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浮体式洋上風力発電所の完成予想図 ©Takeshi Ishihara
浮体式洋上風力発電所の完成予想図 ©Takeshi Ishihara

明日の風が海に吹く

福島沖で始まる浮体式洋上風力発電の実証研究

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工学系研究科・工学部
2012/06/20

東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故以来、再生可能エネルギーへの関心が一段と高まっています。原子力に代わるエネルギーとして世界的に期待されているのが「風力」です。世界の風力発電設備容量は2011年末に2億3767万kW(キロワット)に達しました。これは、2009年度日本の10電力会社が所有する電力設備容量の2億396万kWを超えています。

一方、日本では安定供給の難しさや発電コストの問題などで、風力発電の普及は難しいと言われ続けてきました。そのような状況にありながら、「日本にも洋上風力を」と、大学院工学系研究科社会基盤学専攻の石原孟教授が洋上風力発電研究に取り組みはじめたのは、2001年にコペンハーゲンで美しい洋上ウインドファームを見たことがきっかけでした。陸上の風力発電が盛んな欧米でも、今や洋上でのウインドファーム建設が進んでいます。

狭い日本、だが広い領海

洋上で風力発電を行うメリットの一つは、陸上よりも強い風が安定して吹いていることです。過去の気象データから算出したコンピュータシミュレーションによると、日本の洋上風力発電の賦存量(理論的に算出した利用可能なエネルギー量)は約16億kWにものぼります。これは、日本の電力会社が所有する電力設備容量の約8倍の大きさです。

福島・茨城・千葉沿岸における年平均風速のマップ © Takeshi Ishihara

福島・茨城・千葉沿岸における年平均風速のマップ
© Takeshi Ishihara

福島県いわき市沖の天然ガス田にとりつけた風速計で2年にわたって実測したところ、陸上の年平均風速が毎秒4.3メートル程度であるのに対し、洋上では毎秒7.4メートル、月最高毎秒9メートル以上の風が吹いています。発電量は風速の3乗に比例し、発電量に換算すると、陸上の5倍にもなることがわかりました。

国土が狭く平地の少ない日本の陸上では、風力発電設備の建設が難しいという課題も、洋上ならば解決できそうです。日本は、国土面積が世界で62番目であるのに対して、領海と排他的経済水域の面積は世界6位に数えられるほど広いのです。

ただし、日本沿岸は水深50~200mの広大な大陸棚に囲まれ、急に水深が深くなる地形です。浅い海域が多い欧米では、海底に基礎を築いて風力発電設備を固定する「着床式」が主力ですが、水深50m以上になると一気に建設コストが高くなるため日本沿岸には適していません。

洋上風力にはもう一つ、「浮体式」と呼ばれる方法があります。風車を洋上に浮かべる浮体式は水深100~200mでもコストが殆ど変わらないので、日本にはこちらが適していると石原教授は判断しました。

実は日本の得意技術

5000kW風車のブレードの全景 © Takeshi Ishihara

5000kW風車のブレードの全景
© Takeshi Ishihara

こうして浮体式洋上風力発電という研究テーマが立ち上がると、風工学を専門とする石原教授が中心となり、学内での研究がスタートしました。洋上風力発電は関係する領域が幅広く、造船、海洋、機械、電気といった分野の研究者たちとの共同研究が進められました。

当初は、実現性が未知数の共同研究に難色を示していた企業も、いわき沖での実測データを示すと、洋上風力の可能性に興味を持つようになりました。その結果、電力会社をはじめ、ゼネコン、造船会社、風車メーカーなどの企業が協力し、いよいよ実用化に向けた研究プロジェクトが立ち上がります。

風車のベアリングや発電機など、世界の風力発電では日本メーカーの技術が多数採用されてきた実績があります。浮体式には欠かせない造船技術も日本の得意分野です。浮体式ウインドファームについては、風や海域の適性があるだけでなく、技術においても国内に十分な礎があったのです。

福島沖での実証研究がGO

そして、ついに政府も動き始めました。震災と原発の被害を受けた福島県の沖合に、世界初となる浮体式洋上ウインドファームを建設するプロジェクトに、第3次補正予算案で125億円を計上。2015年度までに3基の浮体式洋上風力発電を建設する実証研究が始まりました。もちろん、石原教授はこのプロジェクトの仕掛け人であり、中心人物です。

浮体式洋上風力発電所の完成予想図 © Takeshi Ishihara

浮体式洋上風力発電所の完成予想図
© Takeshi Ishihara

「福島県沖は、風の強さ、水深、建設に適した広さなどあらゆる面で最適で、10年ほど前から有力な候補地として注目しました。しかも福島県では原子力や火力の送電系統を利用できるので、送電コストも大幅に削減できます」と、石原教授は福島沖のメリットをあげます。実は、福島沖での研究は震災以前から進んでいました。当初は2011年度から5年がかりで実証研究にこぎつけようという計画でしたが、震災により一気に実証研究が始まったのです。

福島沖のウインドファームは、再生可能エネルギーの新たな可能性を世界に先駆けて示すにとどまらず、福島県の産業復興に繋がるものとしても期待されています。

洋上風力に使われる風車のブレード(羽根)は1枚80m、タワー部分は120m。立てれば高層ビルほどの高さがあり、これほど巨大な風車を離れた場所で製造して輸送することは不可能です。そのため、製造・組み立て拠点は、設置する海に近い小名浜港が予定されています。こうして地元に雇用が生まれ、経済基盤として成長するでしょう。福島県は震災後、「2040年までに県内で使用するエネルギーすべてを再生可能エネルギーにする」ことを宣言しています。

再生とエネルギーシフトの象徴に

実証研究にあたって、もう一つの課題が漁業との共存です。ウインドファームに適した海域は、同時に豊かな漁場でもあるからです。浮体自体を集魚などに利用した「海洋牧場」にし、安定的な漁場に育てる一石二鳥も可能だと石原教授は考えます。

「今、100万kW規模での実用化を視野に入れ、さまざまな分野から研究を進めています。私たちは21世紀の新しい社会基盤づくりを目指しており、世界最大のライザーケーブル、傾斜や揺れにも耐えうる変電設備、浮体式観測システム、高性能鋼材、安全性・信頼性・経済性の高い浮体式洋上風力発電システムなど、各分野の先端技術は今後ますます重要になってきます。今年4月に次世代風力発電システムの創成寄付講座も設置し、世界最先端の洋上風力発電の研究・教育を行うと共に、各国との共同研究も積極的に進めたいと考えています」と、石原教授は将来計画を描きます。文字通り“風を読み”、次世代エネルギーシフトの追い風となるべく、新たな風を起こそうとしています。

(取材協力 サイテック・コミュニケーションズ)


取材協力

石原孟教授
石原孟教授 大学院工学系研究科 社会基盤学専攻


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