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シナプス刈り込みの新しいメカニズムを発見 前初期遺伝子Arcは神経活動依存的なシナプス刈り込みを促進する

掲載日:2013年7月23日

統合失調症や発達障害の病態の根底には、神経回路の発達異常があると考えられています。生後間もない脳には過剰な神経結合(シナプス)が存在しますが、発達の過程で不要なシナプスは淘汰されて、機能的な神経回路が完成します。この過程は「シナプス刈り込み」と呼ばれ、機能的な神経回路が出来上がるために不可欠とされています。シナプス刈り込みに神経の活動が必須であることはこれまでに示されていましたが、詳細な分子メカニズムは不明でした。

© Kano Masanobu, ArcはP/Q型Ca2+チャネルを介して流入したCa2+(カルシウム)によって誘導され、プルキンエ細胞の細胞体にある登上線維シナプスの刈り込みを促進する。

今回、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野の三國貴康特任研究員と狩野方伸教授らは、発達期の小脳において、シナプス刈り込みに前初期遺伝子Arcが必要なことを明らかにしました。研究グループはまず、マウスの小脳のプルキンエ細胞の神経活動を上昇させると、登上線維シナプスの刈り込みが促進されることを示しました。そのうえで、プルキンエ細胞内へのカルシウム流入とそれに引き続くArc遺伝子の発現誘導がシナプス刈り込みを促進していることを明らかにしました。さらに、誘導されたArc分子が、プルキンエ細胞の細胞体にある過剰なシナプスを除去することにより、シナプス刈り込みを完成させることを明らかにしました。

脆弱X症候群や結節系硬化症といった発達障害をきたす幾つかの症候群の疾患モデルマウスの脳では、Arcの発現異常があることが最近相次いで報告されています。本研究の成果は、これらの精神疾患の病態を「シナプス刈り込み」の視点から解明するための新たなアプローチを提供するものであります。

本研究成果は、2013年6月19日に科学雑誌「Neuron」に公開されました。なお、本研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として、また科学研究費補助金などの助成を受けて行われました。

プレスリリース [PDF]

論文情報

Takayasu Mikuni, Naofumi Uesaka, Hiroyuki Okuno, Hirokazu Hirai, Karl Deisseroth, Haruhiko Bito, Masanobu Kano,
Arc/Arg3.1 is a postsynaptic mediator of activity-dependent synapse elimination in the developing cerebellum”,
Neuron 78, (2013/6/19):1024?1035, doi: 10.1016/j.neuron.2013.04.036.
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大学院医学系研究科 機能生物学専攻 生理学講座 神経生理学分野

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