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光の波面を90度スイッチングする光磁石! キラル光磁石の初合成と新しい光磁気スイッチングの発見

掲載日:2013年12月10日

光で物理的性質が変化する材料、特に光により直接的に磁性を変化(光スイッチング)できる磁性材料である「光磁石」は、磁場や熱を必要とせず非接触で磁気的な性質を変換できるため、開発が望まれています。

© Shin-ichi Ohkoshi, キラル光磁石で観測される、物質から出射される光の波面の90度スイッチング現象。 非磁石状態に473nm(ナノメートル)の光を照射して磁石の状態を変化させると(光磁石状態I)垂直な第2高調波 (SH) が観察される。この状態に785nmの光を照射して磁石の状態をさらに変化させると(光磁石状態II)、垂直であった第2高調波 (SH) の光の波面が水平に90度スイッチングする。光磁石状態IIに473nmの光を照射して光磁石状態Iに戻した場合にも同様の90度スイッチングが観察される。

東京大学大学院理学系研究科化学専攻 大越慎一教授の研究グループは、光で応答する磁性材料にキラル構造を付与することで、物質から出てくる光の波面(偏光面)を水平と垂直の間で可逆的に光スイッチングする新現象を発見しました。

研究グループが今回新しく開発した物質は鉄(Fe)イオンとニオブ(Nb)イオンをシアノ基 (-CN-)で3次元的に架橋したキラル構造をもつ磁石で、この物質に青色光 (波長 473 ナノメートル) と赤色光 (波長 785 ナノメートル) を交互に照射することで、可逆的に磁石の磁力を変えることができる新しいタイプの磁石です (以下、この新しい磁石をキラル光磁石と呼びます)。このキラル光磁石を用いて、非線形光学効果の一つである第2高調波 (物質にある波長の光を入射すると、半分の波長の光が出射してくる現象) の研究を行いました。その結果、光照射前の非磁石状態では、入射面に対して水平な波面の光入射に対して、垂直な波面の光の出射が観測されましたが、その状態に青色光を照射して磁石状態 (光磁石状態I) にすると、水平な波面の光の出射が観測されました。また、引き続き、赤色光を照射して磁力が弱い磁石状態 (光磁石状態II) にすると、垂直な波面の第2高調波に戻りました。このように、青色と赤色の光で磁石の状態を変えることで、第2高調波として出射される光の波面を可逆的に90度スイッチングすることに成功しました。これまでにキラル光磁石は報告例がなく、本物質が世界で初めての開発成功例となります。また、このような新しい物質を作り出したことで、キラリティと磁気的性質とが相関し、物質から出てくる光の波面が90度光スイッチングする現象の創出に成功しました。このスイッチング現象は、最先端の光科学と物質科学を融合させて初めて達成できたものであり、従来のファラデー効果とは全く異なった現象で、光記録デバイスや光センサー、光通信技術などへの応用が期待されます (大越慎一ら,特許出願2013-209102)。

本研究成果は、科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」研究領域 (研究総括:入江正浩 立教大学理学部教授) における研究課題「磁気化学を基盤とした新機能ナノ構造物質のボトムアップ創成」 (研究代表者:大越慎一) によって得られ、英国時間2013年11月24日(日) 午後6時に英国科学雑誌Nature Photonics (ネイチャー・フォトニクス) のオンライン速報版で公開されました。

プレスリリース

論文情報

S. Ohkoshi, S. Takano, K. Imoto, M. Yoshikiyo, A. Namai, H. Tokoro,
“90-degree optical switching of output second-harmonic light in chiral photomagnet”,
Nature Photonics Published online: 2013/11/25 (Japan time), doi: 10.1038/NPHOTON.2013.310.
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