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周期的な構造のないアモルファス物質に見つかった新たな特徴 遠く離れても互いに相関

掲載日:2016年8月30日

© 2016 Hajime Tanaka.赤色は剛性率の2点間の相関が正であることを、また、青色は負であることを示す。この結果、相関は距離の2乗に反比例して衰えることが明らかとなった。

2次元波数空間でのアモルファス物質の剛性率の空間相関
赤色は剛性率の2点間の相関が正であることを、また、青色は負であることを示す。この結果、相関は距離の2乗に反比例して衰えることが明らかとなった。
© 2016 Hajime Tanaka.

東京大学生産技術研究所の田中肇教授らの国際共同研究グループは、結晶のように周期的な構造をもたないアモルファス物質では、その硬さのゆらぎが、遠く離れていても独立ではなく、互いに関係していることをシミュレーションにより明らかにしました。このような長距離相関の存在は、結晶にはないアモルファス固体に特有の特徴であると示唆されます。

アモルファス物質は、結晶構造を示す物質とは低温で大きく異なる熱伝導特性、比熱の振る舞い、音波の吸収特性などを示すことが知られています。その違いが何に起因するのかは長年の謎であり、物質の性質を明らかにしようとする凝縮系物理学の最も深遠な未解決問題として認識されてきました。固体中では、原子は互いに実効的にばねでつながれているので、独立にゆらぐことはできず、安定な位置の周りで協同的に振動しており、この振動はフォノンと呼ばれています。これまで、アモルファス物質では、物質内の構造の乱れ(散乱)により、硬さが場所ごとに異なりそのためフォノンが乱されることが様々な物性に影響することが明らかになっていました。しかし、この硬さのゆらぎは遠くまでは及ばないと長年考えられてきました。

国際共同研究グループは、従来の常識に反し、実は、アモルファス物質の硬さのゆらぎには長距離の相関が存在すること、また、これにより従来提案されてきた散乱機構に比べ、長い波長のフォノンも大きく乱されることをシミュレーションにより発見しました。この成果は、固体が安定に存在するために満たさなくてはならない力の釣り合いの結果、遠く離れた二点が実は独立ではなく互いに影響を及ぼしあっていることが、アモルファス物質と結晶の物性の差異を理解する上で重要であることを強く示唆しています。

「固体は、液体と異なり、結晶、アモルファス物質にかかわらず、各原子の位置は力の釣り合いのもとに決まっていて大きくは動かないと考えられます。構造に乱れがあると、この釣り合いのもとでは、固体内の内部応力や硬さが、たとえ遠い距離でも独立にゆらぐことができなくなります」と田中教授は説明します。「このことは、一見当たり前のように思えますが、長年の間見落とされてきました。このことを認識することで、アモルファス物質の物性の理解が深まるものと期待しています」と続けます。

なお、本成果はフランスのナビエ研究所のグループと共同で得られたものです。

論文情報

S. Gelin, H. Tanaka, A. Lemaitre, "Anomalous phonon scattering and elastic correlations in amorphous solids", Nature Materials (2016) Online Edition: 2016/08/30 (Japan time), doi:10.1038/nmat4736.
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