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超伝導体中の「ヒッグスボソン」 巨視的量子状態を光で制御する新たな可能性を拓く

掲載日:2014年8月7日

液体から固体への変化のように、秩序のない(対称性の高い)状態から秩序のある(対称性の低い)状態に物質が相転移する現象は、南部理論によれば「対称性が自発的に破れた」と呼ぶ。相転移が生じ対称性が自発的に破れると、これに付随して物質全体に亘って二種類の揺らぎ(振動)が生じる。一つは秩序を特徴づける量の大きさの振動であり、もう一つはその位相の振動である。低い温度に冷却された物質の電気抵抗がなくなる「超伝導」も相転移現象の一つである。超伝導の秩序の大きさの振動は、素粒子物理で最近発見されたヒッグス粒子(ヒッグス・ボソン)と類似性があるため近年はヒッグスモードとも呼ばれる。超伝導のヒッグスモードは、電荷も電気分極もスピンも持たず、光で揺らすことも観測することも困難で、その性質の解明はほとんど進んでいなかった。

振動周期約1ピコ秒(1兆分の1秒)の光(テラヘルツ波)を超伝導体に照射すると、超伝導体の巨視的な秩序がヒッグスモードの共鳴効果によって振動する。このとき、照射したテラヘルツ波の3倍の周波数の電磁波が超伝導体から放射される。

© 2014 島野 亮
振動周期約1ピコ秒(1兆分の1秒)の光(テラヘルツ波)を超伝導体に照射すると、超伝導体の巨視的な秩序がヒッグスモードの共鳴効果によって振動する。このとき、照射したテラヘルツ波の3倍の周波数の電磁波が超伝導体から放射される。

今回、東京大学低温センター 島野亮教授、同大学院理学系研究科物理学専攻 松永隆佑助教、青木秀夫教授、辻直人特任助教らの研究グループは、テラヘルツ波と呼ばれる波長0.3mm程度の光を強く超伝導体に照射すると、非線形効果によってヒッグスモードが光(テラヘルツ波)と共振することを発見した。さらに、このとき超伝導を担う電子対が一斉に揃って振動することによって、超伝導体は照射したテラヘルツ波の3倍の周波数を持つ電磁波(第3高調波)を効率よく放射することも見出した。

本研究成果は超伝導体をテラヘルツ帯の周波数変換素子として応用することや、光で超伝導を超高速に制御する手法について新しい道を拓くものである。

プレスリリース

論文情報

Ryusuke Matsunaga, Naoto Tsuji, Hiroyuki Fujita, Arata Sugioka, Kazumasa Makise, Yoshinori Uzawa, Hirotaka Terai, Zhen Wang, Hideo Aoki, Ryo Shimano,
“Light-induced collective pseudospin precession resonating with Higgs mode in a superconductor” ,
Science Online Edition: 2014/7/10 (Japan time), doi: 10.1126/science.1254697.
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