンド(ノイズ)を約1000分の1に下げるなどの改造を行い、1987年1月に太陽ニュートリノの観測を開始しました。それから2カ月も経たないうちに超新星が現れたのです。「超新星爆発のニュートリノは太陽のものより少しエネルギーが高いですが、装置の改造がなければ検出できなかったでしょう」。

超新星爆発は、太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が一生を終える時に生じます。理論から、“太陽が45億年間に放出する全エネルギーの約1000倍を約10秒間にニュートリノとして放出する”と予測されていました。13秒間に11個というカミオカンデの観測はこれを裏付けるもので、ニュートリノ天文学という新しい学問が誕生したのです。

大気ニュートリノの振動を発見する

大気から来るミュー型の観測データ

大気から来るミュー型の観測データ © 東京大学宇宙線研究所
横軸は天頂角を示し、1は大気の上から飛来、-1は地球の反対から飛来、0は横から飛来したニュートリノを示す。縦軸は観測されたニュートリノの数。地球の裏側方面から長い距離を走ってきたニュートリノの数がニュートリノ振動によっておおよそ半分に減っている。図中黒丸は観測データ、青線はニュートリノ振動なしの予想値、赤線はニュートリノ振動ありの予想値。

太陽ニュートリノは核融合反応で生じます。ニュートリノには、「電子ニュートリノ(電子型)」、「ミューニュートリノ(ミュー型)」、「タウニュートリノ(タウ型)」の3種類がありますが、太陽ニュートリノは電子型です。

カミオカンデには、大気ニュートリノもやって来ます。宇宙線が大気の原子核と衝突して生じるニュートリノで、電子型とミュー型の2種です。カミオカンデがとらえる大気ニュートリノは、長らく陽子崩壊の最後まで残るバックグラウンドとして扱われていました。

「大気ニュートリノのデータが『何かおかしい』と、意識し始めたのは1986年の秋頃ですね。データ解析プログラムを大幅に改良した効果が表れたのでしょう」。カミオカンデがとらえた大気からの電子型とミュー型の数を数えたところ、前者は理論的な期待値に合うのに、後者はその6割しかなかったのです。「この結果を1988年に論文発表しましたが、その中で『ニュートリノ振動かもしれない』と一言触れています」。

ニュートリノ振動は、3種のニュートリノの中で、ある種類のものが別の種類に変わることをいい、ニュートリノに質量が無ければ起こりえません。現在、最も確かだとされている素粒子の理論、「標準理論」ではニュートリノの質量はゼロとされているので、振動の発見は、素粒子物理学を大きく進歩させます。

スーパーカミオカンデによるニュートリノの検出

スーパーカミオカンデによるニュートリノの検出 © 東京大学宇宙線研究所
電子型がスーパーカミオカンデの水の原子核などに衝突すると電子がたたき出され、ミュー型が衝突するとミューオンがたたき出される。電子やミューオンなどの荷電粒子が、水中を走る光より速く水中を走ると、チェレンコフ光を出し、これを光電子増倍管がとらえる。図中、観測された大気ニュートリノ事象。左がミューニュートリノ反応事象、右が電子ニュートリノ反応事象。

その後、梶田教授たちは、大量の大気ニュートリノのデータの中で、高いエネルギーをもつものを解析してみました。数だけでなく、来た方向も分かるからです。するとミュー型については、上空から来るものの数は期待値と合うのに、カミオカンデの下から来るもの、つまり地球の裏側から来るものは期待値の半分しかありませんでした。これはミュー型が長い距離(地球の直径程度)を飛んでいる間に、別の種類のニュートリノに変化していることを示します。「1994年の論文ではニュートリノ振動の可能性を示しましたが、統計誤差を含めると確率99%で、これではまだ結論はでません。結局、言い切るにはスーパーカミオカンデの登場を待たねばなりませんでした」。

1996年4月に完成したスーパーカミオカンデは、水が5万トン、光電子増倍管が1万1200本と大型化し、大気ニュートリノの観測データも一気に増えました。そして1998年春に岐阜県高山市で開かれたニュートリノ国際会議でニュートリノ振動を発表したのです。「この時を境にニュートリノ振動は物理学的な事実となりました」

3種のニュートリノ振動

2001年には、太陽ニュートリノも振動していることが明らかになりました(注1)。太陽ニュートリノ振動では、電子型が他の型に変わります。一方、大気ニュートリノ振動では、ミュー型はタウ型に変わりますが、電子型はそのままで変わりません。

ニュートリノ振動の大きさ(変化する割合:振幅)は、「混合角」というもので表されます。ニュートリノが3種類あるため、混合角も3種類あります(注2)。大気ニュートリノ振動の研究から、ミュー型とタウ型の混合角(θ23)が明らかになりました。また太陽ニュートリノの研究から電子型と他の型の混合角(θ12)も分かりました。

素粒子標準模型

素粒子標準模型
物質をつくる素粒子はクォークとレプトンの2つに分かれている。クォークにもレプトンにも6種の粒子がある。

大気から来るミュー型の大半はタウ型に変わりますが、もし第三の混合角がゼロでなければ、ごく一部は電子型に変わると理論的に予測されていました。つまり、ミュー型から電子型への振動を検出することで、最後のθ13が決定できるのです。

「スーパーカミオカンデのところで振動の効果が最大になるようにニュートリノのエネルギーを選べば、ミュー型の約5%が電子型に変わります」。

このような測定ができるのが、2009年4月に始まったT2K実験です。この実験では、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)でミュー型をつくり、これを300km離れたスーパーカミオカンデに向けて発射しています。J-PARCではミュー型のエネルギーを制御できるので、理想のエネルギーを持ったミュー型をつくることができます。「T2K実験では今までにミュー型と電子型間の振動を十数例得ました」。  2012年6月に京都で開かれた「第25回ニュートリノ・宇宙物理国際会議」では、θ13に関して、T2K実験をはじめ、中国や韓国、ヨーロッパの原子炉のニュートリノを用いた値が報告されましたが、矛盾はありませんでした。

ハイパーカミオカンデで探る対称性の破れ

ハイパーカミオカンデの基本設計

ハイパーカミオカンデの基本設計 © 東京大学宇宙線研究所
ハイパーカミオカンデは100万トンの水を擁し、体積はスーパーカミオカンデの25倍になる。

梶田教授たちの次なる課題の1つは、物質・反物質間の対称性の破れを探ることです。「ニュートリノと反ニュートリノでは振動の確率が違うのか、ということを見てみたいのです」。

“なぜ、現在の宇宙は物質だけで、反物質がないのか”は、素粒子物理学の大きな問題です。両者を支配する法則がわずかに違うためだと考えられており、この違いが対称性の破れです。2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠・益川敏英博士たちは、素粒子であるクォークの対称性の破れを明らかにしました。しかし、「1980年半ば以降の研究から、クォークの対称性の破れだけでは、物質優位の世界が今まで残らないということが分かってきました。ニュートリノもクォークと同様に広い意味で物質のもとになる素粒子です。ニュートリノの対称性の破れも明らかにする必要があります」。

梶田教授たちは、ニュートリノの対称性の破れを探るには、スーパーカミオカンデよりずっと大きい、100万トンの水をたたえた「ハイパーカミオカンデ」が必要だろうと考えています。「米国や欧州でも、大規模な観測装置の構想があります。今、ニュートリノの観測研究は、新たな局面に入りつつあります」。

(注1)スーパーカミオカンデの観測結果と、カナダで行われている別の方法での観測結果を照合したところ、振動の確実な証拠が得らました。

(注2)普段「ミュー型」と言っているニュートリノは、これが物質と反応して出てきた粒子がミューオンということでミュー型とわかります。ところが量子力学ではこのようなミュー型ニュートリノがある決まった質量を持っている必然性はなく、むしろ決まった質量を持たないのが普通です。量子力学では、粒子を波動関数として表します。私達が観測できる電子型・ミュー型・タウ型のニュートリノは、3種類の質量を持った状態(1型、2型、3型としましょう)の波動関数の重ね合わせの状態になっていて、両者の関係がθ12, θ23, θ13という3つの混合角で表されます。混合角θ23は、ミュー型からタウ型への振動に関係していることが知られていますが、混合角θ12、混合角θ13は、電子型とミュー型、電子型からタウ型への振動、というように単純に対応しているわけではありません。


取材協力

梶田隆章教授

梶田隆章教授
宇宙線研究所
宇宙線研究所宇宙ニュートリノ観測情報融合センター

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スーパーカミオカンデ。タンク上部から魚眼レンズで撮影したもの。(2006年6月26日)
© 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設

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