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死んだ細胞から放出される免疫抑制分子を同定 死んだ細胞より放出されるプロスタグランジンE2は炎症を抑え、がんの増殖を促す

掲載日:2016年3月29日

© 2016 Sho Hangai.死んだ細胞が放出するPGE2 は抑制性のDAMPとして働く。免疫・炎症系は抑制性のDAMPと炎症反応を引き起こすDAMPとの相互作用によって調節される。

死んだ細胞から放出されるPGE2の働き
死んだ細胞が放出するPGE2 は抑制性のDAMPとして働く。免疫・炎症系は抑制性のDAMPと炎症反応を引き起こすDAMPとの相互作用によって調節される。
© 2016 Sho Hangai.

東京大学大学院医学系研究科の半谷匠大学院生と同生産技術研究所の柳井秀元特任准教授らの研究グループは、死を迎えたさまざまな細胞からプロスタグランジンE2(prostagalndin E2;PGE2)が放出されることを見いだし、死んだ細胞由来のPGE2が、炎症・がんといった病態の進展に深く関与することを明らかにしました。

細胞が死を迎える際には核酸やタンパク質が放出され、炎症反応を引き起こすことが知られています。これらの分子はダメージ関連分子パターン(damage associated molecular patterns;DAMPs)と呼ばれ、炎症・免疫系を活性化し、自己免疫疾患や動脈硬化、がん、神経変性疾患など、炎症の関わる様々な病態に関わることが分かってきています。したがってDAMPsはさまざまな疾患に対する治療標的として注目を浴びていますが、このようなDAMPsの中に炎症・免疫反応を抑える分子が存在するかどうかは知られていませんでした。

研究グループは細胞が死ぬと、PGE2が放出され炎症・免疫系を抑制することを見いだしました。実際、細胞が死を迎える際にPGE2の放出を抑えた場合、炎症・免疫応答が増強されることも明らかにしました。さらに、肝障害を患ったマウスにおいてもPGE2の産生を抑制するとその症状が悪化し、死んだ細胞による炎症反応が増強されることやがん細胞においてもPGE2の産生を抑制すると、抗腫瘍免疫応答が増強され、がん細胞の増殖が抑えられることもわかりました。

「これまで、炎症・免疫系を引き起こす分子群として注目されてきたDAMPsの中には、実は、炎症・免疫反応を抑える働きがあり、がんや炎症性疾患における役割を今回解明しました」と柳井特任准教授は説明します。「私たちの体内では正常時でも1秒あたり10万個の細胞が死んでおり、また炎症性疾患、がんなどの疾患においても大量の細胞死が起こります。今回の成果は個体の恒常性の維持やこれらの疾患の病態進展のメカニズムに新たな視点を提供し、新たな治療法開発に向けた分子基盤の確立につながっていくものと期待しています」。

なお、本研究は医学部MD研究者育成プログラムの一環として、粟生智香氏(当時学部学生)と共に行われたものです。

論文情報

Sho Hangai, Tomoka Ao, Yoshitaka Kimura, Kosuke Matsuki, Takeshi Kawamura, Hideo Negishi, Junko Nishio, Tatsuhiko Kodama, Tadatsugu Taniguchi, and Hideyuki Yanai , "PGE2 induced in and released by dying cells functions as an inhibitory DAMP", Proceedings of the National Academy of Sciences Online Edition: 2016/03/22 (Japan time), doi:10.1073/pnas.1602023113.
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生産技術研究所 炎症・免疫制御学社会連携研究部門

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