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最悪性脳腫瘍が腫瘍をつくるメカニズムを解明 特殊なDNAの修飾が腫瘍形成を支配する

掲載日:2014年10月9日

生命が維持されるために必要な情報は、細胞の中に納まっている「DNA」に書き込まれています。また、ほとんどのがん細胞においては、このDNAに異常がみられ、このことが細胞をがん化させる主な要因と考えられています。また、近年の研究により、がん細胞の集まりである腫瘍をつくる細胞は一様でなく、一部の「がん幹細胞」と呼ばれる細胞が腫瘍を形成する強い能力(造腫瘍能)を持っていることがわかってきました。

最悪性脳腫瘍においては、TET1と呼ばれる酵素が高発現しており、この酵素の作用によって大量の5hmCが生み出されている。5hmCはDNA上のがん遺伝子の部分に多く存在しており、「CHTOP-methylosome複合体」を引き付ける。「CHTOP-methylosome複合体」は、周囲のヒストンをメチル化することで、がん遺伝子を活性化する。この仕組みが、脳腫瘍の腫瘍形成に重要な役割を果たしている。

© 2014 高井 弘基
最悪性脳腫瘍においては、TET1と呼ばれる酵素が高発現しており、この酵素の作用によって大量の5hmCが生み出されている。5hmCはDNA上のがん遺伝子の部分に多く存在しており、「CHTOP-methylosome複合体」を引き付ける。「CHTOP-methylosome複合体」は、周囲のヒストンをメチル化することで、がん遺伝子を活性化する。この仕組みが、脳腫瘍の腫瘍形成に重要な役割を果たしている。

今回、東京大学分子細胞生物学研究所の秋山徹教授、同大学院農学生命科学研究科博士課程の高井弘基大学院生らのグループは、東京大学医学部附属病院の脳神経外科より提供された最悪性脳腫瘍「グリオブラストーマ」の検体を、がん幹細胞を維持した状態で培養し、そのDNAを解析しました。その結果、1)脳腫瘍のDNAには、「5hmC」と呼ばれる目印が多く存在すること、2)5hmCは、脳腫瘍が腫瘍をつくるために必須であることを世界で初めて発見しました。さらに、5hmCが大きなタンパク質「CHTOP-methylosome複合体」をDNAへと導くことで、細胞をがん化させる遺伝子を活性化していることを明らかにしました。

これらの結果は、5hmCや、5hmCをつくる仕組み、あるいはCHTOP-methylosome複合体が、脳腫瘍を治療する上で重要な標的となることを示唆しています。本成果により、今後この仕組みを標的とした薬剤が開発され、脳腫瘍の治療に貢献することが期待されます。また、5hmCをつくる酵素を失ったマウスが正常に生育することから、この仕組みを標的とした薬剤は、副作用の少ない治療薬となる可能性が示唆されます。

なお、本研究は東京大学分子細胞生物学研究所の白髭克彦教授、豊島近教授、東京大学工学系研究科の鈴木勉教授、東京大学医科学研究所の尾山大明准教授、東京大学医学部附属病院脳神経外科の斉藤延人教授らとの共同研究として行なわれました。

プレスリリース

論文情報

Hiroki Takai, Koji Masuda, Tomohiro Sato, Yuriko Sakaguchi, Takeo Suzuki, Tsutomu Suzuki, Ryo Koyama-Nasu, Yukiko Nasu-Nishimura, Yuki Katou, Haruo Ogawa, Yasuyuki Morishita, Hiroko Kozuka-Hata, Masaaki Oyama, Tomoki Todo, Yasushi Ino, Akitake Mukasa, Nobuhito Saito, Chikashi Toyoshima, Katsuhiko Shirahige and Tetsu Akiyama,
“5-hydroxymethylcytosine plays a critical role in glioblastomagenesis by recruiting the CHTOP-methylosome complex”,
Cell ReportsyOnline Edition: 2014/10/3 (Japan time), doi: 10.1016/j.celrep.2014.08.071.
論文へのリンク

リンク

分子細胞生物学研究所

本論文に関する、筆頭著者(高井弘基)へのインタビュー記事

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