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自然界が多様な化合物を生み出す遺伝子の組み替えメカニズム 抗生物質の生合成“アセンブリライン”をいかに組み立て並び替えるか?

掲載日:2017年2月6日

© 2017 Ikuro Abe.ポリケタイド化合物の構造多様性は決まった単位の遺伝子が同調して組み替わることによって生み出される。

酵素の組み立てラインのモジュールが組み替わることによって作り分けられる天然化合物
ポリケタイド化合物の構造多様性は決まった単位の遺伝子が同調して組み替わることによって生み出される。
© 2017 Ikuro Abe.

東京大学大学院薬学系研究科の張驪駻大学院生と阿部郁朗教授らの研究グループは、自然界がどのように多様な構造を持つ天然化合物を作り分けているかの遺伝子組み替えメカニズムの一端を明らかとしました。本成果は遺伝子を再構築して新たな分子を作り出すことに応用できると期待されます。

医薬品の合成はこれまで、有機化合物を人工的に反応させる有機合成が中心的な手法として用いられてきましたが、近年酵素や微生物の発酵生産などの生合成を用いて有用物質を生産する「合成生物学」が注目を浴びています。しかしながら、思い通りに分子を設計して生合成する手法は未だ限られており、自由な分子デザインを可能にする方法論の開発が課題となっていました。

同研究グループは医薬品として重要なポリケタイドの合成酵素に着目し、その機能を解析しました。その結果、細菌のゲノム中より見出した巨大なポリケタイド合成酵素を種の異なる別の細菌(異種)で発現することにより、既知のポリケタイドと似ているものの異なる構造を持つ新しいポリケタイドが生合成されることを発見しました。そこで、自然界がどのように構造の違いを作り分けているかを、遺伝子を解析することにより調べた結果、構造の違いは遺伝子が組み変わることに起因していることがわかりました。そして、遺伝子中で組み換えが起きる領域や組み換えの規則についても部分的に解明することに成功しました。

「ポリケタイド合成酵素は組み立てラインのような構造を取り、遺伝子の配列と得られる化合物の構造が対応するがことが特徴的です」と阿部教授は説明します。「今回の成果は組み立てラインのモジュールを自由自在に並べ変え、多様なポリケタイド化合物を作り出すことへの応用が期待されます」と続けます。

なお本成果は、産業総合研究所の新家一男博士、北里大学の池田治生教授らとの共同研究により、また、文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究(研究領域提案型)「生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学」の支援のもと行われました。

論文情報

Lihan Zhang, Takuya Hashimoto, Bin Qin, Junko Hashimoto, Ikuko Kozone, Teppei Kawahara, Masahiro Okada, Takayoshi Awakawa, Takuya Ito, Yoshinori Asakawa, Masashi Ueki, Shunji Takahashi, Hiroyuki Osada, Toshiyuki Wakimoto, Haruo Ikeda, Kazuo Shin-ya, Ikuro Abe, "Characterization of Giant Modular PKSs Provides Insight into Genetic Mechanism for Structural Diversification of Aminopolyol Polyketides", Angewandte Chemie International Edition Online Edition: 2017/01/11 (Japan time), doi:10.1002/anie.201611371.
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