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新しい方式の高品質タンパク質結晶製造システム 地上に擬似的微小重力環境を実現

掲載日:2016年6月14日

© 2016 田之倉 優超伝導磁石から発生する磁気力を利用した擬似微小重力環境でタンパク質の結晶化実験を行うためのシステム(システムの写真と擬似微小重力のイメージ図)。結晶化の様子をリアルタイムに観察可能。右は蛍光タンパク質の結晶成長の様子(結晶化開始から1~24時間)。磁場の向きは下から上。

高効率・高品位タンパク質結晶生成システム
超伝導磁石から発生する磁気力を利用した擬似微小重力環境でタンパク質の結晶化実験を行うためのシステム(システムの写真と擬似微小重力のイメージ図)。結晶化の様子をリアルタイムに観察可能。右は蛍光タンパク質の結晶成長の様子(結晶化開始から1~24時間)。磁場の向きは下から上。
© 2016 田之倉 優

東京大学大学院農学生命科学研究科の田之倉優教授らの研究グループは、超伝導磁石を利用した擬似的な微小重力環境で、高品質のタンパク質結晶をつくるためのシステムを開発しました。結晶が作られる過程をリアルタイムで観察でき、効率のよい実験が可能です。本システムは構造生物学の基礎研究およびバイオテクノロジーの発展に貢献すると期待されます。

生物にとって重要なタンパク質の機能を深く理解し、新しい医薬品や酵素などの開発に結び付けるために、タンパク質の立体構造情報は非常に重要です。しかし、精密な立体構造を決定するために必要な高品質のタンパク質結晶をつくるには、数千にも及ぶ実験条件をしらみつぶしに調べなければならないのが現状です。一方、宇宙のような重力がわずかにしか働かない環境では、対流が抑えられることにより、高品質結晶が得られやすいことが知られており、重力の影響を排除したような環境でタンパク質結晶を効率よく作製できる実験装置の開発が望まれていました。

研究グループは、超伝導磁石の強力な磁場によって結晶化試料への重力の影響を打ち消すと同時に、結晶化実験の様子を観察できる機能を備えたシステムを開発しました。本システムでは、一度に多数の試料溶液をセットし、その溶液中での結晶成長の様子をリアルタイムに知ることができるため、結晶の有無を確認するために実験を中断して試料を取り出す必要がなく、効率の良い実験が可能です。

「今回開発したシステムを用いて作ったタンパク質の結晶と通常の方法で作った結晶とを比較しました」と田之倉教授は話します。「すると、このシステムを用いて作った結晶の方が、品質が高いだけでなく、品質のバラつきも小さいことがわかりました。今後、構造生物学の有力な研究ツールになると期待しています」と続けます。

本システムは国立研究開発法人物質・材料研究機構、株式会社清原光学、味の素株式会社、京都大学と共同開発したものです。

論文情報

Akira Nakamura, Jun Ohtsuka, Tatsuki Kashiwagi, Nobutaka Numoto, Noriyuki Hirota, Takahiro Ode, Hidehiko Okada, Koji Nagata, Motosuke Kiyohara, Ei-ichiro Suzuki, Akiko Kita, Hitoshi Wada, and Masaru Tanokura, "In-situ and real-time growth observation of high-quality protein crystals under quasi-microgravity on earth", Scientific Reports Online Edition: 2016/02/26 (Japan time), doi:10.1038/srep22127.
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