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細胞の機能の初期化に関わるDNA修飾を測る新手法を開発 タングステンを使い、一工程で配列解析が可能に

掲載日:2016年12月15日

©  2016 Akimitsu Okamoto.ゲノム中の5-ヒドロキシメチルシトシンを一塩基ごとに測定するための新しい解析法は、ペルオキソタングステン酸を用いて、5-ヒドロキシメチルシトシンをチミン誘導体(thT)へ変換し、DNAのシーケンシング解析を組み合わせることによって可能になった。

ペルオキソタングステン酸によって5-ヒドロキシメチルシトシンのみを変換する反応
ゲノム中の5-ヒドロキシメチルシトシンを一塩基ごとに測定するための新しい解析法は、ペルオキソタングステン酸を用いて、5-ヒドロキシメチルシトシンをチミン誘導体(thT)へ変換し、DNAのシーケンシング解析を組み合わせることによって可能になった。
© 2016 Akimitsu Okamoto.

東京大学先端科学技術研究センターの岡本晃充教授、同大学院工学系研究科の林剛介助教、神山健太大学院生らの研究グループは、レアメタルのひとつ、タングステンを使うことによって、遺伝子が発現している状態を示す目印である5-ヒドロキシメチルシトシンを一塩基ごとに測ることのできる新しい解析法を開発しました。本解析法は、ゲノム中の5-ヒドロキシメチルシトシンの検出を簡便にするとともに、細胞の機能の初期化に関する知見の蓄積を加速して、ゲノム科学および再生医学研究へ貢献することが期待されます。

多くの多細胞生物では、遺伝子のスイッチを入れたり、切ったりするために、DNA中の塩基、シトシンから5-ヒドロキシメチルシトシンを作り出す反応があります。5-ヒドロキシメチルシトシンは、ヒトやマウスの万能細胞の一種であるES細胞や脳の組織で見つかっており、遺伝子の発現を制御する役割を担っています。これまで、5-ヒドロキシメチルシトシンを一塩基単位で解析するためにいくつかの手法が用いられてきましたが、いずれも反応が多数の工程にわたることやDNAを損傷する工程が含まれるという改良すべき点がありました。

研究グループは、まず、ペルオキソタングステン酸がDNAの中で唯一アリルアルコールを持つ5-ヒドロキシメチルシトシンのみと反応することを見出しました。この酸化反応は、5-ヒドロキシメチルシトシンをチミンのような構造へ変換するので、DNAの中に含まれる5hmCの場所を見つけ出すのを簡単にします。この反応は、一工程でのhmC一塩基解析へ応用され、ヒトの脳から採取されたゲノムDNAから新たなhmCシグナルが検出されました。

5-ヒドロキシメチルシトシンは、発生や細胞の状態を初期化するような基本的な生物のプロセスだけではなく、がんのような病気においても重要な役割を果たしています。

「今回の成果は、iPS細胞やES細胞などで初期化や分化がいつ、どうして起こるのかという疑問だけでなく、異常な細胞でどの遺伝子が必要とされているかというような、生命科学研究の根本的な疑問に答えるための助けになると期待しています」と岡本教授は話します。「私たちは、患者さんの細胞の中のエピジェネテックに重要なDNAの修飾をゲノム全体で調べるために、今回の分析技術を役立てたいと考えています」と続けます。

論文情報

Gosuke Hayashi, Kenta Koyama, Hidefumi Shiota, Asuka Kamio, Takayoshi Umeda, Genta Nagae, Hiroyuki Aburatani, and Akimitsu Okamoto, "Base-Resolution Analysis of 5-Hydroxymethylcytosine by One-Pot Bisulfite-Free Chemical Conversion with Peroxotungstate", Journal of the American Chemical Society Online Edition: 2016/10/22 (Japan time), doi:10.1021/jacs.6b06428.
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