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鉄系超伝導物質の転移温度が圧力下で4倍以上に上昇する謎を解明 明らかになった磁性と超伝導とのライバル関係

掲載日:2016年8月2日

© 2016 松浦康平ドーム状(緑)に見られる磁性相の消失した先に高い温度で超伝導状態(赤)が実現していることがわかる。

鉄系超伝導体セレン化鉄の圧力を変化させた場合に観察される状態
ドーム状(緑)に見られる磁性相の消失した先に高い温度で超伝導状態(赤)が実現していることがわかる。
© 2016 松浦康平

東京大学大学院新領域創成科学研究科の松浦康平大学院生、芝内孝禎教授、同物性研究所の上床美也教授らの共同研究グループは、鉄系超伝導体セレン化鉄において、8万気圧の高圧力を加えるとセレン化鉄が超伝導を示す温度(超伝導転移温度)が4倍以上にも上昇する現象は、超伝導を阻害していた磁性が圧力によって消えることで起こることを突き止めました。

熱エネルギーを失うことなく電気を通すことのできる超伝導現象を示す物質には、比較的高い温度で超電導を示す鉄系超電導体があります。これまでの研究によって、セレン化鉄は鉄系超伝導体の中でも変わった物性を示すことが知られています。特に最近発見された超伝導転移温度が高い圧力では4倍以上にまで上昇する現象の起源は、物性物理学の大きな謎の一つでした。

今回、共同研究グループは15万気圧に及ぶ圧力をかけた状態でセレン化鉄の結晶の電気的・磁気的性質が温度の変化とともにどのように変化するかを調べました。その結果、常圧(1気圧)では磁気的秩序を示しませんが、圧力をかけると2万気圧付近で突如磁性が現れ、磁性の現れる温度が4万気圧程度まで上昇すること、さらに高圧の6万気圧程度でこの磁性が消失する圧力領域で急激にセレン化鉄が超伝導を示す温度が高くなることが初めて明らかになりました。

これは、磁性が超伝導を阻害しており、磁性が消失することで高い転移温度を持つ超伝導が現れることを意味しています。

「セレン化鉄は常圧では、約マイナス264℃で超伝導を示すようになりますが、高い圧力を加えると約マイナス235℃まで転移温度が上がる変わった性質があります。この不思議な振る舞いを理解することが課題でした」と芝内教授は説明します。「今回、物性研の上床先生の高圧物性測定技術をお借りして、高温超伝導と磁性とがライバルの関係にあり、超伝導を阻害する磁性を抑えることが高い転移温度を得るために重要であることが分かりました。今後より高い転移温度を持つ超伝導体の開発への手がかりになれば」と話しています。

なお、本成果は、京都大学理学研究科の松田祐司教授、中国科学院、米国のオークリッジ国立研究所の研究者らと共同で得られたものです。

プレスリリース

論文情報

J.P. Sun, K. Matsuura, G.Z. Ye, Y. Mizukami, M. Shimozawa, K. Matsubayashi, M. Yamashita, T. Watashige, S. Kasahara, Y. Matsuda, J.-Q. Yan, B.C. Sales, Y. Uwatoko, J.-G. Cheng, T. Shibauchi, "Dome-shaped magnetic order competing with high-temperature superconductivity at high pressures in FeSe", Nature Communications Online Edition: 2016/07/19 (Japan time), doi:10.1038/ncomms12146.
論文へのリンク(掲載誌UTokyo Repository

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