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非磁性体中を流れるスピンの向きを外部磁場で一斉に1回転 スピンを用いた省電力演算素子の開発に道筋

掲載日:2012年10月31日

磁気デバイスではデジタル情報は磁性体中のスピンの向きを利用して記録されます。このスピンの情報は、非磁性体中へと注入することでスピン蓄積や純スピン流に変換され、情報の伝送や演算に利用できます。このスピン蓄積を出力信号として用いた素子(スピン蓄積素子)は、次世代ハードディスクドライブ(HDD)の読み出しヘッド用磁気センサーとしての応用が期待されています。しかし、これまではスピン蓄積の生成効率が低いため、伝導特性の解明や外部信号によるスピンの向きの制御は困難でした。

強磁性体(パーマロイ)/酸化マグネシウム(MgO)/非磁性体界面(Ag)に電流を流すことで、強磁性体中のスピンが非磁性体(銀:Ag)に注入される © Yoshichika Otani 注入されたスピンは非磁性体細線に沿って拡散する。スピン注入用の界面の数を増やし、スピンが拡散する方向を限定したところ、スピン蓄積素子の出力信号と純スピン流の生成効率が向上した。素子に対して垂直方向の磁場を与えると、スピンにはトルクが働き、回転運動が生じる。

今回、東京大学物性研究所の大谷義近教授(理化学研究所量子ナノ磁性研究チーム チームリーダー)、九州工業大学若手研究者フロンティア研究アカデミーの福間康裕准教授(理化学研究所量子ナノ磁性研究チーム客員研究員)、井土宏研修生(東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期課程)らは、スピン注入用トンネル接合界面の数を増やすとともに拡散する純スピン流の方向を一方向に制限することで、純スピン流の生成効率と出力信号を従来の単一界面の3.2倍に向上させることに成功しました。これにより、非磁性体である銀の中を、純スピン流が10μmもの長距離にわたって伝導する現象を観測し、外部磁場に対するスピンの応答も制御可能になりました。また、理論的な解析により、純スピン流の伝導距離が長くなるとともに、スピンの伝導時間がそろうようになり、銀中を流れるスピンは、外部磁場で集団的に(一斉に)回転することが明らかになりました。さらに、このスピンの回転運動は伝導する物質に普遍であることを実験的に示しました。

本成果により、純スピン流の伝導設計が可能になります。また、電界でスピンを制御する技術が開発されると、現在の半導体技術を上回る高速動作が可能なスピン演算素子の実現が期待できます。

プレスリリース [pdf]

論文情報

Hiroshi Idzuchi, Yasuhiro Fukuma, YoshiChika Otani,
“Towards coherent spin precession in pure-spin current”,
Scientific Reports Online Edition: 2012/09/04 (Japan time), doi: 10.1038/srep00628.
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