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原子の「坑道」が作る究極のナノ磁石 反強磁性体中の転位に強磁性を付与することに成功

掲載日:2013年4月18日

東京大学 大学院工学系研究科の幾原雄一教授、柴田直哉准教授、杉山一生大学院生らの研究グループは、東北大学原子分子材料高等研究機構(王 中長 助教)および名古屋大学(山本剛久 教授)と共同で、代表的な反強磁性体(注1)である酸化ニッケルに線上の格子欠陥である転位(注2)を導入すると、転位が4T(テスラ)を超える保磁力を有する硬質な強磁性となり、その強磁性が転位にそって導入されたNi空孔(注3)によるものであることを明らかにしました。

© Issei Sugiyama. 結晶中に導入された線状ナノ磁石を表すアクリル模型の写真

© Issei Sugiyama. 結晶中に導入された線状ナノ磁石を表すアクリル模型の写真

微細なデバイスを開発する際、これまでは非常に薄い膜を作製する、一次元の細線を削りだすなど、より小さな構造を人工的に作り出すための研究開発が世界中で行われてきました。これに対し、本研究では自然界に存在する微細な一次元の構造であり、結晶中で原子が「坑道」を構成したような構造を取っている転位に着目し、これに物性を付与することでデバイス応用へと結びつけることを着想しました。多数の転位を有する酸化ニッケル薄膜を、パルスレーザー堆積法(注4)を用いて作製(特願2012-170951)し、転位一本一本の磁気物性を調べることが出来る磁気力顕微鏡(注5)により観察することで、各転位がそれぞれ強磁性を示していることを世界に先駆けて発見しました。また、転位における強磁性は、磁石のN極とS極を反転させるために必要な力に相当する保磁力が4Tを上回っており、市販されている硬質な永久磁石であるネオジム系磁石の保磁力が1T程度であるのと比較して、非常に硬質な磁性を付与することに成功しました。更に、最先端の収差補正走査透過型電子顕微鏡(注6)による原子構造の観察と、電子エネルギー損失分光法(注7)を用いた電子状態の解析、スーパーコンピューターを用いた理論計算を組み合わせることにより、転位における強磁性が、転位に沿って導入されたNi空孔(注3)によるものであることを明らかにしました。

硬質な強磁性体は、磁気メモリや磁気演算素子のピン層として応用されており、本研究で得られた転位は現在実用されているピン層と比較して、面積が1万分の1程度であることから、磁気メモリや磁気演算素子を含む次世代スピントロニクスデバイスの微細化・高集積化に大きく寄与することが期待されます。

本研究成果は英国科学誌ネイチャー・ナノテクノロジー「Nature Nanotechnology」の掲載に先立ち、2013年3月24日(英国時間。日本時間25日(月))のオンライン速報版で公開されました。本研究は、文部科学省の特定領域研究“機能元素のナノ材料科学”の一環として行われました。

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論文情報

Issei Sugiyama, Naoya Shibata, Zhongchang Wang, Shunsuke Kobayashi, Takahisa Yamamoto, Yuichi Ikuhara,
Ferromagnetic dislocations in antiferromagnetic NiO,
Nature Nanotechnology, 8 (2013): 266-270
doi: 10.1038/NNANO.2013.45
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