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イモムシの多様な紋様が生じるメカニズムを解明 たったひとつの遺伝子で制御

掲載日:2014年10月16日

蝶や蛾の幼虫(イモムシ)の体表に見られる目玉紋様は捕食者に対する警告的なシグナル、またカイコガの幼虫(カイコ)の祖先種クワコに見られるような茶褐色の紋様は枯れ枝にカモフラージュしているといわれています。カイコではこのような幼虫の紋様に加えて、合わせて15もの異なる紋様は染色体の特定の位置を占めている(p遺伝子座)突然変異に由来することが古くから知られていました。このような多様な模様はp遺伝子座の未知の遺伝子が生み出していると考えられてきましたが、その実体はこれまで全くわかっていませんでした。

カイコp遺伝子座に属する4つの突然変異体

© 2014 藤原晴彦
カイコp遺伝子座に属する4つの突然変異体
左の姫蚕では全く模様が見られない。一方、左から2つ目の形蚕では特有な斑紋がいくつかの体節にみられる。右から2つ目の暗色では、クワコの体表紋様に類似する。右の黒縞では各体節が黒い太い縞で覆われる。カキコではこれら以外に模様の異なる11種類の突然変異体が知られている。

今回、東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤原晴彦教授と依田真一大学院生らの研究グループは、多様な幼虫の紋様が一つの遺伝子によって創出されるメカニズムをカイコの突然変異体を用いて解明しました。分子生物学的な解析手法を駆使した結果、この遺伝子はApontic-likeという新規の転写因子であることがわかりました。apontic-like遺伝子の発現が幼虫の体表で変化することによりさまざまな紋様が体表に現れる一方、この遺伝子はアゲハなど他種のイモムシの紋様形成にも関わっている可能性が示されました。

今回の成果は、ある祖先種などからさまざまな形質をもった生物群が生じるような進化(分岐進化)や系統的に離れた生物間で似たような形質が生じるような進化(収斂進化)の基盤となっている遺伝的な背景を創出するメカニズムを研究する上で重要な知見をもたらし、イモムシの体表の紋様の研究が進化学や生態学の分野に大きな影響を与える優れたモデルとなりうることを示しました。

この成果は、イギリスの科学雑誌「Nature Communications」オンライン2014年9月18日号で公開されました。

プレスリリース

論文情報

Shinichi Yoda, Junichi Yamaguchi, Kazuei Mita, Kimiko Yamamoto, Yutaka Banno, Toshiya Ando, Takaaki Daimon & Haruhiko Fujiwara,
“The transcription factor Apontic-like controls diverse coloration pattern in caterpillars”,
Nature Communications 5 (4936) Online Edition: 2014/9/18 (Japan time), doi: 10.1038/ncomms5936.
論文へのリンク

リンク

大学院新領域創成科学研究科

大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻

大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 遺伝システム革新学分野

擬態を制御する機構(2008年プレスリリース)

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