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腎臓の難病に対する新しい治療薬の費用対効果 薬が高額でも患者のQOLが改善され、総医療費は減少

掲載日:2017年5月25日

© 2017 田倉 智之、武井 卓、新田 孝作リツキシマブの費用を含めた場合でさえ、リツキシマブ導入後は、導入前と比較し医療費が減少した。なお、ここで医療費とは、外来通院と入院や入院に伴う治療の診療報酬額の総計である。

リツキシマブ導入前後における医療費の変化
リツキシマブの費用を含めた場合でさえ、リツキシマブ導入後は、導入前と比較し医療費が減少した。なお、ここで医療費とは、外来通院と入院や入院に伴う治療の診療報酬額の総計である。
© 2017 田倉 智之、武井 卓、新田 孝作

東京大学大学院医学系研究科の田倉智之特任教授らの研究グループは、難病であり、むくみなどの主要な症状がみられるネフローゼ症候群の治療法として、治療薬リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)を導入した場合の費用対効果を検討した結果、リツキシマブの導入は従来の治療法と比べて医療経済性に優れている可能性があることを示しました。

ネフローゼ症候群は、腎臓の機能に障害が生じることによってむくみなどの症状がみられる難病です。ネフローゼ症候群の標準的な治療はステロイド製剤(及び免疫抑制剤)による治療です。この標準的な治療法によって完全に回復する患者がいる一方で、再発を繰り返す患者(頻回再発型ネフローゼ症候群)やステロイドを治療の初期の段階から減らすことができない患者(ステロイド依存性ネフローゼ症候群)が少なからず存在し、ステロイド製剤を長期にわたって使用することによる副作用が問題となっています。こういった難治性ステロイド症候群に対して、リツキシマブの有効性が報告されてきていますが、特定の分子を標的として治療を試みる分子標的治療薬は一般に高額であるため、その普及には医療経済的な議論は避けられません。

今回、研究グループはネフローゼ症候群の患者にリツキシマブを投与し、導入前後2年間におけるネフローゼの再発回数及び総医療費を比較しました。その結果、再発回数は投与前4.30±2.76回から投与後0.27±0.52回へ、医療費は投与前302,238(円/月)から投与後132,352(円/月)へ減少することを認めました。この減少は、主に入院医療費の減少によるものでした。また、尿たんぱくの減少と医療費の低下に相関関係があることを明らかにしました。以上から、効果や費用の両面においてリツキシマブの有用性を示しました。

分子標的治療薬などの新しく開発された治療薬は従来の治療薬と比較して高額であることが多く、医療財政の圧迫が問題となります。しかし、研究グループは、新しい治療薬が患者の予後の改善のみならず社会保障負担の軽減に貢献する可能性を示しています。昨今、医療費の高騰が問題視されている中で、費用対効果の高い治療薬の開発は、社会経済の観点から今後も促進されることが期待されます。

「医学の発展にはイノベーションが不可欠であるものの、財政負担の伸長を伴うものが多い状況にあります。今回は、創薬の医療財政的な価値も明らかにできました」と研究を取りまとめた田倉特任教授は話します。「今後はこのような成果も踏まえながら、難病の治療を支える医療制度の意義を論じることが望まれます」と続けます。

論文情報

Tomoyuki Takura, Takashi Takei, Kosaku Nitta, "Cost-Effectiveness of Administering Rituximab for Steroid-Dependent Nephrotic Syndrome and Frequently Relapsing Nephrotic Syndrome: A Preliminary Study in Japan", Scientific Reports Online Edition: 2017/04/07 (Japan time), doi:10.1038/srep46036.
論文へのリンク(掲載誌UTokyo Repository

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