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磁場に強い特異な超伝導状態の観測に成功 FFLO状態の実験的検証

掲載日:2014年11月26日

東京大学大学院工学系研究科の宮川和也助教、鹿野田一司教授、仏グルノーブル国立強磁場実験施設と米ブラウン大学の国際共同研究チームは、強い磁場の下で超伝導が一部消滅するものの生き残る特異な状態(FFLO状態)が存在することを示す実験に成功した。

層状有機超伝導体の磁場-温度相図。図の縦軸は磁場(単位はテスラ)、横軸は絶対温度。灰色で示した強い磁場の領域でFFLO状態が観測された。実験は実線に沿って行われた。常伝導状態は電気を流すことのできる超伝導状態になっていない状態。超伝導状態ではないため電気抵抗は有限の値をもつ。

© 2014 鹿野田 一司
層状有機超伝導体の磁場-温度相図。図の縦軸は磁場(単位はテスラ)、横軸は絶対温度。灰色で示した強い磁場の領域でFFLO状態が観測された。実験は実線に沿って行われた。常伝導状態は電気を流すことのできる超伝導状態になっていない状態。超伝導状態ではないため電気抵抗は有限の値をもつ。

超伝導は、発熱を伴わずに電気抵抗がなく電流が流れる劇的な現象であることから、物理学とその応用の両面から盛んに研究されている。超伝導は磁場のある環境下で利用されることが多いが、強い磁場を加えると超伝導は消滅する。このため、強磁場下の超伝導の振る舞いは最も重要な課題のひとつとなっている。超伝導は、電荷を持ち微小な磁石でもある電子が対(クーパー対)を作ることで現れる現象である。磁場は、クーパー対の運動を誘発するとともに、クーパー対内で反対向きに打ち消しあっている微小な磁石を磁場方向にそろえようとする。この2つの効果は共にクーパー対を破壊するように作用し、磁場が強くなると、超伝導は破壊される。しかし、さらに強い磁場中では、一部のクーパー対が破壊されるものの生き残っているクーパー対がその対の濃度を空間的に波打たせることで超伝導が維持される特異な状態(FFLO状態、FFLOは提唱者4名の名前の頭文字)が存在し得ることが古くから理論的に提唱されていた。その存否を巡ってはさまざまな物質を対象に実験がなされてきたが、未だ決定的な証拠は得られていなかった。

共同研究チームは、有機超伝導体に強い磁場を加えて、超伝導状態を核磁気共鳴実験で調べることにより、FFLO状態を捕らえることに成功した。この成果は、超伝導の応用においても、従来の磁場による超伝導消失機構を越えて磁場の限界を引き上げる可能性を示唆している。

論文情報

H. Mayaffre, S. Kramer, M. Horvatic, C. Berthier, K. Miyagawa, K. Kanoda, V. F. Mitrovic,
“Evidence of Andreev bound states as a hallmark of the FFLO phase in κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2 ”,
Nature Physics Online Edition: 2014/10/26, doi: 10.1038/nphys3121.
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